インターネットを介して、世界191カ国以上で500万を超える宿泊施設を公開している「Airbnb」(エアビーアンドビー)。日本オフィスの法務統括責任者である渡部友一郎氏は、2015年より同社にジョインした。それは、「民泊は旅館業法上グレーゾーンではないか」と巷間で言われはじめていた頃だった。渡部氏に、入社時の印象を聞いた。
「まず驚いたのは、米国ユニコーン企業と呼ばれる世界的なイノベーションを起こしている会社の法的リスクの検討の深さと、リスクを〝計算されたスマートなリスク〞に磨き上げて、事業の意思決定に生かしていることでした。例えば、過去の法令の執行状況はもちろん、仮に執行された場合、どのようなディフェンスがあり得るかなど、〝リスク〞を生きた形で〝計算されたスマートなリスク〞に置き換える努力をしていたのです。若いITの外資系ゆえ日本法にあまり詳しくないだろうというイメージは覆され、勉強不足を感じました」
日々の業務である契約書チェックや翻訳は、外部法律事務所と協働することが多い。その代わり新しいルールづくりや、事業部が求める〝計算されたスマートなリスク〞を踏まえた戦略立案に尽力することなど、外部からは助言しにくい、〝事業に最もポジティブなインパクトを出す仕事〞への集中と、高い成果が求められる。
「当社の法務は公共政策部とも密接に連携しています。公共政策部のメンバーは政治や官庁の仕組みに精通したプロ集団です。例えば1970年に立法された旅館業法で、『ここが市場のニーズに応えていない』など、法律家として引っかかる〝法律の球(論点)〞があるとすれば、それをどこにいつどのように投げれば最も大きなインパクトを与えることができるかについては、公共政策の優れた才幹で決まります。いずれにしても当社法務の仕事においては、謙虚に、〝事業の効果・インパクト〞を最大化させる戦略的思考が重要だと思います」
そんな渡部氏のモチベーションは、「事業部の夢を叶えたい」という熱い思いだ。
「私は、いつ何時も事業部と共にあり、万が一の際には依頼者(事業部やその他部門)の援護も防御もできる〝懐刀〞でありたいと考えています。六法にも判例にも書かれていない前例のない問題は日常茶飯時です。スピード感をもって、論理的かつ最良の判断を行い、高い成果を実現することが期待されているのでプレッシャーは相当なものです。しかし、全社一丸となって冒険を楽しみ、併走していくことがこの仕事の醍醐味です」