医療、介護、ヘルスケア、シニアライフの各領域で、医療・介護職向け人材紹介や、介護事業者向け経営支援サービス「カイポケ」など、高齢社会×情報を切り口にした様々なサービスを展開する株式会社エス・エム・エス。「高齢社会に適した情報インフラを構築することで人々の生活の質を向上し、社会に貢献し続ける」というグループミッションを掲げる同社の提供サービスは、国内外で40を超える。この法務機能を担当するのが、経営管理本部直下のリスクマネジメント部だ。部長の酒井玄氏に、その特徴をうかがった。
「当部は、法務機能を含めた“リスクマネジメント”を担当する部であることが最大の特徴です。『経営陣および事業責任者のパートナーとして、リスクをコントロールする観点からの支援を実行し、当社グループ全体としてリスクを最適化する』という部門のミッションを掲げ、グループミッションの実現の妨げになるすべての不確実性をリスクと捉えて業務に臨みます。そのため、部のコアスキルは法務ですが、単なる法的知識の提供にとどまらず、経営陣と事業の意思決定・実行を支援するべく、圧倒的な当事者意識と幅広い専門性を持って、“監査”への業務拡張や、“統制”の基盤構築・周知・実践も行います」
とはいえ、“リスクゼロ”を目指しているわけではない。
「社会に対する説明責任や事業活動への影響を加味し、トータルでバランスの取れたリスクマネジメントを行うことを目指しています。多様なビジネスモデルをグローバルで加速度的に成長させるという当社の事業特性に鑑み、ビジネスモデル、事業ステージ、国と地域といった変数を踏まえつつ、それらの変数に応じた個別の事業支援(個別最適)と、全社横断の施策のバランス(全社最適)を俯瞰しながら、当社の成長とグループミッションの実現を支えるべく、幅広い業務を担っています」
その個別最適と全社最適をメンバー各自が実行できるようにと、酒井氏が構築したのが、「縦と横のマトリックス体制」だ。
「キャリア事業や介護事業者事業などの事業領域を“縦の事業軸”、事業法務、内部統制、内部監査、情報セキュリティなど全社横断的な業務を“横の機能軸”として、各自が縦横両方の業務を担います」
例えば民法改正に伴う契約書のひな形改訂の際、縦の事業軸だけを担当していると、文言一つとっても各事業で表現や解釈はバラバラになりがちだ。そこで「契約書ひな形の作成」「サービスの利用規約の整備」といった横の機能軸となる事業法務を担当するメンバーが“司令塔”となり、全社で契約書文言の平仄を合わせ、改訂を行う。この体制が叶った背景には、酒井氏、経営管理本部長、社長共通の思いがあった。
「企業における法務機能は、『法律に関する知識の提供や単なる相談窓口として機能するのではなく、能動的に本質的な問題解決を行ったり、より効率的かつ効果的な仕組みができるよう社内外に働きかけたりすることに意義がある』というのが、私と経営陣の共通認識です。一例として、取引先から値引き要求があった場合、私たちの仕事は、その覚書の作成で終わりとはなりません。100万円を80万円に値引きするといった場合、『職務権限に照らして誰の承認を得るべきか』『その承認はとれているか』『承認をとったプロセスやフローを残しているか』といった内部統制にかかわる問題が生じるため、これらを解決するための業務プロセスを構築する必要があります。また、値引きの事実を顧客管理マスタに反映する場合には、データをどこに保持するか、アクセス権限をどのように設定するかなど、実際にツールの仕組みを理解したうえで、あるべき姿を検討します。さらには、経理が請求書を発行する際、『この取引先については値引きをした』というデータを見て正しく請求ができているかという点まで担保する仕組みにする必要があります。覚書をつくって終わりではなく、そのように後工程を意識しながら部内外のメンバーとかかわり、有機的かつ一体的に仕事を進めることで、当部の価値や成果が初めて出せます。メンバーたちも、その調整に仕事の面白さを感じているようです」