法務サブユニットに所属する弁護士は、どのようなやりがいを感じているのか、次の3名に伺った。
1人目は、法令審査や文書審査を主に担当する石井奏氏。
「私は主に、マイナンバー法やデジタル手続法をはじめとして、デジタル庁が所管するすべての法令の新設改廃や、デジタル庁が立案する公式文書の正確性・適法性を審査しています。私が弁護士として行ってきた業務の多くは、すでに成立した法律や、(裁)判例その他既存の解釈をもとに個別事案の問題解決を図るものでしたが、デジタル庁での仕事は成立前の法律などについて、内容的・形式的な正確性を審査することが主眼です。今まで弁護士として行ってきた業務とは〝見るべき視点〟と〝発想〟の両軸が異なるため、入庁当初は〝視点の変換〟に苦心しました。しかし、日頃使用している法律の成立過程の一端に携わることができるので、省庁業務ならではの醍醐味を感じています」
2人目は、デジタル改革企画(法制・制度)の部署で、法制事務のデジタル化などに関与している蜂須明日香氏。
「法令案を策定するためには、各省での立案、内閣法制局での審査といった様々なプロセスを経る必要があります。このような業務は〝法制執務〟と読ばれていますが、アナログの作業が多く、経験値の高い職員でないと円滑な対応が困難と考えられていることから、これらの業務のデジタル化・効率化を図ることが担当業務の一つです」
また、アナログ規制の撤廃という取り組みがあり、それに関する業務も、蜂須氏の仕事の一つだ。
「公示送達のデジタル化の対応が一例です。庁内のプライバシーガバナンスのチーム、セキュリティのチームなど、行政・民間を問わず最先端の技術に詳しい庁内のプロフェッショナルとの協働が、とても刺激になっています」
蜂須氏は、他省庁(消費者庁)での勤務経験もある。
「どのような目的で、どの工程をデジタル化すべきか検討し、運用などのあり方を変えていく――そうした変化を受け入れていくにあたっては、作業工数が増えるなど、〝現場〟にとって負担に感じられる場合もあるものです。省庁の業務は多岐にわたるため、すべてを理解しているとは言えませんが、わずかながら他省庁での勤務経験があることで、デジタル化による現場への影響の想像がつくこともあります。ですから〝現場〟の状況を踏まえつつ、デジタル社会の共通基盤をつくるといった大きな目標に、どのような道筋で進んでいくべきかを探りながら仕事をすることに、やりがいを感じます」
その蜂須氏と同じ班に所属するのが、上田知季氏だ。
「私は、デジタル分野に関する法令の解釈について、他省庁や自治体からの問い合わせへの対応を含め、多岐にわたる業務に携わっています。元々〝テクノロジー×法律〟の領域に強い関心があり、所属先の法律事務所で先端的なテクノロジーに関する案件に携わるうち、もっと詳しく同領域について学びたいと考え、米国に留学しました。帰国後、〝テクノロジー×法律〟の領域において、通常の弁護士業務とは異なる立場から見識を深めるため、デジタル庁で働くことを選び、現在に至ります。入庁前はバックオフィス的な仕事が多いかもしれないと想像していたのですが、実際には、生成AI事業を行うスタートアップ企業と協働するプロジェクトに携わるなど、生成AIの技術的な側面も学びつつ、〝テクノロジー×法律〟の最前線で仕事ができていると感じています。これらは、法律事務所では出会えない貴重な経験だと思います」