Vol.89
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法務部門のメンバーは、約30名。法務部に10名、鉄道事業本部・支社の各総務課に2~5名、中央新幹線建設部に6名を配置する。なおインハウスローヤーは5名(法務部門に4名、人事部に1名)。ほとんどが60期台で、司法修習後、同社へ事務系総合職として入社している

法務部門のメンバーは、約30名。法務部に10名、鉄道事業本部・支社の各総務課に2~5名、中央新幹線建設部に6名を配置する。なおインハウスローヤーは5名(法務部門に4名、人事部に1名)。ほとんどが60期台で、司法修習後、同社へ事務系総合職として入社している

THE LEGAL DEPARTMENT

#154

東海旅客鉃道株式会社(JR東海) 法務部

鉄道の安全な運行を守りつつ新規事業への挑戦も果敢にサポート

標榜するのは開かれた法務

東海旅客鉄道株式会社の法務部門は、①法務部、②鉄道事業本部・支社(総務課内)法務担当、③中央新幹線建設部(管理部内)法務担当で構成される。各担当領域で、法律相談、契約書チェック、紛争対応、講習会の企画・開催などの業務を担う。話をうかがったのは法務部長の濱崎修氏、①で副長を務める松田佑子氏、③で係長を務める岩佐晃作氏。まず、濱崎氏にミッションを説明いただいた。

「“開かれた法務、伴走する法務として経営課題の取り組みに貢献する”を掲げ、鉄道事業をベースに様々な新規事業への挑戦を法律的な面から支援しています。当社ではコロナ禍以降、新規事業による収益の拡大と業務改革という2つの柱で、経営体力を再強化する戦略を推進中です。そのため全社で“自由に考えて、大いに議論し、粘り強く取り組む”ことが推奨され、法務部門のメンバーもアドバイザーではなくコンサルタントとして、各プロジェクト・現場に参画しています。法律問題の観点では、従来の鉄道事業では生じ得ない種類の法的対応も増えてきました。各部署の取り組みにコミットし、密接に連携しながらリスクを早期にキャッチし、取り組みを現場と一体で強力に推進していくため、①だけでなく②③の各部署に法務スタッフを配置しています」

  • 東海旅客鉃道株式会社(JR東海)
    名古屋本社内の法律相談室。法律関連書籍・資料が充実している一方、デジタル書籍の導入など、リーガルテック化も着々と進行中
  • 東海旅客鉃道株式会社(JR東海)
    名古屋本社法務部のメンバーは、毎月1回東京本社に出向き、“出張法律相談”を開催し、トラブルの芽や、プロジェクトの端緒を早期にキャッチ

現場と一体感を持って取り組む

同社新規事業の例は、多々ある。

「例えば、中央新幹線神奈川県駅(仮称)の周辺開発を契機に、地域の“関係人口”を増やす目的で、神奈川県・相模原市・JAXAなどと協力して『ファンタステックラボ』というイノベーション創出促進拠点の開設を果たしました。また、エクスプレス(新幹線予約)法人会員に向けたCO2削減効果証書の発行サービス、JR各社と協業して新幹線で荷物輸送を行う“東海道マッハ便”という新たなサービスも進行中です。こうしたプロジェクトの事業提携、商標管理や契約書管理などに対応しています」(濱崎氏)

それらの取り組みにおけるやりがいを、松田氏は次のように語る。

「そうした案件は、主に法務部の10名のメンバーが担当します。法務部は少人数なので、業務量に偏りが生じないよう、私が全体を見て担当業務を割り振ります。人数が少ない分、一人ひとり様々なプロジェクトを担当できます。配属されたばかりのメンバーも、プレスリリースで発表されるような案件を担当できるので、モチベーションが上がるようです。私自身は23年のJR東海グループ流通事業再編への関与が印象に残ります。検討段階からクロージング・PMIに至るまで一貫してかかわり、その後も気軽に相談してもらえる関係性が続くなど、関係者とのコミュニケーションを深められたことが、やりがいとなりました」

岩佐氏を含めて6名の法務担当が所属する中央新幹線建設部(以下、中建部)は、1000名を超える組織。岩佐氏が、このプロジェクトに法務担当として携わる、仕事の魅力を教えてくれた。

「中央新幹線計画は、我が国の大動脈輸送の二重系化、三大都市圏を約1時間で結ぶことによる巨大都市圏の誕生など、日本経済・社会活動の活性化に貢献する事業です。工事の安全、環境の保全、地域との連携を重視して着実に建設工事を進めており、法務が支援できる幅は広く、やりがいと責任ある業務です。組織を構成するのは、土木・建築・機械・電気の技術職など様々な専門分野を持つ人たち。有意な法務支援をするには、仕事内容も立場も異なる部員とコミュニケーションを密に取りながら、法務担当者間でも自由に議論してビジネスを前に進めていく必要があります。時には立場の異なる者同士で意見がぶつかることもありますが、その際に必要なのは、『この事業を実現させたい』という自分自身の熱意です。法務の機能を果たすための基盤は法務の専門性にありますが、知性と熱意のバランスを取り、関係各者と協力関係を築いた結果、『法務のおかげで事業が前進した』と言ってもらえること、そんなビジネスの第一線にかかわれることが、当社でインハウスローヤーとして働く醍醐味。また当社では、鉄道事業を軸に、自身が取り扱える法分野を広げ、知見を高めていけます。そうして得た知見を、どのようにノウハウ化し、蓄積して引き継いでいくかを常に考えながら業務に取り組んでいます。法務の視点で“組織と事業の持続性”に貢献することは、インハウスローヤーの役割だと考えています」(岩佐氏)

  • 東海旅客鉃道株式会社(JR東海)
    東京・名古屋・大阪間をつなぐ“日本の大動脈”東海道新幹線。沿線の地域社会との共生も見据えた多様な新規事業が進行中だ(写真提供/JR東海)
  • 東海旅客鉃道株式会社(JR東海)
    中央新幹線計画では、東海道新幹線の将来の経年劣化や災害などのリスクに備え、大動脈輸送を二重系化するプロジェクトで、同社が開発してきた超電導リニアが採用される(写真提供/JR東海)

専門性の向上と未経験者の教育が課題

濱崎氏は「鉄道会社は安全が最優先。だから全社員のコンプライアンス意識が高い」と言う。

「例えば“線路沿いの樹木の伐採”に関して、改正民法(不動産登記法)の社内講習会を開催した時は、多数の参加がありました。景品表示法や下請法の講習会などをグループ会社も含めてリモート開催した時も同様です。法務部門主催で宿泊型の研修も行っていますが、毎回参加希望者が絶えません。会社として、法務リテラシーのある人材を全社に増やし、コンプライアンス意識の向上を図るという方針もあって、講習会は頻繁に開催しています」(濱崎氏)

「中建部でも、部内向け講習会を開催しています。法務担当者自身の法務教育も兼ねるので、講師担当になったメンバーには、2、3カ月をかけて基礎から勉強して講習会資料を作成してもらい、例えば不動産分野や工事請負契約など、講習会で扱った分野の専門家になってもらえるよう指導しています」(岩佐氏)

同部門でのメンバー教育は、そうした講習会業務の経験も含め、OJTが基本だ。松田氏に、働き方についてもうかがった。

「フレックスタイム制や、在宅勤務の活用度は高いです。また当社独自の制度として、東海道新幹線の全区間で新幹線通勤が認められていて、関西方面から名古屋本社に通うメンバーもいます。その際、新幹線車内での執務が週に7.5時間まで認められます。自らのタスクに応じて最適な時間と場所を選択して、生産性高く働くことができます」

最後に部門の課題をうかがった。

「当社では、インハウスローヤーも含め、法務部門のメンバーも他部署の社員同様に事業部門への異動があり、一方で、事業部門や出向経験者など様々な経歴を有する社員を法務メンバーに迎え入れています。これは前述のとおり、“法務リテラシーのある人材”を全社で増やすという目的があるためです。メンバーが幅広い分野で経験を積めることは利点ですが、教育の観点ではインハウスローヤーや法的知識を有する管理職層のメンバーが中心となって、常に一から法務人材を教育していかなければならないことが課題とも言えます。そのため、インハウスローヤーをはじめとした法務人材の専門性の向上と、法務未経験者の法務リテラシーの向上――そのバランスを取りながら、経営に資する法務部門として組織力を高めるべく、私たち法務部門は取り組んでいます」