Vol.79
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法務部内は事業領域ごとに担当室を分ける。独占禁止法、贈賄禁止法、制裁対応・貿易安全保障など重点分野にかかわるタスクフォースや対応チームが部横断で随時組成される

法務部内は事業領域ごとに担当室を分ける。独占禁止法、贈賄禁止法、制裁対応・貿易安全保障など重点分野にかかわるタスクフォースや対応チームが部横断で随時組成される

THE LEGAL DEPARTMENT

#117

三井物産株式会社 法務部

法務の型にはまらないキャリア選択も!グローバルレベルで多様な“個”が集結

経営に貢献できる法務部として

国内外の拠点を合わせ、160名超の法務部員を擁する三井物産株式会社。法務部では2017年から、米州・欧州など地域ごとに敷いていた担当制を取りやめ、事業領域別の担当制に変更。本件を実行した執行役員・法務部長の高野雄市氏は、「法務部員一人ひとりが、各事業部および経営に資する当事者としての意識を高く持つための決断でした」と語る。

「それと並行して行ったのが、法務部員に社内出向を通じて“前線を経験させる”こと。営業現場のみならず、経営企画部や人事総務部など経営判断を支える他部署で法務専門性に裏打ちされた経験を積むことで、自身はもちろん、法務部のプレゼンスを高める効果を上げています。我々が経営に資するとは、真のリーガルアドバイザーになること。その感覚を養うために、私自身がメンバーである社内の投融資案件審議会――規模感が大きく難易度の高い案件を審議する社内会議――で審議された案件について、法的にどのような検討をしたか、経営目線でどのような議論がなされたかなど、メンバーに情報共有しています」

  • 三井物産株式会社
    2020年完成の新本社ビル。全社で、組織ごとのフリーアドレス制を導入。「コミュニケーションエリア」を設置するなど、多様な“個”の集まり・つながりの機会を増やし、一人ひとりの“成長の加速”を目指す
  • 三井物産株式会社
    法務部の構成は、企画法務室、コンプライアンス室、総合開発室、および事業領域ごとに金属・流通事業法務室、エネルギー法務室、機械・インフラ法務室、化学品・食料法務室、ウェルネス・次世代法務室となる

意図的に広げている予想外の活躍の場

他部署を経験したメンバー3名に、そのやりがいなどをうかがった。まず現在、エネルギー法務室・室長を務める服部真理氏。

「私は2度の営業部配属経験があります。営業部内で発生する法務業務担当だけでなく、一営業部員として働いた経験も。私が携わったモザンビークLNGプロジェクトは、世界有数の埋蔵量を誇る超大型プロジェクト。契約交渉のみならず、ステークホルダーとのミーティングに同席するなど、エキサイティングな仕事を経験しました。法務部を飛び出し、現場でどのような業務が行われているか体感したことにより、本当に必要とされている法務支援ができるようになったと思います。商社法務はグローバルかつ多様な分野で営業部と一体となって仕事ができる。語学力が生かせて世界を身近に感じられるという点も、非常に魅力的です。エネルギー分野では近年、脱炭素やESG経営につながる新たなプロジェクトも次々と発足しています。そうした最先端事業にかかわれることも醍醐味です」

現在、人事総務部に社内出向中の佐藤香織次長は、経営に非常に近い部署での経験を積んできた。

「私は監査役室への社内出向を経験しました。当社は監査役会設置会社ですが、コーポレートガバナンスコードの改訂以前から社外役員の意見を尊重して、執行の監督および内部統制の維持を行っています。社外役員の知見を活用して内部統制・ガバナンスに生かすには、専門性の高い支援が必要であると実感する日々でした。監査役の方々は、会社法の第一線の弁護士や、検事総長・公認会計士協会会長を務められた方など“その道のプロ”ばかり。スタッフも同じレベルで対応できるよう、必死に勉強し情報収集する日々でした」

監査役室の業務では、特に組織横断的な連携が重要となる。

「監査役室は取締役会をはじめ様々な機関・部署とかかわります。“社内出向”で、他部署とのつながりもあったので、そこで情報収集したことを生かし、『会社法上ではなく、三井物産としてガバナンスを解釈した場合、何が大切になるのか』と、本などで得たことを“立体的に起こして考える”ことができたわけです。専門的な知見を有する監査役を支えることは、法務部で培った会社法のスキルだけでなく、当社内の様々な部署の動き、働き方などをミックスして考えないとできない仕事でした」

そうした動きが、監査役から、ある実感を引き出した。

「『弁護士など法務の素養のある人が、会社制度の根幹を考えるような経営企画や人事企画などの部署でもっと活躍すべき』と監査役に言われたことがきっかけとなり、その後、人事企画室に社内出向することに。指名委員会や報酬委員会の事務局として対話するなかで、経営幹部が真剣にガバナンスについて考え、インテグリティを中心に据えた経営を行おうとしていることを実感し、それを施策に落とし込むという業務を経験しています。役員報酬制度の改革など、透明性を担保した企業のあるべき姿を追求できることも大きいです」

総合開発室・室補の藤本智穂氏は、商社法務ならではの海外駐在経験者である。そのキャリアの魅力を話してくれた。

「私は、入社後にビジネス法務室で経験を積んだ後、中国での語学研修や米国LL.M.を修了、さらにコンプライアンス室で、コンプライアンス事案対応や全社的なコンプライアンス制度にかかわる様々な取り組みを、企画法務室で株主総会・取締役会事務局担当を経験しています。米国ロースクール修了後は、すぐ上海に赴任。当時は上海の拠点にはまだ法務部がなく、業務部の一メンバーとしての配属でした。まさに現場の仕事に携われたことは得がたい経験です。例えば許認可の問題一つとっても、何らかの問題が生じた際は、『法律ではこうだから』で済むことはほとんどなく、『当局に行って確認しましょう!』とすぐに出向き、現地当局とやりとりする。理屈がとおらない現場の難題を、営業や物流や経理など他の複数部署のメンバーも総動員で解決するというケースも多々ありました。当時のチームメンバーとの絆は、今でも私の宝物です」

藤本氏は現在、法務人材の教育や業務効率化のための法務DX推進の中心的役割を果たしている。

「本店・海外拠点どこにどんなニーズがあるか、肌感覚で理解しています。様々な部署を経験したからこそ、相手のニーズをつかんで吸い上げる力が身につきました」

三井物産株式会社
総合開発室主導で、「スモールグループディスカッション」という、先輩・後輩が顔を合わせて話ができる場を企画。新型コロナ下でも活発なコミュニケーションの機会を維持した

一体感の醸成と高度法務人材の育成

“社内出向”や本店法務部と海外拠点間の転勤・研修による人材交流の背景には、「グローバルベースでの法務部員一体感の醸成および高度法務人材の育成という目的がある」と、高野氏。同社の採用は、本店採用のスタッフと海外拠点採用のスタッフの2種類。法務部の場合は、“グローバルグループの法務部員は全員仲間であり、一つのネットワークを成している”というグローバルコーポレートスタッフ制の下、社内で最も多様性の受容が進んでいる部署と言われる。

「国内外、新卒入社・キャリア入社者など問わず、優秀な人材はより経営に近いところで活躍してもらえるよう、しっかり育成していくことを強く意識しています。藤本がかつて一緒に働いた上海の女性弁護士は、三井物産貿易有限公司(上海)の法務部長となり、中国の法務業務の中核人材となっています。またロサンゼルスのリージョナルオフィサーには、アメリカ国籍の法務部メンバーが着任しています。このように経営に近いところで活躍できる人材を法務部としてさらに輩出していきたいです」(高野氏)

最後に、高野氏に理想とする法務部の姿についてうかがった。

「今、企業・ビジネスを取り巻く環境は大きく変化しています。商社は特に、常に変化を先読みしながら新たなビジネスをクリエイトしていくことが使命であり、私たち法務部員もまた同様に、時代の先を読み、事業のスピード感に乗り遅れず、しっかりと自らのエクスパティーズを身につけていかねばなりません。それをまず一人ひとりができる環境を整備・進化させていきたい。そのうえで、単なるリーガルカウンセルではなくゼネラルカウンセルの立場、あるいは意識で、経営や各営業部・事業に対してサポートやアドバイスを行える人材を育成していきたい。そもそも企業法務部門の使命として、法務分野については私たちの判断が求められるわけであり、これは非常に大きな責任が課せられるものです。しかし、それは責任ある重要な役割を任されているということであり、そこを理解してこそ、本当の企業法務業務の面白さが感じられるはず。ガーディアンとして、時に事業を止める判断をしなくてはならない場面もあるかもしれませんが、なんとかビジネスを前に進める道はないか、こだわりながら可能性を探る気概も身につけてほしい。そのためにも、現場に寄り添い、事業部などとチーム一体で挑む。一人ひとりが何かに秀でた能力を持ち、この人になら相談したいと信頼される法務部員の集まりでありたいです」

※取材に際しては撮影時のみマスクを外していただきました。