――団体について教えてください。
MFAJは、「結婚の自由をすべての人に」訴訟(同性間の婚姻を認めない現在の法律は憲法違反であるということを問う日本初の訴訟)の弁護団有志と婚姻の平等(同性婚の法制化)実現を望む個人などによって構成されており、婚姻の平等の実現へ向けたキャンペーン活動を展開しています。MFAJを設立した当時、同性間の婚姻に関する社会の関心が高くなかったことを踏まえ、弁護団による訴訟活動だけではなく、世論喚起やロビイングも同時に進める必要があると考えました。最初は弁護士のメンバーが多かったのですが、その後、PR活動に長けている人など仲間が徐々に増え、今では様々な職種・分野の人々がメンバーになっています。
――目標は何でしょうか。
団体名のとおり「婚姻の平等の実現」です。法律婚としての婚姻には多くの法的権利・利益・保護が伴いますが、同性カップルはそれを享受できないことによる具体的な不利益を日々被っています。また、国が同性カップルを婚姻制度から排除していることは、「異性カップルと同等の法的保護を与える必要のない存在だ」という負のメッセージを発信し続けているのと同義であり、差別の再生産・助長の効果を持つものとして、性的マイノリティの個人の尊厳に対する重大な侵害ともなっています。
――活動内容を教えてください。
活動の枠組みは大きく3つ。1つ目は弁護団による訴訟をPRというかたちで支援することによる司法面からのアプローチ。2つ目は国会議員に対するロビイングという立法面からのアプローチ。具体的には、賛成議員を増やすべく日常的に議員と面談しているほか、国会議員を招く院内集会「マリフォー国会」を定期的に開催、人々が賛成議員を検索してSNS・メール・手紙などで直接議員に声を届けることを容易にする「マリフォー国会メーター」というサイトも立ち上げています。3つ目は、各種イベント・動画制作・情報発信・国内外の企業・団体との連携・リサーチなど、世論喚起のための諸活動です。
――活動成果はいかがでしょう。
成果の一例として、“企業の巻き込み”があります。MFAJを含む3つの非営利団体(※)が共同で、婚姻の平等(同性婚の法制化)に賛同する企業を可視化するための「Business for Marriage Equality」というキャンペーンを20年に立ち上げました。現時点で350社以上の企業・団体が、婚姻の平等への賛同を表明しています。様々なステークホルダーがいる企業という存在が賛同を表明することで、国内の世論喚起・社会変革のスピードは確実に加速します。大手企業の代表取締役や執行役員などの経営層ご自身が、政府や国会への働きかけ(面談など)に同行してくださることも増えてきました。「結婚の自由をすべての人に」訴訟で違憲判決が出たことなどにも後押しされて、MFAJや全国各地の個人・団体の地道な活動の成果が出てきているのだと思います。
――「Pride7サミット2023」も開催されました。
今年3月、MFAJは、ほかの2団体とともに、世界初となる性的マイノリティの人権保護と政策提言のためのG7のエンゲージメントグループ「Pride7」を立ち上げました。同月末には、G7広島サミットでの議論促進と各国首脳への政策提言に向けて、各国の大使館や当事者・支援者団体が集結。日本からも、森まさこLGBT理解増進担当首相補佐官のほか、政界・経済界(経団連・経済同友会)・労働界からの多数の出席がありました。私はPride7日本実行委員会を代表する冒頭挨拶で、「G7の場で、性的マイノリティの人権保障のための法整備を含む具体的な取り組みが議論され、コミットされることは、すべての人にとっての自由・民主主義・人権に資する」と発言しました。翌4月、婚姻の平等を含む法整備へのコミットメントをG7広島サミット首脳宣言に含めることなどの提言をまとめた「Pride7コミュニケ2023」を森まさこ首相補佐官に手交したうえで、5月19~21日のG7サミット開催中は、実際に広島に滞在して記者会見などにて提言し続けました。
――日本と海外との“意識の差”について、どう考えていますか。
G7メンバー国の中で、同性間の関係性を法的に保障していないのは日本だけで、世界の潮流から大きく取り残されています。その背景としては、性的マイノリティの問題に限らず、“人権”に対する日本政府の意識が低いということが指摘できると思います。差別・偏見が根強く残る日本社会のなかで、性的マイノリティは“見えない存在”に追いやられ、人権問題とは意識されてきませんでした。こういった背景も踏まえ、同性カップルが婚姻できないことによる不利益や苦悩を具体的なエピソードのかたちで繰り返し世の中に発信していくことが重要だと考えています。MFAJでは、性的マイノリティの人々だけでなく、その家族や友人などの視点に立った動画も制作し、この問題が決して性的マイノリティの人々だけに関わる問題ではないと伝えることにも力を入れています。
――活動予定を教えてください。
今回、日本で私たちが立ち上げたPride7については、来年G7サミットが開催されるイタリアに引き継がれ、それ以降も全世界で継続・展開していくよう、各国の団体と連携していきます。「結婚の自由をすべての人に」訴訟については、札幌地裁と東京地裁が違憲判決を出し、大阪地裁も社会の変化によって違憲となり得ると判断しており、もうすぐ名古屋地裁と福岡地裁の判決も言い渡されます。司法からの要請・世論の高まりなどを踏まえ、一日でも早く婚姻の平等が実現するよう、MFAJとしては、引き続き国会に求めていきます。
――弁護士に伝えたいことは。
婚姻の平等は、個人の尊厳の問題です。性的マイノリティは社会に存在しているのに、法制度上は家族と認められず、社会的承認を得ることができません。このような人権侵害は、以前の私自身のように、性的マジョリティがこの問題に無関心で、現状を放置してきてしまったことによるものです。現状を放置すること、あるいは、法改正に賛成でも何らアクションを起こさないことは、結果として差別への加担という効果を有してしまいます。マイノリティの人権侵害を解消する責任はマジョリティにあるということに、私はこの活動を通じて気づくことができました。
婚姻の平等の実現は、性的マイノリティに対する差別・偏見を根本的に解消するための大きな一歩になると確信しています。訴訟や人権の観点からのロビイングなど、弁護士だからこそできる、あるいは説得力を持つことがあります。性的マイノリティの問題に限らず、マイノリティの人権侵害の“当事者”はマジョリティ側であるとの認識で、各自が具体的なアクションを起こしていただけたらと思います。
※NPO法人 LGBTとアライのための法律家ネットワーク(LLAN)、認定NPO法人 虹色ダイバーシティ