大阪・西天満で70年の歴史をもつ中本総合法律事務所。代表パートナーは、大阪弁護士会会長、日弁連会長を歴任した中本和洋弁護士だ。長年、民事裁判の改善や民事訴訟法刷新の必要性を説き、民事司法改革を積極的に推進、それをライフワークとする。その中本弁護士に、事務所の理念をうかがった。
「依頼者に対して、“最良の解決”を提供することが弁護士活動の基本です。最良の解決とはすなわち、“サービスの質の高さ”と“スピード”です。これをもって『誠実、迅速に価値ある法的サービスを提供する』を、当事務所の理念としています」
同事務所が絶対目標としているのは、顧客が望んでいるゴールに、できるだけ早く導くことだ。
「そもそも、私が民事司法改革に取り組むきっかけとなったのは、弁護士5年目頃のことでした。当時は、刑事も民事も手続きや段取りに時間がかかり、“早く解決したい”という依頼者の声に応えられる仕組みになっていませんでした。これでは弁護士という業界は廃ると懸念しました。
様々な取り組みによって、近年ようやく、民事裁判手続のIT化検討などが進み始めています。業界全体の変革にはまだ時間がかかりますが、少なくとも私たちは、依頼者の疑問・相談にその場で迅速に答え、その結論に間違いがあればきちんと謝り、訂正して正しい結論を伝えることを旨としています」
同事務所では、裁判所案件や商事仲裁、交渉案件やM&A、契約書等相談案件をほぼ均等割合で取り扱っている。家事事件や中堅・中小のオーナー企業の承継問題、IT企業の相談も増加しているそうだ。また、現在の顧問先は約130社を数える。
この地盤ができたきっかけは、中本弁護士が義父(2期)の事務所を継いだ時、顧問先だった大手商社が“駆け出しの弁護士”に仕事を任せてくれたことにある。中本弁護士は、そこから様々な商社と縁をつなぎ、当時、法整備がなされていなかった担保権などに先んじて取り組んでいった。
「例えば、動産売買の先取特権、集合物譲渡担保での仮処分、抵当権の物上代位、留置権(民事・商事)など、民法の条文はあるが実際に行使されていなかったことに挑戦し、便法を講じました。それが弁護士5~15年目にかけてのことです。また、それ以降は二十数件もの民事再生を申し立てましたが、再生計画はすべて裁判所から認可され、失敗したことは一度もありません。これらの仕事が事務所の評判を広く知らしめる結果となりました」
中本弁護士は、中坊公平弁護士のもと、整理回収機構において、不良債権等の適正かつ効率的な回収など、不良債権処理の促進にも関与している。そこで培った回収作業の知見を生かし、民事再生法施行後、多数の民事再生事件にも関与していったのだ。
民事再生は、平たくいえば“つぶれた会社を、社長に代わって生き返らせる”こと。資金繰りはもちろん、社員の信頼、債権者(主に金融機関)、取引先などの信頼を得て、会社の経営を回していかなければならない。
「何度も罵声を浴びながら、必死に関係各者に頭を下げて回り、会社再生への仕事に取り組み続けました。法的な知識だけではなく、粘り強さ、コミュニケーション力なども必要です。一つひとつに全力で取り組んだおかげで、当事務所は民事再生事件や債権回収に長けた事務所として、弁護士の間でも知られる存在になれたのだと思います」