Vol.81
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法務・知的財産部は、法務グループ、コンプライアンスグループ、法務・知的財産企画室、知的財産グループで構成される。海外のグループ会社出向中のメンバーを除き、37名が所属。有資格者(日本法・外国法合わせて)は5名

法務・知的財産部は、法務グループ、コンプライアンスグループ、法務・知的財産企画室、知的財産グループで構成される。海外のグループ会社出向中のメンバーを除き、37名が所属。有資格者(日本法・外国法合わせて)は5名

THE LEGAL DEPARTMENT

#123

YKK株式会社 法務・知的財産部

グローバル経営の連携強化に寄与し、企業経営に資する法務であり続ける

グローバルに働く――。
強い意識が組織に浸透

1934年創業、ファスニング事業(ファスナーに関するビジネス)、AP事業(建材などに関するビジネス)、設備開発・機械製造を行うYKK。59年の海外展開開始以来、世界72カ国・地域に106社を擁するグローバル企業だ。ファスニング事業の主な生産拠点は海外にあり、ファスナー製造はむろん、製造機械の開発・製造も自社で行う一貫生産体制によるものづくりが強みである。

「当社は事業エリアを、日本を含む東アジア、Americas、EMEA、ASAO、中国の5“極”に分け、各極に置く地域統括会社に地域法務部門(法務・コンプライアンス組織)を有しています。各地域法務部門は、地域統括会社の社長または管理部門責任者への直接レポートラインと、本社法務・知的財産部部長への副次的レポートライン、この2つのレポートラインでコミュニケーションを図ります。そのように私たちは、常にグローバルの視点を持って業務にあたります」と話すのは、法務・知的財産企画室長の原田康弘氏。

同社は2000年代、子会社での産業廃棄物処理委託の問題や、EU競争法違反の疑いに対する対応といった重大な問題に直面した。以降、経営陣が再発防止に向けて号令をかけ、地域統括会社の人員を拡充、“日本法務”からも社員を派遣し、法務コンプライアンス機能の強化と国際間の連携強化に努めた。コンプライアンスグループ長の大神光司氏に、連携の仕方などについてうかがった。

「日本法務のメンバーは、コンプライアンス監査や贈収賄防止のためのヒアリング、模倣品対策活動を現地に訪問して行うなど、海外の各事業会社と密な関係を築いています。また、極間連携の一例としては、競争法、贈収賄防止、個人情報保護法(GDPR)、労働法などの重要法令テーマについてワーキンググループを組成し、議論する場を設け、その際、必ずしも日本法務がチームリーダーを務めるわけではなく、“競争法ならEMEA”など、テーマによって適切な極の法務が主導して進めます。さらに、リーガルフェローシッププログラムという各極の法務責任者・担当者の極間異動に際する研修を数週間から数カ月単位で実施。“グローバルに働くこと”が当たり前という意識が、組織全体に浸透しているのです」(大神氏)

執行役員を務める法務・知的財産部長の湯本克也氏は、日本法務の機能を次のように説明する。

「グローバル法務のヘッドクォーターおよび国内法務の遂行です。また、今期から成立した日本を含む東アジア極では、韓国や台湾の事業会社の法務も管轄。日本の法令以外への対応も求められるので、日本法務のメンバーにとっては新たなチャレンジ。とはいえ、メンバーの多くがこれまで海外で活躍してきた経験を持つので、とてもスムーズに対応できています」

YKK株式会社
取材時は、原田氏が黒部事業所から、大神氏がリモートワーク先からオンラインにて参加(画面左:原田氏、右:大神氏。手前左:古槇氏、右:湯本氏)

活躍の場を多様に用意

同社独自のグローバルコンプライアンス基準(YGCC)の策定という大プロジェクトを担当した大神氏に、やりがいをうかがった。

「YGCCの原案は、部長の湯本がノートに手書きしたアイデアメモ。それを全世界に展開するため、国・地域ごとの法令、文化慣習などに対応させる必要がありました。当社には、創業者の田忠雄が海外赴任する社員に伝えた『土地っ子になれ』という言葉があります。それは相手の文化・習慣を尊重してコミュニティの一員になること、“現地のことは現地に任せる”という精神を示した言葉。その言葉と思想を持って海外20カ国以上を回り、各事業会社の担当者と情報収集・意見交換しつつプログラム設計をしていきました。ですからグローバルコンプライアンス基準も一律ではなく、各事業会社の規模・状況などに合わせて、ある程度“自由判断”の部分も持たせています。様々な現地法人のトップや担当者と協働しながら、そのような難しいプログラム設計、体制整備や運用にかかわれたことも、この仕事の醍醐味です」

また、法務グループ長の古槇俊之氏(61期)は、海外赴任時に担当した仕事について次のように話す。

「私が初めて海外に赴任したのは、入社3年目のこと。ある日、上司から『アメリカの事業会社に行ってほしい。ついては、その前にブラジルの事業会社で研修を』と。しかし研修中、ブラジルでの仕事が面白くなり、アメリカへは行かず、結局7年駐在しました。ブラジルは労働法や税制が難解で、その対応にやりがいを感じたのです。一方で、土地の売買や工場の閉鎖対応など、法務の枠を超えた業務に携わる機会も多く、多様な経験が積めたことが私にとっての財産です。そのように本人の希望を尊重し、チャレンジさせてくれるのが、当社の魅力といえるでしょう」

原田氏は05年頃、先述のEU競争法違反の疑いなどに対応するために組織された部署に、特命で法務から配属。事実関係の調査や反論書面の作成および裁判所対応、経営への報告、レピュテーションリスクの回避などに尽力した。

「法務的な対応に加えて、メディア対応・社員へのメッセージ発信のための文書作成、一部関係者に対する懲戒手続き、所管官庁への報告など、広報・渉外・人事などの幅広い業務に携われたことが面白かったです。また、19~21年までは経済産業省の模倣品対策室に出向しています。模倣品の撲滅に向けた政策の企画立案が主業務で、私自身は中国政府との交渉や模倣品対策に取り組む他社との連携など、民間企業では味わえない得がたい経験をさせてもらいました」

そのように海外経験のみならず、同部では、国内における業務であっても、多様なキャリアパスを描ける可能性が広がる。

「『こんな面白い仕事ができそうだ』というヒントが当社にはたくさん転がっています。そのヒントを拾う意欲があることが大切。大神の欧州や米国の赴任経験、古槇のブラジル赴任経験、原田の経済産業省出向経験――おそらく本人も入社時は想定していなかったキャリアでしょう。しかし、最高に面白い経験をしたいと意欲的に仕事に向き合える人なら、そのヒントをきっと見つけて、自分の成長の糧にできると思います」(湯本氏)

  • YKK株式会社
    YKKグループの製造・開発拠点である黒部事業所。黒部には、法務、コンプライアンス、知財の3グループがあり、知財担当メンバーの割合が高い
  • YKK株式会社
    新型コロナ禍前は、グローバルリーガルミーティングや、グループコンプライアンスミーティングなどでメンバーが集結。現在はオンラインで開催

プレゼンスを高め、さらに経営に貢献

YKK株式会社
世界トップブランドたるYKKのファスナー。環境配慮型のファスナーの開発などサステナビリティも推進

「中途入社のメンバーから、『法務メンバーと経営層との距離が近い』とよく言われます」と、古槇氏。

「私たち全員、経営層に頼られる部にしていきたいという思いがあります。そのためには法務が積極的に業務範囲を広げていくことが大切。例えば、湯本は取締役会に出席していますが、私たちも社内の各リスク委員会などに参加し、法務のプレゼンスを上げていきたいと思っています」(古槇氏)

湯本氏も、「法務はまだまだ強くなれる」と考えている。

「『土地っ子になれ』の文化に根付く、“事業運営においては各事業会社とその独自性を尊重する”という考えを経営層以下、全社で共有しています。しかし、法務やコンプライアンスという観点では、各事業会社の考えを生かすだけでは不十分です。環境、人権、安全衛生など、法務・コンプライアンスという枠を超えて、予測が難しいリスクを回避していくために、グローバルに対応できるプログラムを推進していく必要もあるでしょう。これまでの文化を変えざるを得ない面もあるかもしれませんが、そこを当部が率先して、しっかりリスクヘッジをしていかねばならない。取るべきリスクと回避すべきリスクといった意見を積極的に述べていくべきです。そのように自ら手を挙げ、リスクに対峙し、常に経営に資する法務でありたいと考えます」(湯本氏)

※取材に際しては撮影時のみマスクを外していただきました。