私は、どんなに複雑化して難解に思える事態でも、まず問題を切り分け、切り分けたそのレベルごとに、「戦略、作戦、戦術」と3つの視点それぞれをあてはめて対応法を検討すれば、解決の道筋が必ず見えてくると考え、実行しています。前述のADRの交渉段階では、まず“戦略”の視点で、その企業の商流からすると、そこまで大きなボリュームの“為替デリバティブ”の取引は不要であることを見いだし、これをもとに交渉をする“作戦”を立て、BS式(およびその改良版)を用いて理論値を計算するという“戦術”を駆使。結果、クライアントが納得する結論に至りました。
近時は、新型コロナ禍の影響などもあってか、サービス業や医療法人のクライアントからヒト(労働)の問題もよくご相談いただきます。規程類や制度の見直しのほか、労働組合との団体交渉も。しかし、私自身に団交の経験が十分になかった時は、高校の先輩の社会保険労務士と力を合わせて、団交の場に臨みました。この時は団交という“戦場”において、組合側の“ブレーン”と“ソルジャー”をその場で瞬時に見極め、それぞれへの対応の仕方を変えるという“戦術”を用いて、結果的に交渉を有利に進めることができました。
また、個人のクライアントも多数サポートしています。勤務先である医療法人の役員として個人保証をしていたクライアント(医師)が、その医療法人の経営悪化に伴って保証債務の履行を求められてしまいました。ご高齢のため有料老人ホームへの入居が決まっており、その契約上の都合で、破産回避が必須でした。大口の債権者は金融機関であったことから、経営者保証ガイドラインに従って特定調停を利用して、破産手続を選択せず、一定の資産を残す形で(一部の債権者とは手続外で同条件の和解をして)保証債務の整理をすることができました。破産せずに、ある程度の資産を手元に残すことができたわけです。この時は、特定調停という手法を使うという破産手続を用いない“戦略”目標があるなかで、一定の資産を残すために経営者保証ガイドラインに基づいて特定調停を用いるという“作戦”が機能したのだと思います。
物事を実行するにあたり――特に紛争回解決する際には――“資源”が必要です。“資源”の代表例の一つは、紛争解決手段を利用するために用いることのできる“おカネ”です。また、クライアントが紛争の相手方に対して持っている、何らかの有利な事情も“資源”の一つと言えるでしょう。こうした“有利な手持ちのカード”を持っていると、クライアントは、そのカードを切りたくなることが多々あります。しかし、トランプゲームを思い起こせばわかるとおり、手持ちのカードをいったん切ってしまったら、取り戻すことはできません。切ってしまってから後悔しないために、「今このカードを切るべき時かよく考えましょう」「カードを切った時に何が起き得るかをしっかり考えてからやりましょう」と、丁寧に一つひとつ対話を重ね、お客さまが納得できる“戦略、作戦、戦術”を練ったうえでどのように“資源”を使うべきか答えを導き出す――それが、私のこだわりです。