日本でファッションローという概念・分野が広がり始めたのは、14年に、金井倫之氏(弁理士・ニューヨーク州弁護士)が研究機関「ファッションロー・インスティテュート・ジャパン」を設立したことがきっかけだったと思います。その後、様々な方のご尽力により、ファッションローの認知度が少しずつ上がってきました。私を含めてこの分野に携わる弁護士は増えていますし、メディアでも多く取り上げられるようになっています。業界の方々の間にも、「法律でしっかり守っていこう」という意識が芽生え始めていると感じます。
日本では、これまでファッションを積極的に法律で保護しようという動きはあまりなかったのではないかと思います。これはファッションの捉え方が影響しているかもしれません。フランスでは衣服のデザインが著作権でも保護されるのですが、これはファッションを文化として捉えていることの表れだと思います。他方、日本では、一般的な衣服のデザインは著作権では保護されにくく、他の実用品と同じく意匠権などを活用することになります。もっとも、ライフサイクルが短いファッション製品にとって、時間も手間もかかる意匠登録は決して使いやすいシステムではありません。その結果、不正競争防止法での保護が中心となっています。実は、これまでファッション業界から「意匠法を使いやすく変えてほしい」という声はあまり上がらなかったと聞いたこともあります。法的な視点が根付くことで、「法律を使いやすく変える」という発想が、もっと広がっていくのではないかと期待しています。
こうした業界の声を届けるロビイング活動にも力を入れています。例えば、メタバース上での模倣に対応するための不正競争防止法の改正や、経済産業省が設置したファッションローのワーキンググループに加わり、ガイドブックの作成も進めています(23年3月現在)。
ファッションローを、まさにファッショントレンドのように一過性で終わらせず、定着・浸透させていくには、やはり教育が重要だと思います。例えば、学校で教えたり、若いインフルエンサーの方向けに、文化の盗用などさまざまな情報を発信したり。業界にかかわっている方、業界を目指す方に、「法律は、創作活動やビジネス創出に際して有力な武器になる」ということを知ってもらい、意識し続けてもらえるよう、これからも働きかけていきたいです。
※取材に関しては撮影時のみマスクを外していただきました。