法務部では自社内で運用する生成AI「NP ASSISTANT」を活用し、英訳や議事録作成、初期法務見解の作成などの業務効率化を進めるとともに、事業部門が事前相談できる仕組みも整えた。これを土台に、FAQや契約書のひな形など既存のコンテンツ活用を促す「法務チャットボット」も開設。開発は、“法務業務のIT化”を年度目標(チャレンジ目標)に掲げた細見氏が、社内のIT部門と連携して推進した。
「現在は月に50~100件の問い合わせに対応し、定期的な内容精査と資料更新により、回答精度の継続的な向上にも取り組んでいます。法務という業務の特性上『回答精度は100%でなければならない』という判断もあり得たところ、『社員の役に立つ試みならば、失敗を恐れずまずはやってみよう』という安藤部長の後押しのもと、リリースに至りました」
こうした取り組みが評価され、生成AIは24年の社内表彰を受賞。現体制が始まった22年には“法務デスク制”の取り組みが表彰されているほか“事業部貢献や取引法務”などの実績が認められた複数のメンバーが個人表彰を受けた。安藤氏は、「どうすれば管理部門である法務部が会社に付加価値をもたらせるか」を全員で考え抜くことを重視しており、「お客さまにとって有益なアウトプットが最優先。法務部内の報告より現場を優先していい。各人がリスクマネジメントの感覚を働かせながら、不要と考える業務はしなくてよい」と、メンバーに明確なメッセージを伝えている。「その意識のもとで鍛えられたメンバーの活躍により、高い成果を上げられるチームになったと自負しています」と、安藤氏。こうして同部は、少数精鋭ならではの風通しのよさと、迅速な意思決定を強みに、社内でのプレゼンスを高め続けている。
「現状、業務面で深刻な課題はないものの、今年度の重点テーマとして掲げている経済安全保障や国際通商関連法令、とりわけ安全保障貿易管理や輸出入に関する法規制(外国為替および外国貿易法など)への対応強化と、当社が国内外で保有・活用しているライセンス契約に関する管理・運用の枠組みの整理など、国際案件への対応力を備えた人材の育成・確保が必要になると思っています。そして、より多くの付加価値を生み出すための効率化を進め、部内における国際案件の法務知見蓄積と実務対応力の強化に、引き続き取り組んでいくつもりです」(安藤氏)
「ビジネスパートナーとして、リーガルスキルの創造的発揮により、各事業が描く未来にコミットする」を部門運営方針として日々活動を続ける同部。「高い視点を持って、失敗を恐れず果敢に挑戦し、なおかつ自身と周囲の成長や行動変容をもたらすような経験を全員で積み重ねていきたい」と安藤氏。
「法務部は、製造・販売・技術など、サプライチェーンの各領域にかかわる幅広い法的課題を取り扱っており、部門横断的なテーマについても、主導的な立場で取り組む姿勢を大切にしています。日頃から、法的観点の支援にとどまらず、実行を見据えた判断領域まで遠慮なく踏み込む姿勢の重要性を、メンバーに伝えています。こうした実務経験を通じて、多角的な視点を持つ人材が育ち、将来的には当社の経営を担う人材へと成長していくことを期待しています。私たちはこれからも、法務の力でビジネスの可能性を広げ、組織全体の成長を支えていきます」(安藤氏)