Vol.87
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コーポレート戦略本部 知的財産・法務統括部では、契約・一般法務、ガバナンス・コンプライアンス、訴訟・係争の3分野でのジョブローテーションを想定。できるだけ全領域を経験させゼネラルな知識・ノウハウを身につけ、得意領域を見定め専門性を深めることを推奨する

コーポレート戦略本部 知的財産・法務統括部では、契約・一般法務、ガバナンス・コンプライアンス、訴訟・係争の3分野でのジョブローテーションを想定。できるだけ全領域を経験させゼネラルな知識・ノウハウを身につけ、得意領域を見定め専門性を深めることを推奨する

THE LEGAL DEPARTMENT

#145

本田技研工業株式会社 コーポレート戦略本部 知的財産・法務統括部

「新たな価値創造」を目指し、提携案件、特許訴訟などをスピーディに支援

法務と知財を融合しシームレスに対応

二輪、四輪、パワープロダクツ(汎用エンジン、船外機など)、航空機といった事業をグローバルに展開する本田技研工業株式会社。移動と暮らしの領域で「すべての人に、『生活の可能性が拡がる喜び』を提供する」というビジョンの達成に向けて、2023年4月にコーポレート戦略本部が新設され、その傘下に7つの部から構成される知的財産・法務統括部が置かれた。

同統括部の法務部部長の羽田隆弘氏、訴訟・係争部部長の神谷宏氏、ガバナンス・コンプライアンス部部長の木下浩二氏に、その役割などをうかがった。まず、法務部のミッションを羽田氏が教えてくれた。

「法務部は、リーガルリスクの把握と指摘のみならず、ソリューションの提案までが守備範囲であると考えております」

この組織変更に先立ち、同年1月に法務部門と知財部門が統合されたが、背景には「アライアンスなど高度な専門性を必要とする契約案件やグローバルレベルの訴訟案件の増加などにより、契約・訴訟などの総合的な対応力を上げる必要が高まったから」だという。

「特に、海外企業とのアライアンス案件は、共同開発などを含む技術提携案件が多くなっています。法務と知財が組織融合したことにより、技術提携案件では、知財領域のIPランドスケープ分析や技術デューデリジェンス(DD)と、法務領域の法務DDや提携スキームの検討・検証、契約審査、契約交渉などを統括部内でシームレスに実行できる体制になりました。変革期の自動車業界では他業界とのアライアンスも不可欠で、その検討・交渉段階で特許やソフトウエアなどの無体財産の重要性は一層高まっています。知財が元々取り扱っていたその実体的部分を法務と一体で行うことにより、さらに深い検討・交渉ができることを実感しています。また従前は、特許訴訟は知財、米国におけるクラスアクションやPL訴訟などの紛争対応は法務が主に担当していましたが、現在はすべての訴訟を訴訟・係争部がハンドルする体制となっています」(神谷氏)

なお海外での法務事案は、各地域の統括会社の知財、法務部門や駐在員と連携しつつ、ヘッドクォーターとしてマネジメントを遂行。海外各地域でも、組織的に法務と知財の融合を進めている。

部内では各種法令やアライアンス、事業再編、技術契約、特許関連業務などに関する研修・実務で得たノウハウを共有する機会も多々。本気で本音をぶつけ合う“ワイガヤ”文化で、議論も活発

異業種との協働や特許訴訟も増加

同社は「2050年カーボンニュートラルの実現」を目指し、21年4月に、「40年までにグローバルでEV、FCVの販売比率100%を目指す」と宣言している。事業の動きに伴い、同統括部では、どのような変化があるのか。

「当社はこれまで、“ないものは自分でつくる”といった自主自立の姿勢を貫いてきました。しかし、ガソリン車からEVへの移行、CASEやMaaSなど“ものづくり”から“ことづくり”への変化を先取りして捉えていくため、現在は、その領域で知見のある他社とのアライアンスや事業再編を積極的に進めています。特に今後は、EVの核となるバッテリー領域、エネルギー・マネージメント領域、リソースサーキュレーション領域など、実力ある企業と協業しつつ、技術開発や事業開発を行っていくことになるでしょう。同業他社との協業や、メガサプライヤー、半導体メーカーなどとの提携案件も増え、従来の常識やノウハウが通用しない新たな領域への挑戦となります。そうした企業とWin-Winのビジネス関係づくりを念頭に置き、知財・法務領域でのソリューション提案を行う。“広く・深く”考えることを求められるようになったことが、仕事における変化の一つです」(羽田氏)

EV用高出力充電網の構築に向けた、同社を含む北米自動車メーカー7社による合弁会社設立、高付加価値EVの開発・販売などを目的としたソニー・ホンダモビリティ株式会社やEV電池の研究開発などを行う株式会社Honda・GS Yuasa EV Battery R&Dの設立、ソフトウエア開発推進に向けたSCSK株式会社やKPITテクノロジーズとのパートナーシップなど、提携事案も活発に行っている。

「特に異業種との協業は、商慣習や企業文化による考え方の違いなどを乗り越えていかねばならないタフな契約交渉になります。例えば、自動車に不可欠なソフトウエアが問題を起こした時、補償の責任を誰がどう負担するのかといった点――当社が最も大切にする安全・安心――をどう保証するかといったことなど、技術進化により検討したことのない課題に直面することも。しかし各領域での専門性が高いほど、融合時に新たな価値を生みますし、その違いが大きいほど期待と成果も高いので、やりがいがあります」と、羽田氏。

また、訴訟・係争部では特許訴訟などへの対応――特に「米国での訴訟が多い」と、神谷氏。

「近年はOEMを狙い撃ちしてくるパテントトロール(特許訴訟専門企業)への対策・対応が増加しています。米国訴訟は透明性が高い反面、裁判所や裁判地の特性も加味して訴訟戦略を練る必要があります。大変ですが、それこそがこの仕事の醍醐味です。また、米国での訴訟が多いことから、訴訟業務については英語を使う頻度が高く、米国の社内・社外の弁護士とメールでのやり取り、オンライン会議も頻繁です。母語が英語ではないメンバーも語学力の向上に励み、現地の専門家を交えたワンチームでの仕事を楽しんでいます」

その挑戦は、次世代事業領域にも及ぶ。例えば、eVTOL(電動垂直離着陸機)、ロボティクス、宇宙領域などだ。

「JAXAとの共同研究や、リサイクル材の研究開発など、新たなパートナーとの協働も進んでいます。文系出身者が多い法務領域のメンバーにとって技術的な分野の理解は難しいものの、実際の現場で“現物・現実”に触れる“三現主義”で、エンジニアと協力しながらビジネススキームを構築しています」(羽田氏)

  • 従来事業の進化と、多くの次世代事業に挑む同社。知的財産・法務統括部の生み出すソリューションがビジネスの要となる。写真は、小型ビジネスジェット機の最新型「HondaJet EliteⅡ」(写真提供:本田技研工業)
  • ゼネラルモーターズと共同開発したEV「PROLOGUE」。2024年に米国で発売予定(写真提供:本田技研工業)

活躍の機会は平等に用意

組織変更では、ガバナンスおよびコンプライアンス機能も刷新。日本を代表するメーカーのコーポレート・ガバナンスの取り組みについて、木下氏にうかがった。

「ガバナンスでは、21年に指名委員会等設置会社に移行し、会社法が規定するすべての統制形態を実現したように、常に株主・投資家、お客さま、社会からの信頼を高め、迅速果断でリスクも勘案した経営の意思決定を可能とする体制構築に取り組んでいます。コンプライアンスでは、『Honda行動規範』をグループ全体で共有、各地域法務部門では地域・国の法令、慣習を考慮した法的リスク低減の取り組みを主導的に実施しています」

経営に資する法務対応組織としてのプレゼンス発揮を求められる同統括部。メンバー各自の成長にも、スピードが要求される。3部の業務すべてを担当できるよう数年単位でジョブローテーションを実施、海外駐在や子会社出向なども経験させる。新卒・中途入社、弁護士資格の有無を問わず、キャリアアップの機会は平等だ。

「ゆくゆくは各自がマネジメント層として活躍していけるよう、知財・法務領域全般を管理する能力と、自らの核となる専門性を身につけ、それを軸に、さらに難易度の高い問題に対するソリューションを見いだす力などを養ってもらいたい。そのためのジョブローテーションです。ビジネスに携わりたいと考えている弁護士の方にも、将来的には経営に関与していく上級マネジメントへの道も開かれています」(羽田氏)

最後に、同統括部が強化していきたい点を、羽田氏にうかがった。

「アライアンスや事業再編領域では一定のノウハウを積み上げてきましたが、今後はさらに難易度の高い案件への対応が求められると想定しています。また、ソフトウエア領域をはじめとする新しい事業分野への挑戦の機会も増えていきます。当社事業は人の命を預かるものなので、“安全”を最大の価値観としつつも、私たちもスピード感を持って新領域へ挑戦していかねばなりません。ゆえに自らの可能性を広げ、チャレンジを楽しめる人材の採用を強化していきたいと考えます」