Vol.81
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大江・田中・大宅法律事務所は、所属弁護士数12名、スタッフ約5名の陣容(2022年5月時点)

大江・田中・大宅法律事務所は、所属弁護士数12名、スタッフ約5名の陣容(2022年5月時点)

STYLE OF WORK

#159

大江・田中・大宅
法律事務所

法律事務所を成長させる源泉は“人”——。
互いを尊敬し、多様性を包摂する実務家集団

教授と教え子の事務所が統合

企業訴訟、裁判外紛争解決などを得意としてきた大江忠・田中豊法律事務所、事業再生・事業承継、ベンチャー企業の資金調達支援などビジネストランザクション支援に注力してきた東京双和法律事務所、M&A・事業承継を専門としていた八木&パートナーズ法律事務所。この3つの組織が統合し、2021年3月に誕生したのが、大江・田中・大宅法律事務所だ。ネームパートナーの大江忠弁護士、田中豊弁護士、大宅達郎弁護士に、事務所の特徴などをうかがった。まず統合のきっかけについて、大宅弁護士が説明してくれた。

「私は、八木弁護士も所属していた大手法律事務所から、15年に独立して業務を行っていたのですが、事務所の仲間は世代も業務分野も近く、訴訟や紛争解決事案の受任が少なかったため、このままではクライアントや、採用対象となる若手の方にとって魅力的な事務所とはいえないように感じていました。より充実した法律事務所とするために、また私自身もまだまだ学びたいと思い、ロースクール時代の恩師である、大江先生と田中先生のお二人に、思い切って相談したことが始まりです」

そこから約2年間、大宅弁護士は大江・田中両弁護士と、「一緒になることで、どんなシナジー効果が得られるか」といった議論を重ねた。大江弁護士は言う。

「統合を決めたのは、具体的なシナジーというよりも、大宅弁護士の資質によるものが大きい。彼は“引き出し”が非常に多く、普通ならばオールオアナッシングで考えてしまうところ、いくつもの段階・種類の解を考え得る人物。そこが好ましいと感じました」

「私も大江弁護士と同じ感想です。我々はロースクールで教鞭を執りましたが、教授と学生も社会に出れば人として対等。そして互いに相手を尊敬できれば、友人関係が築ける。大宅さんが弁護士になってからも付き合いが続き、良い関係性が築けていると感じていました。この統合はそのような信頼関係があったから実現したのだと思います」(田中弁護士)

大江・田中・大宅 法律事務所
大江弁護士と田中弁護士は40年前に出会い、20年以上ともに活動してきた。「気性が違う二人ですが、トラブルは一度もない」と両弁護士

統合の価値を対外的にも示す

新事務所始動から1年と数カ月。この間、大宅弁護士の前事務所の頃からのクライアントで、M&Aに積極的に取り組み、成長している企業で、複雑な紛争事案が生じた。大宅弁護士は田中弁護士に声をかけ、“混成チーム”を編成。

「私たちは、クライアントとの長年の付き合いから、業界特有の商習慣や本来あるはずの証拠に関する知見を持つので、主として事実立証を担い、田中弁護士のチームが法的調査と分析を担い、協働して訴訟戦略を立て、訴訟を遂行しています――これらの一連の対応は、統合前の私たちだけでは容易にはできなかったことです」と、大宅弁護士。今のところ所内は、紛争解決系の大江チームおよび田中チームと、トランザクション系チームに大別される。徐々にチーム間交流も図っていく予定だ。田中弁護士は言う。

「まだ1年ほどしか経っていないので、案件の進め方はこれからより良い方法を検討していこうという段階です。例えば、私の手元に新たな訴訟案件が生じた場合には、大宅弁護士のチームの弁護士を誘ってゼロから一緒に進めるなど、柔軟に対応していきたい。今後、楽しみながらそうした所内のルールづくりをしていきたいですね」

そのほかに、統合したからこそ実現できたという例を、大宅弁護士が紹介してくれた。

「ロースクール生向けの『キャリアデザイン・プログラム』を開催できていることでしょうか。これは、“自分らしい法律家になるために”をテーマとした講演会とグループセッションで、所外の第一線で活躍する弁護士の方々を講師に招き、その方のキャリア形成プロセスや、弁護士業務の幅広さ、あるいは専門分野ごとの特徴、醍醐味などをお話しいただき、学生が未来のキャリアを考えるプログラムです。私たちは運営事務局でしかないのですが、講師として協力してくださる弁護士は、所内の弁護士が持つご縁を総動員してお願いしています。講師の方の中には、大江弁護士や田中弁護士、早稲田大学名誉教授である顧問の加藤哲夫弁護士の教え子という方もいらっしゃって、長年にわたり法曹養成に携わってきた弁護士がいるからこそ実現できたものと感じています」(大宅弁護士)

一法律事務所が主体となり、採用目的ではなく、あくまでもプロボノとして、こうしたプログラムを主催する例は珍しい。所内の弁護士はもちろんのこと、より幅広く、法律実務家として働いている、もしくはこれから働きたい人たちを育成することも、同事務所が大切にしていることの一つなのだ。

  • 大江・田中・大宅 法律事務所
    同事務所は、ベテラン、若手、弁護士以外のキャリアを持つ人など、様々なバックグラウンドの弁護士が集う、多様性にあふれた事務所だ
  • 大江・田中・大宅 法律事務所

本質的な強みは何よりも“人”

現在、同事務所の取扱分野は、訴訟、裁判外紛争解決、危機管理、コーポレートガバナンス、M&A、事業承継、事業再生など多岐にわたり、それぞれに専門性を有する弁護士が所属する。しかし、「法律事務所の本質的な強み、価値の源泉は、業務分野などではなく、やはり“人”です」と、大宅弁護士。

「法律事務所は、ものを作って売るわけではありませんから、やはり人で成り立つものだと考えます。人が成長すればアウトプットの質が向上し、それが組織の成長をさらに加速させると考えています」

同事務所は始動するにあたり、内部の構成員の“あり方”を示した8つの「ミッションステートメント(綱領)」と、依頼者に対してどのようにして価値を提供するかの“方法論”を示した8つの「Our Way(流儀)」を掲げた。大宅弁護士は、これらの策定にあたり、これまで出会ってきた尊敬する弁護士に通底するポリシーを想いながら、材料となるベースを作成。そこから所内の全員で練り上げて、ミッションステートメントと流儀をかたちにしていった。

「例えばミッションステートメントの一つとして掲げたのは、ありきたりかもしれませんが、『PASSION-情熱-』です。私たちは自らが弁護士という職業を選択し、日々の業務を選択して取り組んでいます。つまり、好きな仕事をしているのだ、と。だから、常に内発的な情熱を持って、最善を尽くすべきだと思っています」(大宅弁護士)。

「その“好き”を言い換えると、“恐れないこと”でもあると考えます。それこそが我々の強み。ほかの実務家が恐れるような困難を恐れない、世の中の多数の傾向に反することを恐れない――など、恐れには様々な種類がありますが、常にそうしたものを持たず、仕事に向き合える弁護士でありたいと思うし、自分たちはそのような弁護士であると信じたいのです」(大江・田中両弁護士)

最後に、大江弁護士と田中弁護士に、これから弁護士を目指す人や、若手弁護士へのメッセージをいただいた。

「目の前の仕事に全力であたるのは当然ですが、その際、心がけてほしいのは、法律的な問題点、面白いと思った点を見つけて、それらを継続的に研究・追求し続けるということ。長く続けるほどそれが自分の力になっていきます。事件処理だけで名が知られる実務家というのは案外少ないもの。小さなことですが、とても大切なことだと私は考えます」(大江弁護士)

「ありふれていますが、志を持ち続けること、それが最も大切。そして、二律背反に思えるかもしれませんが、ジェネラルなリベラルアーツと自分自身の専門分野の探求を日々心がけること。“社会に価値を残す”法律家になるには、その両方で自分をつくっていく必要があると思います」(田中弁護士)

※取材に際しては撮影時のみマスクを外していただきました。

Editor's Focus!

大江・田中両弁護士が、「先輩や同世代の弁護士が“店仕舞い”する姿を目にすることが増えた。我々は自分の事務所を残すことにこだわるタイプではないが、クライアントへの責任を果たし、後進の育成に役立つなら、と考えたのも、統合理由の一つ」と語ってくれたことが印象的。この統合により、卓越した知見や精神性をつないでいく“貴重な場”が誕生した。

大江・田中・大宅 法律事務所