同事務所の特徴は、少数精鋭かつ高い競争力を有していることだ。
「基本的に、我々が取り扱うのは、企業法務系の法律事務所の多くが手がける、いわばレッドオーシャンと言われる業務分野です。しかし、少人数で集中して質の高いサービスの提供に取り組み、〝適正なコスト・スピード・正確性〟を維持することで、十分な競争力を確保しています。また、当事務所の弁護士は全員、『〇〇弁護士に頼むと何かが違う。頼んでよかった』と依頼者に言っていただける〝人的魅力〟を備えていると自負しており、それも競争力を高めている大きなポイントになっていると思います」(増田弁護士)
もう一つの特徴は、その〝レッドオーシャン〟から、〝ブルーオーシャン〟を見いだしている点にある。増田弁護士は、「エモーショナルコンプライアンス」と名付けた独自概念・理論の実践者として知られる。誰もが手がけるコンプライアンスという分野において、増田弁護士にしかできないアプローチで、名だたる企業の研修や制度設計を支えているのだ。
「試行錯誤を繰り返し、約20年かけて確立した私なりのコンプライアンスの概念です。ここ5、6年で大手企業の導入が増え、多くの方に知っていただけるようになりました。こうした独自性の強い分野を事務所の弁護士全員が持てるよう、『自分にしかできない分野を見つけ、磨き、専門性を高めていこう』と、日々伝え続けています」(増田弁護士)
とはいえ、同事務所のパートナーは、すでに各自が得意分野を有している。例えば、加藤祐大弁護士はM&A、小林康恵弁護士は知財・エンターテインメント、平島有希弁護士は労働関連法だ。事務所のホットトピックを、加藤弁護士に伺った。
「私の得意分野のM&A領域でいうと、事務所全体としても私個人としても〝同意なき買収〟が、昨今注力しているテーマです。いわゆる買収指針公表以降、〝敵対的買収〟と呼ばれていたものが再定義され、実務の流れが大きく変わり、企業の経営陣が検討すべき論点も量・質ともに増えています」
そうしたなかで加藤弁護士は、どのように依頼者と接するのか。
「今は過渡期であり、プラクティスの蓄積がまだ十分ではありません。だからこそ、経営陣がどのような視点で何をどう議論すべきかなど、〝具体性のあるアドバイス〟が求められていると感じています。そのうえで私自身が重視するのは、『一度、法律論から距離を置いてみること』。例えば、上場企業に対する同意なき買収において『公開買付価格が高いから、(ただその一事をもって)賛成すべきだ』という考え方は、間違ってはいないかもしれない。しかし、実際の意思決定には、それだけでは割り切れない複雑な要素が存在します。そんな時、私はクライアントの組織の一員になったつもりで、リスクを取ってでも『どのように動くべきか』という具体的な道筋を示すことを意識したアドバイスをしています。〝頭でっかちな法律家〟が苦手とする実務の最前線に、あえて踏み込むようにすることが重要だと思っています」
続いて増田弁護士に、〝前例のない取り組み〟となる注目すべきトピックについて伺った。
「我々は現在、シンガポールの法律事務所Drew & Napier LLCと連携し、日本およびアジアの投資家の代表の立場で、スイスの金融機関クレディ・スイスが発行したAT1(Additional Tier1)債の無価値化に対しての国際仲裁申立てを準備しています。この申立ては、スイス政府・日本間の投資保護協定に基づき、『スイス政府の措置が投資家の権利を侵害した』と主張するものです。日本では当事務所が初めて着手する、〝外国政府を訴える〟という前例のない方法を考えついたのは、シンガポールなど海外の弁護士・法律事務所とのネットワークがあったから。早い段階で情報を得て動くことができました。国際紛争もいわゆる〝レッドオーシャン〟の分野ですが、このように目のつけどころを変えるだけで、まだまだできることはあります。小規模な事務所だからこそ、機動力を持って新たな分野に挑戦できる――その特徴がよく表れた案件です」