2025年、同社では戦略的意義の高い2つの大型M&Aがあった。一つは、臓器保存デバイスを開発製造する英国オーガノックス社の買収で、もう一つは、中国のウーシー・バイオロジクス社がドイツに有する薬剤製品工場の買収だ。「いずれも極めてチャレンジングな案件でした」と、水谷氏。
「オーガノックス社の買収は、臓器移植関連分野という新規事業領域への参入でした。買収対象は英国企業で、事業の中心は米国、製造所は欧州にあり、その企業を日本のテルモが買収するという構図。買収実務の主法域は英国法ですが、日本企業としての開示対応に加え、欧米の薬事規制や競争法制を考慮する必要もあり、英米欧の弁護士を擁する米国系法律事務所と日本の法律事務所を起用して対応しました。社内では、日本の本社の経営企画、人事、知的財産、臨床開発、経理、税務など多様な部門に加え、米国チームとも密接に連携。関係メンバーが約100名にのぼる案件で、法務室として多くの知見を得ることができました」
ウーシー・バイオロジクス社の案件について、シニアマネージャーの安田正修氏は次のように語る。
「CDMO事業のグローバル対応力の強化を目的として、ドイツにある薬剤製品工場を買収しました。この案件の特徴は、薬事規制上の課題が複雑に絡む事業買収だったことです。薬事関連許可の維持などに必要な対応や、中国本社に依存する部分が多いITシステムや品質管理システムをどうテルモに移管していくのかなど、複数国にまたがる法制を踏まえた様々な検討が必要になりました。この案件を通じ、医薬品分野に係る事業買収の要点を学べたことは、法務室にとってよい経験になりました」
こうしたM&Aの場合、初期段階のNDA締結から、キックオフ、デューディリジェンス、契約交渉、クロージング、PMIまで、チームの一員として〝最上流〟から関与する法務室。安田氏は言う。
「『リーガルリスクのマネジメントを通じてビジネスを正しくナビゲートする』が、法務室のミッションです。M&Aに限らずあらゆる事業スキームの設計に初期段階からかかわり、事業に伴走しながら、ともに悩み、最適解を追求することを信条としています」
法務室には、事業部門から様々な相談が入る。「何がリスクになりそうか?」「どう進めるのが適切か?」を受け止め、必要に応じて他部門も巻き込んでいく。
「例えば、一見単純な倉庫契約に見えても、保管拠点の追加で薬事承認変更が必要になり、タイムラインに影響が及ぶといったケースも。これは契約内容だけ見ていては気づけません。前提となるヘルスケア関連法制や事業・実務を理解し、案件背景を丁寧に把握することが非常に重要になります。一見簡単に見える相談であっても、相談の背景や関連する課題などを踏まえ、『依頼部門は何を実現したいのか?』を考慮し、運用・規制なども網羅しながらナビゲートします。大変ですが、そこがこの仕事の醍醐味でもあります」(安田氏)