Vol.86
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法務部のメンバーは佐伯部長を含めて26名。中途入社者は約3割。30歳前後や、入社2、3年目の社員が多い。グローバル案件が多いので、外国法弁護士資格を有する外国籍社員も数名所属している

法務部のメンバーは佐伯部長を含めて26名。中途入社者は約3割。30歳前後や、入社2、3年目の社員が多い。グローバル案件が多いので、外国法弁護士資格を有する外国籍社員も数名所属している

THE LEGAL DEPARTMENT

#141

千代田化工建設株式会社 総務本部 法務部

EPC+脱炭素・ライフサイエンスなど、新規事業の拡大成長を法律面から支援

“契約書”を重視しビジネスを前進させる

1948年創業のプラント設計・調達・建設(EPC)大手、千代田化工建設株式会社。米国での液化天然ガス(LNG)プラント建設工事の遅れなどが原因で経営危機もあったが、カタールでのLNG大型増産PJ(プロジェクト)、インドネシアでの銅製錬PJ、米国テキサス州での世界最大級エチレンプラント完工などにより、再生への歩みを着実に進めている。同社法務部のミッションを、法務部部長・佐伯晋氏が教えてくれた。

「5カ年におよぶ『再生計画』の開始当初は、赤字原因となるPJの“止血”が法務部の至上命題でした。再生計画の終盤にあたる昨年度から企業法務のステージを一段上げ、会社法務およびコンプライアンスを担当する総務部と法務部を一つに集約し、“企業法務のワンストップサービス”を目指し、新たな組織運営を始めています」

法務部は今年度より、コンプライアンス機能を総務部から移管し、契約法務を行う法務セクション(課)と、コンプライアンスセクションの2課で構成。多くのメンバーが配置されている法務セクションの詳細を佐伯氏にうかがった。

「法務セクションには、3つのグループ(係)があります。法務グループは契約法務全般で、契約審査、お客さまとの交渉支援、紛争対応などを担当します。保険グループは、EPCにおける保険スキームの検討・助言・積算、および保険会社への求償サポートなどを担当します。企画グループは、法務セクション内の業務インフラの整備・維持・改善と、契約書を武器としてPJを進めていくため、契約書に関する全社員のマインド向上を目指した各種施策の企画・実行を担当します。企画グループは他グループのメンバーが兼務しているバーチャル的存在ですが、業務インフラの整備・維持・改善を確実に遂行するため、また『契約書の持つ意義や価値を社員に浸透させていく』という法務部の強い意志を全社に示すため、一つの“係”として存在させています」

法務セクションの業務で大きな割合を占める契約書審査について、佐伯氏は次のように語る。

「契約書審査では、当社の業態、各PJ事業部門や営業部の仕事の進め方、事業展開するエリアなどを深く理解しつつ、実務に根ざした助言・サポートを行う必要があります。ここに我々法務部の強みと存在価値がある。リスクとリターンが見合うかたちでビジネスを最適化するべく、PJの事業部門や営業と協働してブラッシュアップしつつ契約条件に落とし込んでいくことが一番のポイントです。そうした姿勢、進め方を経営サイドからも強く期待されています」

  • 2023年4月から、効率的な受注と提案力向上を目標にEPCや保全を手がけるグループ3社を統合し、従来のエネルギー分野のほか次世代電力システムや水素事業などの市場拡大も狙う。DX機能を統合した事業部の新設、プラント設備の診断サービスや人工知能(AI)を用いたプラント操業管理サービスの機能統合など、事業ポートフォリオを勢力的に再構築・推進中。写真/カタールエナジー社:提供
  • 写真/北海道北部風力送電株式会社:提供

経営との緊密なやりとりが醍醐味

同部での仕事のやりがいを、林田翔吾氏にうかがった。

「当社業務の要であるEPCの契約は、国、規模、期間、取引先の特性などにより、契約上の見るべきポイントが異なります。定型的なものなどなく、案件ごとに法務として様々な取り組み方ができることが仕事の面白さ。印象深かった仕事は、若手の頃、海外の大規模EPCに携わった時のことです。受注前の契約交渉大詰めの場面で、法務部としての意見を経営陣に直接述べ、それを踏まえた経営判断が行われたことがありました。当社事業を左右する場面で、意見を取り入れてもらえた経験は大きな自信となっています」

佐伯氏は、ここに同社法務部の仕事の面白さがあると付け加える。

「経営会議に毎回陪席しますし、法務部員として経営陣に直接意見を述べられるポジションです。経営陣が取引相手との交渉直前に電話をして、アドバイスをすることもしょっちゅう。経営に近いことが当部の特徴だと思います」

PJは国内外にまたがり、特に海外PJは大型かつ長期間のものがほとんど。そのPJに法務メンバーが“チームの一員”として派遣されるケースも多々。例えば佐伯氏は、2013年完工の、サウジアラビア初の重質油分解装置EPC案件のチームメンバーとして、関連契約の交渉や現地でのアドミニストレーションを経験した。

「海外のPJにチームメンバーとして参加するのは、法務部員のキャリアパスの一つ。現在も数名が海外の現場に赴任しています。林田が申したとおり、定型的な契約がないため“教科書的な対応”は不可能。実際のビジネス現場でお客さまとのやり取りから学び、どのように問題解決するかをチームメンバーと協議するなかで力をつけていくことが大切なのです。このプロセスを経験すると、ほかの案件においても契約書レビュー時に新たな視点が得られますし、いわば“血の通ったレビュー”ができるようになる。さらに、リスク可能性が高いのはどこかが、肌感覚でつかめるようになると私は実感しています」(佐伯氏)

PJのチームメンバーになることで、技術者など他部署のメンバーとの交流が深まり、法律的な側面以外のリスクも視野に入れて契約を検討できるようになる。

「契約の細部までカバーしつつ“ワンストップサービス”を提供し、さらなる付加価値を提供していくことを、一人ひとりが目指していきたいと思います」(佐伯氏)

1948年創業の千代田化工建設は、本社を横浜・みなとみらい21地区に置く。写真右は、同社ロビーに飾られる「千代田神輿」。CSRバリュー「人の尊重」のなかで、地域住民との一体感の醸成を目的に、神輿渡御で、千代田グループ社員有志が担ぐ。新型コロナ禍で休止していたが、2023年の今年、活動が再開された

新規事業による拡大成長に貢献

グループ会社には独立した法務部を持つ会社が少ないため、同部が各社法務事案をフォローしている。これにあたり、グループ会社との接点を増やすべく「よろず相談会」という法務相談会を運営する。こうした各社との交流は、事業リスクをいち早く察知し、法律的側面からのビジネス最適化への貢献につながっており、ここでも“経営に近い法務”を実感できているそうだ。

近年、同社では事業ポートフォリオの再構築に伴い、従来のエネルギー分野(EPC)に加えて、脱炭素関連やライフサイエンス分野での事業拡大も図っている。

「EPCで培った知見を生かし、新規分野におけるナレッジの習得・蓄積が求められています。例えば、当社独自の技術をライセンス化して販売したり、ジョイントベンチャーを組むなど、非EPCへの対応が増えつつあります。我々自身、新たな挑戦を支援していくための学びの時間確保が必要。そこで、契約書レビューに関する社内基準・対応マニュアルなどを作成し、一定程度の契約書については各部署に任せる方針としました。変革期にある当社において、我々も新規分野へプロアクティブに対応していくため、業務を効率化し、ナレッジマネジメントに注力しているわけです」(佐伯氏)

佐伯氏と林田氏、法務部の企画グループのメンバーは、契約交渉から契約締結までを一気通貫で行うCLMの導入を検討中。契約書に関する社内規定作成はその一環。「全体最適を図るためCLMの導入については焦らず、着実に進める」と、佐伯氏。事業とともに変革を進める同部には、どのような人材が所属するのかうかがった。

「一つの契約に営業、PJ、技術部署など様々なメンバーがかかわるので、長期にわたりワンチームで一つの目標に向かっていく気概のあるメンバーが揃っています。他者の意見、視点・考え方など多様性を柔軟に受け入れて、チームの一員として仕事を楽しめるメンバー同士、切磋琢磨する毎日です」

  • 同社ではフリーアドレスを導入。写真は法務部メンバーの執務エリア。現在、約7割が出社、約3割がリモートワーク。なお短時間勤務制度、フレックスタイム制、在宅勤務・テレワークなどによる柔軟な働き方の実現を推進しており、職業生活と家庭生活の両立や自身の活躍に関する「満足度調査」を年1回実施、環境改善を継続的に行っている(「女性活躍推進」に関する目標の一つとして)
  • 社員が食事や休憩をとるリフレッシュルームも完備