Vol.72
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前列左より、宮崎慎吾弁護士(59期)、中本和洋弁護士(33期)、豊島ひろ江弁護士(50期)。後列左より、皆川征輝弁護士(69期)、上田倫史弁護士(63期)、鍵谷文子弁護士(61期)、鎌田祥平弁護士(66期)、下迫田啓太弁護士(72期)

前列左より、宮崎慎吾弁護士(59期)、中本和洋弁護士(33期)、豊島ひろ江弁護士(50期)。後列左より、皆川征輝弁護士(69期)、上田倫史弁護士(63期)、鍵谷文子弁護士(61期)、鎌田祥平弁護士(66期)、下迫田啓太弁護士(72期)

STYLE OF WORK

#134

中本総合法律事務所

弁護士として生きるための“姿勢や心構え”、“進取の気性”を次代につなぐ法律事務所

“最良の解決“は、質の高さと迅速さ

中本総合法律事務所
中本和洋弁護士(33期)

大阪・西天満で70年の歴史をもつ中本総合法律事務所。代表パートナーは、大阪弁護士会会長、日弁連会長を歴任した中本和洋弁護士だ。長年、民事裁判の改善や民事訴訟法刷新の必要性を説き、民事司法改革を積極的に推進、それをライフワークとする。その中本弁護士に、事務所の理念をうかがった。

「依頼者に対して、“最良の解決”を提供することが弁護士活動の基本です。最良の解決とはすなわち、“サービスの質の高さ”と“スピード”です。これをもって『誠実、迅速に価値ある法的サービスを提供する』を、当事務所の理念としています」

同事務所が絶対目標としているのは、顧客が望んでいるゴールに、できるだけ早く導くことだ。

「そもそも、私が民事司法改革に取り組むきっかけとなったのは、弁護士5年目頃のことでした。当時は、刑事も民事も手続きや段取りに時間がかかり、“早く解決したい”という依頼者の声に応えられる仕組みになっていませんでした。これでは弁護士という業界は廃ると懸念しました。

様々な取り組みによって、近年ようやく、民事裁判手続のIT化検討などが進み始めています。業界全体の変革にはまだ時間がかかりますが、少なくとも私たちは、依頼者の疑問・相談にその場で迅速に答え、その結論に間違いがあればきちんと謝り、訂正して正しい結論を伝えることを旨としています」

同事務所では、裁判所案件や商事仲裁、交渉案件やM&A、契約書等相談案件をほぼ均等割合で取り扱っている。家事事件や中堅・中小のオーナー企業の承継問題、IT企業の相談も増加しているそうだ。また、現在の顧問先は約130社を数える。

この地盤ができたきっかけは、中本弁護士が義父(2期)の事務所を継いだ時、顧問先だった大手商社が“駆け出しの弁護士”に仕事を任せてくれたことにある。中本弁護士は、そこから様々な商社と縁をつなぎ、当時、法整備がなされていなかった担保権などに先んじて取り組んでいった。

「例えば、動産売買の先取特権、集合物譲渡担保での仮処分、抵当権の物上代位、留置権(民事・商事)など、民法の条文はあるが実際に行使されていなかったことに挑戦し、便法を講じました。それが弁護士5~15年目にかけてのことです。また、それ以降は二十数件もの民事再生を申し立てましたが、再生計画はすべて裁判所から認可され、失敗したことは一度もありません。これらの仕事が事務所の評判を広く知らしめる結果となりました」

中本弁護士は、中坊公平弁護士のもと、整理回収機構において、不良債権等の適正かつ効率的な回収など、不良債権処理の促進にも関与している。そこで培った回収作業の知見を生かし、民事再生法施行後、多数の民事再生事件にも関与していったのだ。

民事再生は、平たくいえば“つぶれた会社を、社長に代わって生き返らせる”こと。資金繰りはもちろん、社員の信頼、債権者(主に金融機関)、取引先などの信頼を得て、会社の経営を回していかなければならない。
「何度も罵声を浴びながら、必死に関係各者に頭を下げて回り、会社再生への仕事に取り組み続けました。法的な知識だけではなく、粘り強さ、コミュニケーション力なども必要です。一つひとつに全力で取り組んだおかげで、当事務所は民事再生事件や債権回収に長けた事務所として、弁護士の間でも知られる存在になれたのだと思います」

中本総合法律事務所
大阪事務所、東京事務所合わせて、弁護士19名、事務スタッフ9名の陣容。「弁護士が一定数いなければ、育休や留学など、弁護士が働きやすい環境を整えられません。だから今後も弁護士の採用を続けます」(中本弁護士)

“弁護士力“を鍛える修業の場として

現在の同事務所の特徴を一言で表すなら、「渉外・企業法務に強い事務所」だ。ニューヨーク州やカリフォルニア州の資格を持つ弁護士、英語や中国語に堪能な弁護士たちが渉外案件に専門的に関与している。

そのうちの一人である三木剛弁護士が、2008年、東京事務所開設時の立ち上げメンバーとして着任した。

「近年、東京事務所で新規開拓した案件も増えてきました。扱う案件の範囲が広いことが東京事務所の特徴で、主に企業関係で強みを発揮しています。M&A、労働関係、クロスボーダー案件などに関与しています。企業法務でいえば、税務訴訟以外すべて網羅できているという状況です」

東京事務所には、内閣府国民生活局消費者企画課(当時)で、消費者団体訴訟制度の立案作業に携わった経験があり、消費者取引問題や景品表示法などに明るい大髙友一弁護士がいる。また、元検事で、国の代理人として民事訴訟のほか労働・行政・税務などの訴訟も担当した太田健二弁護士などが所属する。

「各自の多様な経験をもって、シナジー効果を生み出すことを大切にしています。東京事務所が関与する仕事と結果が、当事務所全体の存在感を高める助けになれば嬉しいですね」(三木弁護士)

中本弁護士は、「当たり前ですが、ボスが仕事を持ってきてそれを分け合っているようでは、いずれその事務所は廃れます。永続的な事務所運営のためには、一人ひとりが得意分野・専門分野を見いだし、自分自身の依頼者を獲得することが大事です。その集積が、結果的に事務所の力となっていくのです」と語る。

「当事務所では比較的早くパートナーになれますし、パートナーの自主性を重んじています。新規案件については、パートナー同士で話し合って、誰と協働し、報酬をどう分け合い、どのアソシエイトと組むかなどを決めてもらっています。ただし、早くパートナーになった弁護士については、すぐに“一人で稼いでこい”といっても無理なので、一定期間の収入を保証しています。全メンバーが、自主独立の精神をもって切磋琢磨し合いながら、この事務所を盛り立てていってほしいと、そう願っています」(中本弁護士)

弁護士として頼られる経験を

最後に、同事務所の代表パートナーであり、かつ元日弁連会長という立場から、中本弁護士より、若手弁護士へのメッセージをいただいた。

「私は、弁護士の魅力は4つあると思っています。①自由業であること、②信念を貫けること、③一定の経済力が得られること、④やりがいがあること、です。“自由業であること”の意味は、自分で働く場所や仕事内容を選択できるということ。多くの弁護士が、企業、法廷、国際機関、法律事務所、国、地方公共団体など、自分に合った職業・働き方を選択していますよね。次に、弁護士の使命は『人権擁護と社会正義の実現』です。各々の信念に従い、法律の専門家として人々の自由や財産、健康などの権利を守り、不正が行われることがないよう社会を守り、人々が安心して暮らせる社会づくりに貢献できる、それが“信念を貫けること”の意味です。“一定の経済力が得られること”は、“マッチマネー、メニーマネー”は難しいかもしれないですが、“サムマネー”が得られる仕事だということ。弁護士の使命を貫き、理想を求めて活動するには、生活の安定・一定の経済的基盤が必須だと考えます。そこはある程度保証された仕事といえるのではないでしょうか。

最後に“やりがいがあること”について。弁護士の仕事は、人や社会から感謝される機会が大変多くあります。依頼者の問題を解決できた時、心のこもった感謝の言葉をもらえることが必ずあります。若手の弁護士には、ぜひそうした機会をできるだけ早く経験してほしい。依頼者から頼られ、自分の力で問題を解決し、依頼者から感謝してもらえる――これこそが弁護士にとって一番の醍醐味だと思っています」

※取材に際しては撮影時のみマスクを外していただきました。

中本総合法律事務所
東京事務所には、弁護士4名と事務スタッフ1名が所属。顧客との相談、所内会議などでテレビ会議システムを活用する(画面手前右/三木剛弁護士、手前左/大髙友一弁護士、左奥/太田健二弁護士)

Editor's Focus!

所内には中本弁護士のご母堂作の“書”が多く飾られている。「真率」は「正直、誠実」という意味。「“王道”と頼んだところ、『偉そうで使うべきでない』とたしなめられ、この文字となりました(笑)」(中本弁護士)

中本総合法律事務所