Vol.88
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所属する19名全員が中途入社者(うち、日本法弁護士6名、外国法弁護士2名)。大手法律事務所、外資系法律事務所、政府系金融機関、事業会社など前職は様々。全員が法務部内いずれかのチームに所属するが、案件に応じてチームをまたぐ連携があり、適材適所で案件にアサインされる

所属する19名全員が中途入社者(うち、日本法弁護士6名、外国法弁護士2名)。大手法律事務所、外資系法律事務所、政府系金融機関、事業会社など前職は様々。全員が法務部内いずれかのチームに所属するが、案件に応じてチームをまたぐ連携があり、適材適所で案件にアサインされる

THE LEGAL DEPARTMENT

#151

PayPay株式会社 法務コンプライアンス本部 法務部

まだ歴史の浅いキャッシュレス決済サービスのさらなる安心・安全な運用を目指す

6000万ユーザーの巨大サービスを動かす

キャッシュレス決済サービスの開発・提供を行うPayPay株式会社は、ソフトバンク株式会社と現LINEヤフー株式会社の合弁会社として2018年6月に設立されたフィンテック企業だ。同社のキャッシュレス決済サービス「PayPay」のユーザー数は、サービス開始から5年半で6200万人を突破している。同社法務コンプライアンス本部は、22年11月に再編された。1つの組織だった法務部とコンプライアンス部を分け、各省庁との交渉を行う政策企画部、不正の監視やマネー・ローンダリング対策を行う金融犯罪対策部を加えた4部体制となった。コンプライアンス部では、コンプライアンス研修の企画・実施や規定作成のほか、営業や企画など一線を支援するビジネスコンプライアンスチームも部内に有する。今回、話をうかがった法務部は、5つのチームで構成されている。契約チームは日々寄せられる契約のレビューやスキームの検討・交渉・契約締結を支援。金融チームはPayPayカード、PayPay証券などのような金融関係企業との新規事業に関する規制法周りの調査を実施。本部内の他部と“横連携”するための主担当としての役割も担う。データ&マーケティングチームは景品表示法や個人情報保護法周りの専門的なアドバイスを担当。戦略チームはM&Aや投資案件など会社組織上のアドバイスを行う。そして知財チームは、事業部からの特許出願などのニーズの掘り起こしと、商標やブランドの管理などを行う。法務部のミッションを、法務部長の鵜木崇史氏に聞いた。
「我々に求められるのは、法律の解釈を通じて幅広く自社の事業を未来へガイドすること。当社は資金決済法という規制法のもとでビジネスを行っており、新規ビジネスも次々に立ち上げていますので、日々多岐にわたる大量の相談が寄せられ、それらに対応する必要があります。例えば、ポイント付与キャンペーンならば景品表示法が、データの連携や利活用ならば個人情報保護法が、PayPay証券などの金融サービスは金融商品取引法も関係します。新規案件の構想段階からビジネスにかかわり、リーガルサポートすることが主たる役割です」
ビジネスリスクを明確化・言語化し、自社が適切な判断を行えるようサポートすることも重要な役割となっている。そんな法務部のメンバー間で大切にしていることを、法務コンプライアンス本部長の鈴木秀俊氏が教えてくれた。
「部員一人ひとりが、“どのように成長していきたいか”を最も大切にしています。PayPayというベンチャー企業の法務部門を選んで入社してくれたわけですから、例えば個人情報周りなど特定の分野を究めたい人、逆にジェネラリストとして幅広い業務に携わりたい人――それぞれの希望、キャリアプランを実現していける配属先を、話し合いながら決めています」

自ら答えを探しにいく難しさと面白さ

決済ビジネスを行う事業者でありながら、金融機関でもある同社。それだけに、業務には多様かつ専門的な法律知識が必要になる。
「やはり、資金決済法が私たちの中心的なものになります。また、金融事業者として決済事業を行う以上、犯罪収益移転防止法も欠かせません。それ以外に、直接的ではないものの、外国為替および外国貿易法や金融商品取引法、特定商取引法などを理解しておかないと、加盟店への対応ができない場合もあります」(鈴木氏)
ただ、資金決済法については難しい部分があるという。
「元々は1対1の資金の移動を想定してつくられた法律なので、私たちのようなペイメント事業は想定されておらず、必ずしも参照条文などがあるわけではない。ゆえに、先行事例や判例も少ない。参照先がないため、自分たちで答えを探さないといけないわけですが、そこがこの仕事の難しさでもあり面白さでもある。当社が進む先で、法令等の違反にならない範囲で、より多くの方にサービスを利用してもらえる落とし所を探すため、常に“考える法務”であり続ける必要があるのです」(鈴木氏)
これまで国内証券会社や外資系投資銀行など、金融業界を中心に経験してきた鈴木氏。同社ならではの案件を話してくれた。
「Apple、Google play、Amazonなどに、我々の決済システムを導入しました。国内において、グローバルポリシーを持つ企業との提携は簡単なことではなく、そこを法的な面も含めて、いろいろクリアできているのはまさにPayPayらしい仕事といえます。それが実現できた背景に、我々の“個人情報保護へのこだわり”があります。QRコード決済市場において約6割のシェアを持つペイメント事業者ながら、これまで通信障害や個人情報などのデータ漏洩が一切ないのは極めて珍しいケースです」
大手法律事務所出身で、勢いのある会社かつビジネスサイドと近い距離で働きたいと考え同社に転職した鵜木氏は、そのスピード感にも驚くという。
「入社後すぐに、PayPayカードの子会社化とPayPay証券に対する出資という2つのグループ再編にかかわりましたが、どちらの案件も法務に相談が来てから極めて短期間でまとまりました。フットワークの軽さと意思決定の速さにびっくりしました。そのスピード感を緩めないよう、我々もプロアクティブに動けるよう、ビジネスサイドとは日頃からダイレクトかつ密接にコミュニケーションを取っています。一線に伴走し、自らビジネスを進めている実感がありますね。日常的に、『このサービスをこう変えたいけれどどう思うか?』など、論点の異なる相談が次々来ますし、日々新たな課題に立ち向かうことばかりなので、法律家としてのやりがいもあります。PayPayの名が付く会社やサービスが増えていますし、今後ますます多角化に向けて舵を切っていくのだろうと期待しています。サービスは大きなものになってきていますが、金融サービスのプロバイダーという観点で見れば依然成長過程なので、まだまだ伸びる余地があることが楽しみです」
鈴木氏も、こう補足する。
「世の中にないもの、お客さまが本当に便利に思うものをいち早くつくり、市場に送り出す――それが、当社の大事にしている理念で、我々も、そこに当事者としてかかわります。新たなサービスが世の中に広がっていくことを目の前で見ることができるのは、大きなやりがいです。
そんな、世の中にまだないものをいち早くつくり出していくには、我々自身が世の中のニーズが明らかになる前に、動かなければいけません。そのため、他社が1年かけることは1カ月で、1カ月かけることは1日で動く。私自身を含めて、入社者のほとんどが、最初はそのスピード感に面くらいますが、今ではそれが当たり前となっています」

日本中どこでも好きなところで働ける

働き方の特徴は、コアタイムなし、フルリモートである点。「Work From Anywhere at Anytime」――パフォーマンスが発揮できる環境なら、好きな場所で好きな時間に働ける。メンバーの中には、地方に住む人、3カ月ごとに住む場所を変える人、キャンピングカーで全国を転々としながら働く人もいるという。
「もちろん、全国にあるサテライトオフィスが利用できますし、在宅環境を整えるための補助金も支給されるので、多様な選択をすることができます。また、普段から自分の裁量で好きに休めますし、当然ながら有給休暇も別途取得できます。無用な残業についても厳しく管理されていて、オンとオフがしっかり分けられる環境です」(鈴木氏)
研修については、金融機関としての一般的なもの以外に、各自が受講したいセミナーや研修を自由に申請し、受講できる仕組みがある。
「業務の幅が広い分、つい目の前のことにとらわれがちですが、視座を高く持ち、意識的に学ぶ時間を増やすことを推奨しています。我々の事業は世の中の変化から大きく影響を受けますので、自ら最新の情報を取りにいき、世の中の動きに接してほしいと思っています」(鵜木氏)
最後に、法務コンプライアンス本部の課題について聞いた。
「“資金移動業者”と呼ばれる我々の業態は、まだまだ横のつながりが薄い。業界の動きをキャッチし、よりよいサービスを提供するためにも、業界全体のつながりを増やしていく必要があると考えています。私の考えでは、法務は内側に閉ざす必要はなく、もっともっと外に発信していくべき。何らかのかたちで、我々からの発信を一層増やしていきたいですね」(鈴木氏)
PayPay株式会社
基本的に働き方はフルリモート。出社には事前申請が必要となるため、対面で顔を合わせることはまれだという。その分、ZoomやSlack上でのコミュニケーションが非常に活発