Vol.21
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企業ではゼネラリストとしての能力が問われます。精度の高い法的分析能力の他に、迅速な事業遂行のための法的選択肢を具体的に提示し、さらに組織内でそれを調整する能力までないと評価が伴いません

企業ではゼネラリストとしての能力が問われます。精度の高い法的分析能力の他に、迅速な事業遂行のための法的選択肢を具体的に提示し、さらに組織内でそれを調整する能力までないと評価が伴いません

PIONEERS

企業内弁護士の先駆ならではといえるさまざまな葛藤を経験し、再び企業に活躍の場を見いだした

髙信 桃子

日清食品ホールディングス株式会社
管理本部 法務部課長
弁護士

#21

新時代のWork Front 開拓者たち―その先へ―

世界展開を行うメーカーで経験した、企業法務のダイナミズムと面白さ

「20代前半はまだ世間知らずで、大学卒業後すぐ就職することに不安がありました。司法試験挑戦は就職を先延ばしにする手段でもあったのです。しかし修習を終える頃、弁護士としてやっていくには世事に通じなければいけない、社会をよく知りたい、そのためには『企業内弁護士が近道』かもしれないと考えるようになりました。まだインハウスロイヤーが少ない時代で、同期では数人程度だったと記憶しています。当然ながら就職先の情報も少なかったので、司法研修所教官に相談。そこで紹介されたのがアルプス電気でした。ビジネス知識はともかく法律にはある程度の自信を持っていましたが、入ってみて法務部員のレベルの高さを実感。同社法務部では世界展開するグループ企業の契約書をほぼ全てレビューしており、業務スケールの大きさにも驚きました。同年代の社員から刺激を受けながら、法的文書のレビューや訴訟・係争などを担当し、短期間ながら海外勤務も経験。充実した3年半でしたが、実は将来に不安も感じていたのです。企業内弁護士の場合、訴訟代理人になる機会が事実上少ないので、このままでは裁判実務が抜け落ちるという焦燥感がありました。現在では、企業内弁護士が法律事務所に出向して経験を積む制度などもあるかと思いますが、当時は全てが第一号あるいは特例。頼めばトライさせてくれた会社だったと思いますが、一度は法律事務所勤務も経験したいと考えました」

渉外事務所での4年間。進路を考えるための海外留学

「世界展開する企業の法務を経験し、次は渉外事務所と目標を定めました。入った事務所の主要取引先は、日本でビジネスを行う外資企業。法務部門を持たない日本法人や、これから本格的に日本展開をする企業を、訴訟を含め幅広くサポートしていました。そこで私は、製造・IT・通信のクライアントなどを受け持ち、また国内ベンチャー企業からの法律相談も多く担当しました。そこの事務所は、都会の洗練された渉外事務所と街の親しみやすい法律事務所の両方の魅力を併せ持った事務所で、さまざまな業種の企業からの法律相談に幅広く携われることや、家庭的な雰囲気に居心地の良さを感じていました。ただ、入所4年目を迎えたころ、家族の体調が悪化したこともあり、また将来に不安を持つように。『このままで良いのか。本当にやりたい仕事は法律なのか』。そんな悩みを約1年抱き続け、“弁護士の私”をリセットするために、カナダへの留学を決意しました。『生物学でも何でもいい。本当にやりたいことを見つけよう』。そんな決意でカナダに渡り、北米の大学入学の事前プログラムとして英語を学ぶスクールに入学。全世界から集まってきたティーンエージャーと交流し、『人の評価を決めるのは人間性。弁護士の肩書は関係ない』というシンプルな気付きがありました。そのうち大学の人権擁護部局から声が掛かり、判例調査などを行うリサーチャーとして働くことに。そこで法の倫理や理論は、“世界共通言語”ということに気付き、法学の魅力を再認識。アメリカのロースクールへの進学を決めました」

世界展開をするメーカーで、ダイレクトに消費者と関わる法務業務

「帰国後の進路はインハウスロイヤーと決めていました。アルプス電気時代の原体験が想起され、今なら当時よりもっと企業に貢献できるとの思いがありました。またロースクールには日本の一部上場企業から派遣された、第一線で活躍するビジネスパーソンが多くいて、彼らの話に興味を喚起されましたね。カナダでの経験が自信となり、弁護士の肩書や人脈に頼らない『自分をアピールする力』を身に付けたことにより、また彼らと同じビジネスの舞台で自分を試したいと思うようになりました。その希望にかなったのが日清食品ホールディングスでした。海外拠点が多く、私が培ってきたリーガルスキルも多様な場面で生かせ、さらに消費者と直接関わる商品を扱うので、これまでにない経験ができると考えて入社。私の主担当は海外法務で、海外で展開する新規ビジネスのスキーム作り・許認可手続きの進行・リーガルリスクの分析や、すでに展開しているビジネスの見直しなどが主な仕事です。契約書レビューなどのいわゆる定常業務よりプロジェクトが多いことが特徴。直近ではタイ法人の合弁関係を清算し、100%子会社として再出発させるプロジェクトを遂行しました。海外法務で大切なのは、日本の本社と現地法人・現地弁護士とうまく調整を図り、適切な役割分担をしていくことです。例えば、業務難度に鑑みて大手事務所への依頼を考える本社、日本語が通じて小回りの利く小さな事務所を望む現地法人というように、意見が食い違うこともありますが、現地における仕事のしやすさを尊重しながら、うまく現地法人・弁護士をハンドリングしようと心がけています。法務部は少数精鋭といえる体制でM&Aから法務一般、特許、商標まで膨大な仕事をしており、課長の私は前述したプロジェクトに加えて、必要に応じて各ユニットに参画しています。
今後の私の希望は後進の育成・指導により深く関わることです。振り返ってみると、アルプス電気時代は上司から実に多くのことを学びました。その後、いろいろ遠回りをしましたが、その経験から伝えられることも多いはず。若い社員が法務部員・ビジネスパーソンとして、高い評価を得られるような指導をしたいと考えています」