大阪市のビジネスの中心地・北浜に本拠を構えるJPS総合法律事務所。顧問先の人事労務に関する相談や労働審判、訴訟など、企業の労働問題対応を得意とする事務所だ。使用者側の労働問題に対応する法律事務所は全国に多数ある。同事務所もその一つだが、特筆すべきは「団体交渉・労働組合対策において、比類のない団交出席数、団交対応実績を誇る」点だ。ちなみに、団交出席数は年間70回超。近畿エリアに限らず、日本全国からのオーダーに対応している。
「従前、団交案件に積極的にかかわろうという弁護士は少なかった」と語るのは、設立パートナーの一人、原英彰弁護士。原弁護士は勤務弁護士時代、誰もが引き受けることを嫌った団交案件に「骨は拾ってやるから行ってこい」とボス弁に送り出されて初めて出席。「それが意外と肌に合い、その後も『団交・労組対策なら自分が』と手を挙げ、経験を積ませてもらいました」と語る。
「労働事件を多く扱う法律事務所でも、労組との団交対応についてはあまり積極的に関与したくないのが本音ではないでしょうか。団交に出席するということは、労働事件の最前線で労使交渉にあたるわけですが、弁護士にとって当たり前の理屈・論理が通じないこともありますし、ありていに言えば“かなり泥臭い仕事”ですから。加えて、弁護士が労使交渉に積極的に介入すべきではないといった風潮も弁護士業界内に根強くありました。しかし、多くの企業経営者は『団交の席に着き、一緒に交渉してほしい』と考える。ニーズがあって、他者がやりたがらない仕事に価値を見いだしたのです」
2016年、「団体交渉・労働組合対策に強い事務所」を掲げ、同期の津木陽一郎弁護士と同事務所を設立。団交の魅力を、津木・原両弁護士にうかがった。
「例えば、訴訟の際には準備書面を用意周到に揃え、それをもとに証人尋問などに臨みます。団交も、経営者と交渉内容についてシミュレーションしたり、アドバイスをしたりと事前準備は重要ですが、団交の場での当意即妙、臨機応変、迅速果敢な対応を迫られます。それまで培った知識と経験を総動員しても、次々と予想もし得ないことを労組側から提示される。そんな時、不当労働行為のそしりを受けない対応を即座にしなければなりません。まさに、スリリング。それが、やりがいであり魅力です」
同事務所で扱った案件例として、次のようなものがある。「勤務態度の悪い従業員を解雇したところ、外部合同労組の執行委員を名乗る人物が来社し、当該従業員が労組に加入したので団交に応じよと言ってきた」という事案。その企業は団交経験がなく交渉に自信がなかったため、原弁護士に対応および代理人として団交への出席を依頼。解雇理由を整理し、団交時の説明準備を経営者と共に行った。議論はかみ合わなかったものの、団交以外の場でも協議を重ね、一定の解決金を支払うことで円満解決できた。「解決のポイントはいくつかあるが、団交の流れをシミュレーションし、経営者としっかり共有できていたこと」と原弁護士。
「まず、経営者にとって弁護士の同席は“精神安定”につながります。また、経営者に団交前の事前レクチャーを行い、『おそらく労組はこう言ってくる。次はこういう展開になる』と予測可能性を持っていただく。実際に団交時、そのとおりの流れとなれば、経営者は『ああ、原弁護士の言っていたとおりの展開になった』と安心できる。それが喜ばれているようです」
労働者側の権利意識の高まりもあり、当事者以外の親や配偶者が組合に加入し、団交の場に参加することもあるそうだ。“人の人生・生活”に深くかかわることになる労働問題。仕事の心構えを原弁護士に聞いてみた。
「勤務弁護士時代の大ボスの教えに、『一にハッタリ、二に度胸、三四がなくて、五にしょせん他人事』という五か条があります。最後の“しょせん他人事”は、責任感を持たないという意味ではなく、弁護士が“当事者化”してはいけないという意味です。人と人とのぶつかり合い、話し合いなので、弁護士も頭にくることがある。しかし当事者化せず、客観的に冷静に。かつ企業側の立場できちんと主張しつつも相手方に嫌われないような采配をする。常にそれを忘れることなく、仕事に臨んでいます」