Vol.95
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法務部を置く拠点は、本社を入れて世界10拠点で、約55名を擁する。約20名が所属する日本の法務部は、契約法務や紛争対応などを行う法務チームと、コーポレートガバナンスおよびコンプライアンスや内部通報対応などを行うガバナンス・コンプライアンスチームの2チーム体制となっている

法務部を置く拠点は、本社を入れて世界10拠点で、約55名を擁する。約20名が所属する日本の法務部は、契約法務や紛争対応などを行う法務チームと、コーポレートガバナンスおよびコンプライアンスや内部通報対応などを行うガバナンス・コンプライアンスチームの2チーム体制となっている

THE LEGAL DEPARTMENT

#169

株式会社アシックス 法務部

世界10拠点に広がる法務をつなぎ、“グローバル・ワンチーム”で変革に挑む

フラットでオープンなグローバル法務体制

株式会社アシックスは、国内外に65社のグループ会社を有する、神戸発祥のグローバル企業だ。シューズやアパレルなどの製品提供に加え、近年はデジタルテクノロジーを活用した顧客体験の拡張、地域・世代を超えたスポーツ参加の機会創出などにも力を注ぐ。

この事業展開を支える法務部の特徴を、執行役員法務部長の和泉絵里子氏に聞いた。

「最大の特徴は、〝グローバル・ワンチーム〟であることです。複数の国・地域にまたがるプロジェクトが多く、各リージョンの法務メンバーと本社法務がチームを組み、各国の法制度や実務に基づく対応策を持ち寄って統合しながら進めていく――そうしたプロセスが確立されています」

和泉氏は10年ほど前から連携体制の構築に着手し、一歩ずつこの関係性を育んできた。当時の法務部はわずか3拠点。現在は、本社を含み世界10拠点に拡大している。強固な連携体制は、「フラットな組織文化に支えられている」と、法務チームの吹田三奈斗氏。

「当社の体制は、本社一極集中型ではなく、各リージョンが横でつながるネットワーク型です。本社が策定する戦略・全体方針のもと、実際に事業を推進するのは各リージョン。事業アイデアの提案など、〝現場からの発信〟に対して、各リージョンの法務メンバーも〝法務的チャレンジ〟を積極的に行い、本社と共有します。リージョンと本社の間に上下関係はなく、世界各地の法務メンバーが、和泉と同じ視点に立って戦略を共有し、多様かつ挑戦的な提案を直接レポートする体制です。こうしたフラットでオープンな関係性が、当社の法務組織の強みだと思います」

年1回開催のグローバルリーガルミーティング。世界10拠点から約50名が参集。事業部や、サステナビリティー部などのメンバーとも議論する

地域・言語の違いなく一体感を持って挑む

同社では、2019年にカテゴリー経営体制を導入し、本社と事業会社の役割を明確化し、収益性を大きく改善した。成長をさらに加速させるべく、「中期経営計画2026」のなかで、「Global Integrated Enterpriseへの変革」を掲げ、よりダイナミックな経営を目指し、グローバルで全体最適を進めている。

「法務部も、〝カテゴリー〟ごとの戦略サポートやグローバル最適を進めています」と、和泉氏。同部では、廣田康人代表取締役会長CEO直下の、「Cプロジェクト」(トップランナー向けに〝勝てるシューズ〟を開発する、〝パフォーマンスカテゴリー〟の中核施策)を推進するにあたり、知財部と連携して無形資産としての企業価値を保護する。さらに、事業成長が著しい〝ラグジュアリーライフスタイルブランド〟の「オニツカタイガー」には専属の法務メンバーを配置し、ブランド価値の維持・強化を図るなど、カテゴリー戦略を法務面から支える体制を整備している。

「また当社には、エンドユーザーに向けた『OneASICS』というデジタル戦略の中核を担うプラットフォームがあります。お客さまに会員となっていただき、価値ある製品やサービスなどの提供を通じて、ブランド体験価値の向上に貢献する仕組みです。ランナー向けには、レースへの参加・登録、トレーニングなどを包括的にサポートする『 ランニングエコシステム』を展開しています。これらのサービスから得られた個人情報の利用にあたっては、世界各国・各地域のデータプライバシー規制遵守のための体制構築が重要となっています」(和泉氏)

同部では、和泉氏を中心として19年にグローバルプライバシーチームを立ち上げ、各国の法務メンバーを巻き込みながらデータプライバシー規制への対応、および体制づくりを進めてきた。24年からは、和泉氏の役割を引き継ぐかたちで、データプライバシー専任のルクサンドラ・ヘラストラウ氏が、グローバルプライバシーチームをリードしている。

ルクサンドラ氏に、印象に残る仕事について聞いた。

「一つは、プライバシーデータ処理契約書のグローバル標準化です。従来は地域ごとに契約様式やレビュー基準が異なり、交渉のたびに調整が必要でしたが、共通指針を策定したことで、どの地域でも同じ基準で契約を確認できるようになりました。ある地域でレビュー済みの契約を、ほかの地域にも共有し、整合性を保って再利用する。この〝知の共有〟により、契約交渉の精度とスピードが格段に高まりました」

「知見を資産として循環させる。それが当社のグローバルプライバシーの文化です」と、ルクサンドラ氏。「インシデント対応のプロセスづくりも印象深い」と、続けて話す。

「インシデント発生時に世界中の拠点が同じ手順で動けるよう、グローバル・インシデント対応フローを構築し、報告から対策までをデジタルプラットフォーム上で共有しています。各地域の法務・情報セキュリティ・マネジメントが即座に連携できる体制を整えたことで、GDPR(一般データ保護規則)の72時間ルールにも確実に対応できるようになりました。時差も文化も超えて一斉に動くその瞬間は、ワンチームとして機能していることを強く実感します。地域や言語の違いは障壁にはならず、多様な専門性が重なり合うことで、より強い信頼のネットワークが生まれていく。世界中の仲間とともに消費者と企業、双方を守るための強い基盤を築けていると感じます」

  • 創業哲学「健全な身体に健全な精神があれかし」を表すブランドスローガン「Sound Mind,Sound Body」を掲げ、“スポーツを通じて心身の健康と豊かな社会の実現を目指す”同社。写真は直営店「ASICSKOBE」(アシックス神戸)。
  • 両足の足形を約30秒で測る独自の3D計測システムを導入し、「OneASICS」に計測データを保管するといったサービスも顧客に提供する

変革を恐れないこと、経営的視点を持つこと

同社には、「最も適任な人が、最適な場所で、最適な仕事をする」という考え方がある。和泉氏は、「私たちは、〝どこにいるか〟ではなく、〝誰がそのロールに最も適するか〟を基準に考えます。必ずしも日本で勤務する必要もなく、個々の事情も配慮しながら、世界中の人財が、最も力を発揮できる環境を整えます」と語る。国や拠点を超えて人財が循環することで、まさに〝グローバル・ワンチーム〟として機能する組織が出来上がる。

吹田氏は言う。

「当社は、外国人社員の積極的な登用と、適材適所への配置を進めています。この取り組みの一環で、ルクサンドラは本社に籍がありますが、通常はヨーロッパオフィスに常駐しています。データプライバシーの機能以外でも、デジタルやマーケティングの機能を米国や欧州に置くなど、柔軟な組織設計をしています。本社プロジェクトを海外子会社メンバーが主導する――そんな事例も多数あります」

「また、あらゆる挑戦を後押し進める文化もある」と、和泉氏。

「チーム連携が基本なので、チームプレイヤーであることは必須ですが、もう一つメンバーの資質で重視しているのは、〝変革を恐れないこと〟です。法務の人間は、どうしても細かい点に目を向けがちですが、小さなリーガルリスクだけに注目していると、〝ビッグピクチャー〟を見失ってしまいます。各部門の戦略やニーズを理解し、スキームづくりなどの初期段階から法務部がサポートする。加えて、経営が何を目指しているのかというゴールを理解したうえで、法務として何をすべきかを全員が考えられる――そのようなグローバル組織を目指しています」(和泉氏)