Vol.97
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法務コンプライアンス部の陣容約30名のうち、法務室には8名が所属。司法修習55期、68期、73期(2名)、および米国の弁護士資格者が在籍。ただし、資格の有無にかかわらず、様々な案件を各メンバーが担当する

法務コンプライアンス部の陣容約30名のうち、法務室には8名が所属。司法修習55期、68期、73期(2名)、および米国の弁護士資格者が在籍。ただし、資格の有無にかかわらず、様々な案件を各メンバーが担当する

THE LEGAL DEPARTMENT

#174

テルモ株式会社 法務コンプライアンス部 法務室

最先端ヘルスケアビジネスの法的知見を磨き、グローバルに拡大する事業を支える

戦略案件の拡大によりグローバル連携も深化

テルモ株式会社は、心臓血管領域、メディカルケアソリューションズ領域、血液・細胞テクノロジー領域を中心に事業を展開する日本発のグローバル医療機器企業だ。海外売上比率は約8割に達し、クロスボーダーM&Aやデジタルヘルス分野への投資も加速。事業の拡大とグローバル化に伴い、同社法務室の業務も高度化・複雑化しつつある。室長の水谷嘉伸氏に、法務室の業務について聞いた。

「法務室では、各部門から寄せられる法律相談、契約審査、紛争対応、社内研修に加え、M&A・投資・提携などの戦略案件を担っています。近年はM&A・投資を含む海外案件が増えており、米国、欧州、中国、シンガポールなど主要拠点に配置されたリーガルチームとの連携を強めています」

法務コンプライアンス部に属する法務室のメンバー8名のうち7名が中途採用者。事業規模に照らすと少数精鋭チームといえる。一方、テルモグループ全体では、約150名の法務・コンプライアンス人材を擁する。日常的な案件は各地域で対応し、M&Aなどのクロスボーダーの戦略案件は法務室と各地域のリーガルチームが協働して遂行。大手法律事務所出身で、グローバル企業法務部への出向経験がある中澤優子氏は、こう語る。

「文化や時差、法解釈の違いなどから、一般的にハードルが高いとされるグローバル連携ですが、当社では現地のリーガルとの連携が円滑に機能していると感じます。例えば、重要な会議や書面ドラフトには、海外の案件であっても初期段階から私たちが関与。現地の状況をオンタイムで共有し、一つのチームとなって一緒に考えながら進めます。組織としては8名とコンパクトですが、その分小回りを最大限に利かせ、オンタイムでのコミュニケーションを大切にしながら、機動的に海外拠点と連携しています」

年1回、グローバルミーティングを開催。また、拠点横断のワーキンググループも。AI、M&A、通商、EHSなどを議論し、知見も絆も深める

多法域が交錯するクロスボーダー案件

2025年、同社では戦略的意義の高い2つの大型M&Aがあった。一つは、臓器保存デバイスを開発製造する英国オーガノックス社の買収で、もう一つは、中国のウーシー・バイオロジクス社がドイツに有する薬剤製品工場の買収だ。「いずれも極めてチャレンジングな案件でした」と、水谷氏。

「オーガノックス社の買収は、臓器移植関連分野という新規事業領域への参入でした。買収対象は英国企業で、事業の中心は米国、製造所は欧州にあり、その企業を日本のテルモが買収するという構図。買収実務の主法域は英国法ですが、日本企業としての開示対応に加え、欧米の薬事規制や競争法制を考慮する必要もあり、英米欧の弁護士を擁する米国系法律事務所と日本の法律事務所を起用して対応しました。社内では、日本の本社の経営企画、人事、知的財産、臨床開発、経理、税務など多様な部門に加え、米国チームとも密接に連携。関係メンバーが約100名にのぼる案件で、法務室として多くの知見を得ることができました」

ウーシー・バイオロジクス社の案件について、シニアマネージャーの安田正修氏は次のように語る。

「CDMO事業のグローバル対応力の強化を目的として、ドイツにある薬剤製品工場を買収しました。この案件の特徴は、薬事規制上の課題が複雑に絡む事業買収だったことです。薬事関連許可の維持などに必要な対応や、中国本社に依存する部分が多いITシステムや品質管理システムをどうテルモに移管していくのかなど、複数国にまたがる法制を踏まえた様々な検討が必要になりました。この案件を通じ、医薬品分野に係る事業買収の要点を学べたことは、法務室にとってよい経験になりました」

こうしたM&Aの場合、初期段階のNDA締結から、キックオフ、デューディリジェンス、契約交渉、クロージング、PMIまで、チームの一員として〝最上流〟から関与する法務室。安田氏は言う。

「『リーガルリスクのマネジメントを通じてビジネスを正しくナビゲートする』が、法務室のミッションです。M&Aに限らずあらゆる事業スキームの設計に初期段階からかかわり、事業に伴走しながら、ともに悩み、最適解を追求することを信条としています」

法務室には、事業部門から様々な相談が入る。「何がリスクになりそうか?」「どう進めるのが適切か?」を受け止め、必要に応じて他部門も巻き込んでいく。

「例えば、一見単純な倉庫契約に見えても、保管拠点の追加で薬事承認変更が必要になり、タイムラインに影響が及ぶといったケースも。これは契約内容だけ見ていては気づけません。前提となるヘルスケア関連法制や事業・実務を理解し、案件背景を丁寧に把握することが非常に重要になります。一見簡単に見える相談であっても、相談の背景や関連する課題などを踏まえ、『依頼部門は何を実現したいのか?』を考慮し、運用・規制なども網羅しながらナビゲートします。大変ですが、そこがこの仕事の醍醐味でもあります」(安田氏)

オーガノックス社が開発・製造販売する肝臓移植用の臓器保存デバイス「metra®」。臓器移植の待機患者と医療現場の双方が抱える課題に対するソリューションを提案していくため、2025年に同社を買収した。将来の成長を牽引する新事業を確立し、事業ポートフォリオを高度化するという目的のもと、付加価値の高い臓器移植関連機器・サービスの市場開拓・拡充を目指す

AI・医療データで高度化する法務

同社では昨年を「生成AI元年」と位置づけ、多くの事業活動に生成AIの導入を進めている。

「AIやデジタルヘルス領域では、データ、特にリアルワールドデータの活用が重要ですが、AIやデータに係る各国規制、医療データや臨床研究特有の個人情報保護の問題、薬事承認・保険償還申請に係る課題など、従来とは異なる法務上の論点が多数生じています。またAIガバナンスについても、各国法制の差異を踏まえ、グローバルで整合を図ることが求められており、法務室の役割は一段と広がっています」(水谷氏・安田氏)

入社2年目の中澤氏に、法務室での仕事のやりがいを聞いた。

「国内有数の医療機器メーカーで、最先端のヘルスケアに関する知見や現場でのリアルな困り事に日々触れられることに、大きなやりがいを感じています。法務室では、自社の事業理解が不可欠な規制領域などのコア業務は外注せず、内部で対応する体制をとっているため、法律事務所では触れる機会が少ない、現場に根差した実務知識が非常に速いスピードで蓄積されます。こうした現場感覚を磨けることは大きな財産だと感じています。AIの進化により、自分だからこそできる役割を模索する必要がある今、“その会社や業界を深く理解していること”は、インハウスローヤーとしても、弁護士としても、より一層重要な価値になるのではないでしょうか。まずはヘルスケア領域のスペシャリストを目指し、最前線で新しい挑戦を支え続けるプロフェッショナルでありたいです」   

中澤氏は、「『医療を通じて社会に貢献する』というテルモの企業理念を胸に、新たな治療の可能性を広げ、優れた医療機器を現場に届けるという思いをもって業務に向き合っています。その思いが組織全体で共有されているので、仕事が進めやすいです」と、付け加える。

水谷氏に、法務室のこれからについて聞いた。

「事業のグローバル化を受けて、法務室の業務量は年々増えています。しかもM&Aだけでなく、製薬メーカーとの開発・製造委受託案件やグローバルオファリングの実施など、戦略的意義を有する他の大規模な案件も多い。リーガルテックを活用しつつも、社外からの人材拡充、現メンバーの育成、社内のナレッジ向上を同時に進め、経営のニーズに応えていきたい。そして、事業部門から信頼されるよきパートナーとして、事業に献していきたいと考えています」

事業理解を深めるため、事業部門との対話、法務室内の勉強会、グローバルのワーキンググループなどへの参加で、日々研鑽を積む