海事法の下、国境を越えた“海事弁護士”のネットワークで海事事件を専門に扱う日本有数の事務所

岡部・山口法律事務所は、海事関係を専門とする日本有数の事務所である。その特徴を、山口修司弁護士に聞いた。
「海事関係が8割、民事・商事が2割。これがまず最大の特徴です。また、海事関係は船荷証券や用船契約・造船契約などを主に扱う“ドライケース”と、船舶の衝突事故や海難救助事件などを扱う“ウェットケース”と大きく2つに分けられます。例えば海上運航中に貨物に損害が生じた場合は、貨物側と船主側の争いとなる場合も。その両方を扱える事務所は、特に国内ではそう多くはないはずです」

海事事件という特殊性のため、大手企業でも顧問弁護士が処理しきれないケースが多く、保険会社や弁護士を通じて依頼が来ることが多々あるという。
「海事事件では、特有の法律(海事法)、国際私法、条約などの知識・経験が必須です。そもそも当該事件を扱える弁護士の数がグローバルで見てもまだまだ少ないため、国境を越えた“海事弁護士”の仲間意識・ネットワークは強い。海事関係は、そうしたネットワークも活用して事件解決に当たる、極めて渉外的な業務です」とは、左合輝行弁護士。戸塚健彦弁護士も、その特殊性を次のように語る。

「海事事件の国内判例は大変少ない。それは裁判に至る前段階で、多国間の海事弁護士同士のコモンセンスを基に解決できるケースが多いためです。当たり前ですが、依頼者にとっても、裁判をせず解決できたほうが喜ばしいでしょう。なぜ訴外あるいは訴訟に至らず解決できるかといえば、それは国際海上運送に関する国際条約(ヘーグ・ビスヴィルールなど)がベースにあるから。国を行き交う船舶間のトラブルは、国際条約という共通ルールのもと交渉しますが、議論のバックグラウンドが同一であるため、他国の判例も活用できるのです」
しかし裁判に至る例も、もちろんある。近年、関与した事件について、山口弁護士に尋ねた。
「日本の船会社が運行するコンテナ船海没事故が、近年関与した事件では最大です。2013年6月インド洋航行中に同船体が破断し、4300ものコンテナが海没したもの。貨物全体では約600億円の損害と言われています。船会社は、船主責任制限法に基づき、同年7月、東京地裁から“船舶所有者等の責任制限手続開始決定”を受け、それに対して私どもが、荷主の保険会社からの依頼を請けて約200億円の“責任制限の債権届出”を行いました。また船体が破断した理由をめぐり、翌14年1月、船会社が造船会社に対して製造物責任訴訟を起こしています。私どもで代理している約200億円についても同様の訴訟を提起しています。現在も継続中で、海外法律事務所の海事弁護士の協力も得て、手分けしながら進めているところです」

こうした事件をはじめ海事関係では、初動の調査、情報収集、交渉などが大事。同事務所では、入所1年目から海外へ送り出し、語学を含めて研鑽を積んでもらうという。
「台湾、香港、韓国などの近隣国を中心に、一人で行ってもらって、相手方の顔を見て話してくる経験をさせます。『まずトライしてこい。体感してこい』ということです。現場へとフットワーク軽く動く習慣、フェイストゥフェイスで意見交換することで認識する自らの強み弱み、それらを次に生かしてもらうべく、その機会を設けているのです」と、山口・戸塚両弁護士。
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『The Legal 500』Shipping部門で、毎年連続トップ選出(2015年も同様) -
海事判例を集めた英国『ロイズ ロー・レポート』、米国『アメリカン・マリタイム・ケーシーズ』が並ぶ。日本の海事関係裁判は年間20件程度。多くが訴外か訴訟前に交渉で解決。よって国内判例は極めて少ない。判例法国が同分野をリードしているため、これら判例集が重要な参考資料となっている
また、海外で行われる海事法のセミナーや大学院などへも、事務所が費用を負担して積極的に人材を送り出す。山口弁護士は言う。
「世界中から集まる海外での海事法の講義では、語学、法的知識のみならず、海事事件解決の際に必ず必要となる海外の弁護士とのネットワークも築いてきてほしい。しっかり学び、得たものを実務に即生かす、気概のある若手弁護士をぜひ採用していきたいと考えます」
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「東アジア海法フォーラム2014」(2014年11月8日・9日に早稲田大学で開催)の模様。山口弁護士が司会を務めた -
2013年「IUMI(International Union of Marine Insurance国際海上保険連盟)」ロンドン大会で山口弁護士が講演。同氏は10カ国の海事弁護士と協力し、「International Cargo Recovery Conference」を私費開催し、啓蒙活動に注力する