実際、木村氏はどんなサポートを提供しているのだろうか。
「例えば、日米英の同時解雇事案です。グローバルに事業を展開する日本本社の執行役員で、英国子会社では取締役、米国子会社ではCEOを兼任する外国人従業員が、ハラスメントにあたる行為を行ったため、各国で同時解雇した案件でした。我々は、各国で労働法に強い弁護士を選別したうえで、依頼者の思いが各国弁護士に伝わるようサポート。結果、訴訟や大きなトラブルを招くことなく、無事解決に至りました」
また、米国公認会計士からの紹介で、日米中国にまたがる債権回収案件にも対応。
「中国の投資家が出資する米国での開発案件で、クライアントである日本企業の米国子会社が納入した複数台の大型重機について、多額の代金回収が滞りました。納入先はすでに資金が尽きてしまっているようで、最後の頼みの綱は中国の投資家のみ。しかし投資家は当然、返済義務を負いません。このようななか、中国の投資家が“欲しいモノとノウハウ”を提供する見返りに、債権回収を図った事案です。米国、中国、日本の弁護士にそれぞれ関与してもらいつつ、債権回収に至りました」
木村氏は、自身でリーガルアドバイスは行わない。法域の壁を越えて、ビジネス、経営、“数字そのもの”にかかわる意思決定を直接サポートする。これができるのは、木村氏自身が経営者だから。
「私自身が経営者として、各専門分野間のつなぎ役・舵取り役の必要性を何度も感じてきました。各国・各分野の専門家それぞれに話を聞いて、正確に理解するだけでも大変な時間とコストがかかる。そこからさらに考えて一つの意思決定をするのが経営。この局面では専門家の助けはない。弁護士・経営者の経験どちらも持つ自分は、企業にとってビジネスの泥臭い部分がわかる相談相手であり、弁護士にとっては共通言語でクライアントのための戦略を一緒に練られる強い味方。それが私自身の大きな優位性だと考えています」
弁護士と経営者両方の視点を持つゆえに、出せる答えもある。例えば、「交渉相手から機材の不具合の迅速な修繕義務を要求された。米国弁護士からはリスクが大きいと警告されたが、どうしたものか」との相談が寄せられた。木村氏が内容を精査して出した結論は、「リスクをとって取引を進めたうえで、後日変更を求めるべき」。結果、この取引は同社最大の収益事業に成長し、義務の見直しも進んだ。「弁護士はリスクの指摘が仕事。私は、取るべきリスクの見極めが仕事」――リスクとリターンを衡量した経営視点での、木村氏のこうしたアドバイスこそが、クライアントから絶大な信頼を得ている一つの理由であろう。