Vol.91
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コンプライアンス推進部と法務部は、管理職を含めて34名の陣容。中途入社者と新卒入社者の割合はほぼ同じで、中途入社者の前職は、エンジニアや司法書士など多様。なお両部から、経営企画、営業、渉外広報、秘書室、内部監査、人事などの管理職を多く輩出している

コンプライアンス推進部と法務部は、管理職を含めて34名の陣容。中途入社者と新卒入社者の割合はほぼ同じで、中途入社者の前職は、エンジニアや司法書士など多様。なお両部から、経営企画、営業、渉外広報、秘書室、内部監査、人事などの管理職を多く輩出している

THE LEGAL DEPARTMENT

#160

日野自動車株式会社 コンプライアンス推進部/法務部

リーガルマインドを磨き、コンプライアンス強化と事業貢献に寄与する法務"人財"を育成

二部協働で法的支援強化

日野自動車株式会社は、「人、そして物の移動を支え、豊かで住みよい世界と未来に貢献する」を掲げ、「トラック・バスを通じて社会に価値を提供する」大手商用車メーカー。トラック・バスにおけるEV、FCV(燃料電池自動車)、PHV(プラグインハイブリッド)などの次世代商用車開発や、自動運転、CASE技術を活用した新たな物流ソリューションの提供にも挑戦している。国内市場に加えて海外市場、特にアジア市場への販売強化を進め、収益構造の再構築を目指す。一方で、2022年に公表した認証不正を教訓として、コンプライアンスの強化とリーガルマインドの向上へ、全社一丸で取り組む。その取り組みの中核を担うのが、コンプライアンス推進部と法務部。まず、コンプライアンス推進部部長の佐々木章雄氏に、同部の仕事をうかがった。

「当社は不正の事実とステークホルダーの皆さまからのお叱りを真摯に受け止め、法令遵守の徹底と信頼回復を目指し、倫理教育の徹底を図っています。そこでコンプライアンス推進部が果たす役割は大きく2つあります。一つは、未然防止。経営層を含む全従業員がコンプライアンス意識を徹底し、法令や規則に基づいて行動するよう、全社的な教育プログラムの導入、AIを活用したメールモニタリングなどで支援しています。もう一つは、起きてしまった不適切事案への対応。内部通報窓口の運用で、法令違反や不正行為の早期発見・是正に関する業務を担っています」

法務部の仕事について、法務部部長の河野昌俊氏にうかがった。

「法務部は、契約書の検討支援、法律相談、訴訟対応といった一般的な法務業務に加え、株主総会の法的側面支援、重要事項決裁書(稟議書)のルール策定・運用、社印の管理などを行っています。コンプライアンス推進部と法務部は元々一つの部だったこともあり、柔軟に連携して業務を分担しています。経営統合や海外での事業再編などの重要プロジェクトにおける法的支援、訴訟対応の一部などに関しては、コンプライアンス推進部と協働で行っています」

日本と世界各国に約70のグループ会社を有する同社は、グローバルグループのコンプライアンス体制強化も喫緊の課題だ。

「従来から法務やコンプライアンスの強化を進めておりますが、各業務をしっかりと担える人財を育成・増員し、その体制を整えてきました。法務やコンプライアンスの業務ニーズが増大していることもあって、お互いの担当業務をカバーし合っています」(佐々木氏)

日野自動車株式会社
メンバーは、キャリアにかかわらず議論を交わし、協力して最適解を探っていく。「両部とも他部署からの異動者や中途入社者も多いのですが、みな適応力が高く、一つの目標にチームで向かう力が強い」と、佐々木氏

チームワークと主体性のバランス

同社は23年5月、三菱ふそうトラック・バス株式会社との経営統合に向けた基本合意に達し、現在その統合プロセスが進行中である(24年10月時点)。「経営統合プロジェクトの検討が進むにつれて法的な業務は増えていきます。法務部内のメンバーは全員、新しい未来をつくるために、主体的に取り組んでくれています」と、河野氏。そうした経営統合や新規ソリューション事業など大規模プロジェクトの支援が複数進行するなか、23年9月に即戦力で入社したのが保科佳希氏だ。保科氏に、法務部でのやりがいをうかがった。

「印象深いのは、24年6月の株主総会業務に携わったことです。以前は司法書士事務所に勤務する司法書士でしたので、中小企業の株主総会の議事録作成といった後方支援的業務は経験してきました。しかし、事業会社の一員として、法務部やコンプライアンス推進部のメンバーとチームを組んで“一からつくり上げていく”経験は初めて。招集通知や議事録の記載に法的問題がないか一言一句に気を配り、招集通知のデザインを検討するといった細かな部分まで全員でやりきれたことは、得難い経験となりました」

株主総会関連業務は、関連部署のメンバーとの協働も多い。

「総務部など他部署との連携、社長や取締役との頻繁な対話などで、事業会社の法務の醍醐味を実感しました。事務所時代はクライアントを“外側から支援する”といったサポート経験しかありませんでしたが、この業務を通じ、ビジネスの当事者として主体的にかかわる面白さを知りました。私自身の経験値が高まったことを、実感しています」(保科氏)

会社法の知見を有する保科氏。株主総会関連のほかに、今後は別の業務にも挑戦することになる。

「私たちは会社法をはじめ、独占禁止法、下請法、海外での契約関連など様々な法律・分野をカバーします。そのため、法務部内では一定期間で業務ローテーションを実施。チームのメンバーにも、会社法以外の法律・分野で多くの経験を積んでもらいたいと思っています」(河野氏)

「当部も同様で、人数が足りないという事情はあるものの、人財育成の観点からも、部内ローテーションや法務部との協働を行っています。コンプライアンス推進とは、突き詰めれば“人の行いや人そのもの”を見て、“人づくり”にかかわっていくこと。そのためには自らの視野を広げる必要がある。例えば当部なら“内部通報対応”だけを担当するのではなく、法務部で株主総会に向けた実務も学んでもらう。そのようにして双方の業務領域で経験を積み、各自スキルを高め、視野を広げていってほしいですね」(佐々木氏)

保科氏が転職して得たものはもう一つ、ワークライフバランスの充実だ。

「当社は、23年5月からオフィス勤務とリモート勤務を組み合わせたハイブリッドワークを導入し、場所にとらわれない柔軟な働き方を推奨しています。私には保育園に通う娘がいるので、共働きの妻と協力しながら育児をするなど、家族との時間を持てるようになりました。『みんなが働きやすい環境をつくっていこう』という風土で、管理職の方々が率先してリモート勤務を行うので、フレックス制度を含めて、働き方を選択しやすい。子育て世代の私にとっては、とてもありがたい環境です」(保科氏)

日野自動車株式会社
環境に配慮し、ドライバーにとって実用性の高い低炭素車両の導入を実現するために開発された、同社初の本格EV「HINO DUTRO Z EV」(小型BEVトラック)。宅配業務などの市街地走行に必要な、先進・安全技術を搭載している(提供:日野自動車)

事業全体を鳥瞰し支援・貢献する

コンプライアンス推進部が掲げるミッションは、「違反が生まれず、隠れず、放置されない職場づくりと人づくり」、これを先頭に立って強力に支援していくこと。一方、法務部のミッションは「日野グループ全体のコンプライアンスとガバナンス向上、および法的リスク軽減と適正な発展に貢献する」。

「コンプライアンス推進部の大きく2つある役割のうち、起きてしまったことへの対応は、外部の法律事務所の力も借りながら比較的早く習熟できる業務だと考えます。一方、未然防止は、幅広いアクションが要求されるので、習熟の難易度も高くなります。企業体質を変えるための提案などを、弁護士など外部のプロフェッショナルに相談しつつ、企画立案、ノウハウを獲得していますが、今後は、より自律的な動きにつなげる必要がある。当社の『コンプライアンスプログラム』を内部の力で推進していこうと考えています」(佐々木氏)

そのためには「内部のロジック・感性と、世間のロジック・感性がずれないよう、“新しい血液(人財)”を入れていくこと、そして内側の人財が積極的に社内・社外に出向き、見聞を広め、世の中の動きにアンテナを張ることが肝要」と、佐々木氏は語る。河野氏も同意見だ。

「自動車業界は変革期の渦中にあり、事業のパートナーや世の中のニーズは益々多様化してきました。多様化する社会の中でリーガル人財が貢献するためには、法的知見だけではなく、CSRDや物流問題など社会課題の解決もマインドとして心に携えることが求められていると感じています。そのように柔軟な視野を持ち、営業、商品企画、R&D、生産、調達といった部門と伴走し、事業に貢献しようというマインドセットを持ち続けられる部でありたいと思います」(河野氏)

日野自動車株式会社
コンプライアンス推進部の若手が発案して制作した社内啓発用のポスター。「カジュアル過ぎるという意見もありますが、メンバーが進めたいことは全面的に応援します」(佐々木氏)