Vol.93
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法務部には、常務執行役GCの井上由理氏(39期=右から4番目)を含め8名が所属。同部は、在宅勤務とリモートワークを併用し、週2~3日の出社でメリハリのある働き方を実現。効率的な環境の中で、質の高い法務サービスを提供している

法務部には、常務執行役GCの井上由理氏(39期=右から4番目)を含め8名が所属。同部は、在宅勤務とリモートワークを併用し、週2~3日の出社でメリハリのある働き方を実現。効率的な環境の中で、質の高い法務サービスを提供している

THE LEGAL DEPARTMENT

#164

日本ペイントホールディングス株式会社 法務部

“価値創造のパートナー”として、“攻めの法務”で塗料ビジネスの未来を切り拓く

サービス付加価値の最大化を目指す

140年超の歴史を有する日本ペイントグループは、世界48の国と地域で事業を展開する、塗料業界のリーディングカンパニーだ。2015年4月、持株会社体制の本格化に伴い、事業母体となっていた日本ペイント株式会社の事業部門を分社化。自動車用塗料、工業用塗料、建築用塗料、船舶用塗料、表面処理事業、原材料調達事業などの分野ごとに新たな事業会社を設立し、各分野における国内関連子会社を統合した。これら事業会社の持株会社である日本ペイントホールディングス株式会社の法務部は、シェアードサービス会社である日本ペイントコーポレートソリューションズ株式会社の法務部を兼務し、主に日本のグループ会社の法務戦略の立案・推進に尽力している。主な業務は、機関法務を含めた各事業会社のビジネス支援だ。部長の安藤勝利氏に、業務の進め方の特徴をうかがった。

「私たちは、できるだけ多くの付加価値を生み出す機会を増やすため、ただ相談を待つのではなく、自分たちから仕事を取りにいく積極的な姿勢を心がけています。そのために採用しているのが、①“縦×横”のアプローチと、②法務デスク制です。①では、建築用塗料や自動車用塗料などの事業領域を“縦の事業軸”、下請法や個人情報保護法などの法務領域を“横の専門軸”に置き、各メンバーは両方の軸を担当します。一人ひとりが各事業で得た知見を法務部内で共有し、全社で対応すべき法的課題は即座にグループ全体へ展開する体制を整えています。また、②は、一人ひとりが特定の事業会社を担当し、例えば週に1日など定期的に担当する事業会社に詰めて、事業部の課題やニーズをリアルタイムで把握、プロアクティブに対応するという仕組みです。こうした体制と仕組みを組み合わせて業務にあたることにより、単なるリスク回避にとどまらない、強い当事者意識に裏打ちされた“攻めの法務”を実現しているのです」

  • 日本ペイントホールディングス株式会社
    日本ペイントグループの塗料は、自動車や建築物など私たちの日々の暮らしを支える様々な製品に用いられている 
    「MAZDA CX-5(ソウルレッドクリスタルメタリック)」に日本ペイント・オートモーティブコーティングス(株)の塗料を使用。提供:マツダ(株)
  • 日本ペイントホールディングス株式会社
    六本木ヒルズ外装に日本ペイント(株)の塗料を使用。提供:森ビル(株)

現場との関係性を築くなか、成長を実感

主任の藤原大輔氏が、“縦×横”のアプローチと、法務デスク制による仕事の進め方について、具体的に教えてくれた。

「私は、法務デスク制で事業会社に常駐する日は、できるだけ多くの部門を訪ねて回り、『最近、困っていることはないですか?』『新しい工場のラインに当社の塗料が採用されましたね』などと声をかけ、日頃から気軽に相談できる関係性を築き、現場の皆さんにとって相談しやすい存在でいられるよう心がけています。こうした対話を通じて、私が担当する自動車用塗料事業自体の理解が自然と深まり、専門用語や技術的な知識を学んだことで、営業など様々な職種の方々と共通の土俵でやり取りできるようになりました。実際に、製品に関するある案件を担当した際は、いち早く工場に駆けつけ、担当者から直接ヒアリングを行い、顧客である自動車メーカーとの交渉を支援するなどして、課題の早期解決を図ることができています」

そう語ってくれた藤原氏の現在の“横軸”は、知的財産権だ。「法科大学院在学時は同分野を専攻していなかったものの、当社へ入社後、実務を通じて体系的に学び直し、技術的要素を含む特許明細書の請求項を読み解く力を身につけられたことは有益でした」と話す。人事部から異動してきた細見麻衣氏は、「“縦×横”のアプローチや法務デスク制は、成長のための“とっかかり”であり、成長の証にもなっている」と話す。

「自分たちで部門の困り事を拾っていきつつ、会社のため、ビジネスのための法務を実行しようとする先輩方の姿勢は、異動前に私が思っていた法務部のイメージと異なっていて、とても新鮮でした。前向きで積極的な先輩方のもと、個別の事業領域・ビジネスについて学びを深め続けています。また、“横の専門軸”があることによって『ほかの事業会社の場合はどうか?』といった視点を持つこともできています。このように、複眼的に事業を捉えることで『グループ全体の課題に対応できているか』という意識を持てるようになること、視野を広げられることが、この“縦×横”のアプローチという体制の利点だと思います」(細見氏)

  • 日本ペイントホールディングス株式会社
    2022年10月に法務部として独立した比較的新しい組織。「安藤部長は定期的に1on1を行い、興味・関心を引き出してくれる。期初には各自がチャレンジすべきテーマを決めて仕事に臨んでいる」と、藤原氏
  • 日本ペイントホールディングス株式会社

未来に向けた挑戦を続ける

法務部では自社内で運用する生成AI「NP ASSISTANT」を活用し、英訳や議事録作成、初期法務見解の作成などの業務効率化を進めるとともに、事業部門が事前相談できる仕組みも整えた。これを土台に、FAQや契約書のひな形など既存のコンテンツ活用を促す「法務チャットボット」も開設。開発は、“法務業務のIT化”を年度目標(チャレンジ目標)に掲げた細見氏が、社内のIT部門と連携して推進した。

「現在は月に50~100件の問い合わせに対応し、定期的な内容精査と資料更新により、回答精度の継続的な向上にも取り組んでいます。法務という業務の特性上『回答精度は100%でなければならない』という判断もあり得たところ、『社員の役に立つ試みならば、失敗を恐れずまずはやってみよう』という安藤部長の後押しのもと、リリースに至りました」

こうした取り組みが評価され、生成AIは24年の社内表彰を受賞。現体制が始まった22年には“法務デスク制”の取り組みが表彰されているほか“事業部貢献や取引法務”などの実績が認められた複数のメンバーが個人表彰を受けた。安藤氏は、「どうすれば管理部門である法務部が会社に付加価値をもたらせるか」を全員で考え抜くことを重視しており、「お客さまにとって有益なアウトプットが最優先。法務部内の報告より現場を優先していい。各人がリスクマネジメントの感覚を働かせながら、不要と考える業務はしなくてよい」と、メンバーに明確なメッセージを伝えている。「その意識のもとで鍛えられたメンバーの活躍により、高い成果を上げられるチームになったと自負しています」と、安藤氏。こうして同部は、少数精鋭ならではの風通しのよさと、迅速な意思決定を強みに、社内でのプレゼンスを高め続けている。

「現状、業務面で深刻な課題はないものの、今年度の重点テーマとして掲げている経済安全保障や国際通商関連法令、とりわけ安全保障貿易管理や輸出入に関する法規制(外国為替および外国貿易法など)への対応強化と、当社が国内外で保有・活用しているライセンス契約に関する管理・運用の枠組みの整理など、国際案件への対応力を備えた人材の育成・確保が必要になると思っています。そして、より多くの付加価値を生み出すための効率化を進め、部内における国際案件の法務知見蓄積と実務対応力の強化に、引き続き取り組んでいくつもりです」(安藤氏)

「ビジネスパートナーとして、リーガルスキルの創造的発揮により、各事業が描く未来にコミットする」を部門運営方針として日々活動を続ける同部。「高い視点を持って、失敗を恐れず果敢に挑戦し、なおかつ自身と周囲の成長や行動変容をもたらすような経験を全員で積み重ねていきたい」と安藤氏。

「法務部は、製造・販売・技術など、サプライチェーンの各領域にかかわる幅広い法的課題を取り扱っており、部門横断的なテーマについても、主導的な立場で取り組む姿勢を大切にしています。日頃から、法的観点の支援にとどまらず、実行を見据えた判断領域まで遠慮なく踏み込む姿勢の重要性を、メンバーに伝えています。こうした実務経験を通じて、多角的な視点を持つ人材が育ち、将来的には当社の経営を担う人材へと成長していくことを期待しています。私たちはこれからも、法務の力でビジネスの可能性を広げ、組織全体の成長を支えていきます」(安藤氏)