Vol.76-77
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前列左より、篠原義仁弁護士(22期)、小野通子弁護士(63期)、川口彩子弁護士(55期)、山下芳織弁護士(55期)、渡辺登代美弁護士(48期)、三嶋 健弁護士(44期)、岩村智文弁護士(31期)。後列左より、西村隆雄弁護士(33期)、長谷川拓也弁護士(73期)、藤田温久弁護士(42期)、星野文紀弁護士(63期)、山口毅大弁護士(66期)、小林展大弁護士(68期)、川岸卓哉弁護士(64期)、畑 福生弁護士(70期)

前列左より、篠原義仁弁護士(22期)、小野通子弁護士(63期)、川口彩子弁護士(55期)、山下芳織弁護士(55期)、渡辺登代美弁護士(48期)、三嶋 健弁護士(44期)、岩村智文弁護士(31期)。後列左より、西村隆雄弁護士(33期)、長谷川拓也弁護士(73期)、藤田温久弁護士(42期)、星野文紀弁護士(63期)、山口毅大弁護士(66期)、小林展大弁護士(68期)、川岸卓哉弁護士(64期)、畑 福生弁護士(70期)

STYLE OF WORK

#148

川崎合同法律事務所

川崎の地に根ざし、市民のために人権問題・社会問題の解決に全力で取り組む

集団訴訟など大型事件に取り組む

川崎合同法律事務所の設立は、1968年。設立以来、川崎市民や、川崎市で仕事をする労働者の権利擁護活動に尽力してきた事務所である。例えば、現在の非正規雇用問題につながる「東芝柳町臨時工事件」、74年に発生した多摩川決壊をきっかけとする「多摩川水害訴訟」、82年の「川崎公害訴訟」など、市民と共に同事務所が闘ってきた裁判は枚挙にいとまがない。そんな同事務所の理念を、西村隆雄弁護士に聞いた。

「社会的に弱い立場に置かれた人たちと厚い信頼関係を結んで支援し、国や行政・大企業に対しては厳しく責任を追及していくというスタンスを基本理念としてスタートした事務所です。現在に至るまで、その理念に共感した多くの弁護士が、地域の人々のために頑張りたいという思いを抱き、事務所を継続・発展させてきました」

現在の業務は、労働事件、債務整理、離婚・相続、刑事事件、交通事故を含む一般民事が多い。顧問業務については労働組合の顧問が多く、企業の法律相談には対応しても、労働紛争になった際には使用者側にはつかないという明確な方針をとっている。そのような強い信頼関係のもとに、労働組合と協力して行う活動も多々ある。

特徴的なのはほぼすべての弁護士が、非正規切り・過労死事件などの新たな労働問題、アスベスト訴訟、原発訴訟、憲法擁護運動など、何らかの大きな事件や活動に、各自積極的に取り組んでいる点だ。例えば西村弁護士は、川崎公害裁判弁護団、東京大気汚染訴訟弁護団、首都圏建設アスベスト訴訟弁護団(神奈川訴訟の弁護団長)などに参加している。

「首都圏建設アスベスト訴訟は、裁判提訴から13年かけて、ようやく最高裁の統一判断が示されました。今後も新たな被災者が出てくることが予想されるため、政策形成訴訟として、裁判という枠にとどまらない展開を目指しています」

他事務所と協働で進めてきた訴訟で、事務所の若手弁護士も多く参加。この経験は、彼らにとっても大きな財産となったに違いない。

また、川岸卓哉弁護士は、入所時から労働問題に取り組んできた一人である。

「一例として、電気リストラと日立製作所における退職強要・査定差別の事件への取り組みがあります。本件は、日立製作所の課長職であった原告に対する面談による退職強要、それを拒否した原告に対するパワハラ行為および査定差別に対し、損害賠償を求めて横浜地方裁判所に提訴した事件で、2020年3月に退職強要の違法性を認める判決を、勝ち取りました」

なお、同裁判では退職勧奨の違法性が争点となったが、その過程におけるパワハラが問題視され、19年の労働施策総合推進法改正、および通称パワハラ防止法施行という流れにも多大な影響を与えている。西村弁護士は言う。

「労災事件、公害事件などの大きな事案になると、どうしてもある時期に集中して取り組まなければならない場合があります。極端な例ですが、3カ月間ずっと、その事案だけに集中することもある。そうした時、仕事の面でも事務所運営の面でも支えてくれるのが当事務所に集った仲間たち。それぞれの事情を察し、許し、互いに支え合う体制ができている合同事務所であるということが、当事務所の特徴であり強みです」

  • 川崎合同法律事務所
    執務スペースは各自が仕事をしやすいよう、アレンジしている。パソコンや書棚を自由に持ち込んで配置
  • 川崎合同法律事務所
    所内で委員会活動を推進。気軽に提案できるよう、提案事項は壁貼り封筒に投書する

組織力と個人力の両立

「労働や公害といった大型の事案には、全員で組織的に取り組むとして、他方、己の信条とするところや、その時代時代で問題となる事象にアンテナを立て、個々が自由にテーマをもって取り組むことも尊重してもらえる」と、川岸弁護士は言う。

例えば畑福生弁護士は、西村弁護士と共に建設アスベスト訴訟に取り組みながら、子どもの人権問題に力を入れる。また、LGBTQなどの性別に関する社会問題、医療過誤、貧困問題、外国人の人権問題に注力する弁護士もいる。

「つまり自分の中の人権感覚、あるいは社会の中で起きている問題について何か弁護士としてできることはないかと考えている人にとっては、本当に自由に仕事ができる環境。弁護団事件などを通じて勉強したことを自分の事案に応用することもでき、好循環で仕事が回っていると実感しています」(川岸弁護士)

事務所の運営についても、伝統は守りつつ、挑戦をいとわないことが特徴と、川岸弁護士は続ける。

「私たちは共同経営ですから、新入所者もパートナーの扱い。当然、事務所運営方法も全員で検討します。業務改善やWebマーケティングなどいくつかの委員会を設け、弁護士全員が参加して、そこで各企画の実施などを取りまとめながら推進しています」

そうした事務所の風土や、仕事の進め方の特徴などについて、畑弁護士が教えてくれた。

「当事務所は、所長という役割の弁護士がおりません。ですから“ボスの案件をみんなで回す”ということがないのです。電話やインターネットで寄せられる事務所相談については、全員持ち回りの担当制。相談を受けて受任したら、その弁護士が担当者です。“事務所事件/個人事件”と区別する事務所もあるなか、当事務所の場合は、“個人事件が100%”といってよいと思います。そのような運営スタイルをとっていますので、上下関係もありません。弁護士同士“さん付け”で呼び合います。もちろん先輩弁護士へのリスペクトはありますが、合議も対等に行えます。そのような風通しの良さが魅力です」

とはいえ、新入所者がいきなり受任して案件を回すのは難しい。入所後6カ月間は、先輩弁護士が法律相談時にサポートにつく。また、各先輩弁護士と最低1件以上協働することで、それぞれの弁護士のスタイルを学んでもらうかたちをとっている。

同事務所での仕事の仕方を、西村弁護士はこう説明する。

「弁護士は、基本的に独立独歩。1事件について1人が責任をもって行います。ただし集団訴訟の場合は、例えば因果関係の問題、損害の問題など様々なパートに分けてチームを組み、また証人尋問の原案をそれぞれが作成するなどして、全員で丁々発止の議論を行い、切磋琢磨し合う。弁護士としての技術力をみんなで磨き上げていく面白さがありますね」

川崎合同法律事務所
川崎駅から徒歩数分の場所にある同事務所。駅前街区が再開発で整備される一方、昔ながらの商店街・繁華街も健在で、多様な人々が働き暮らす、活気ある街だ。それだけに多様な相談者が訪れる

取り組みたいテーマを持つ重要性

今後、事務所をどう発展させていきたいか、川岸弁護士に聞いた。

「川崎における人権問題の砦として伝統を築いてきた事務所で、ここを基点に全国規模の事件にも取り組んできた自負があります。地域の市民に寄り添いながら、全国に支援を広げる活動を、継続・継承していける事務所であり続けたい。そのためには経営についても新規性や挑戦を意欲的に取り入れ、守るところは守り、時代に応じて変えるべきところは変えていける、そんな事務所でありたいですね」

最後に、西村弁護士に若手弁護士へのメッセージをいただいた。

「全力投球できる、取り組みたいテーマを持つことは大切。そこに時間と労力を使って集中的に取り組めば必ず、一人前の、その道の専門家となれます。また、事務所内だけで指導・被指導の関係は完結しません。取り組むべきテーマを見つけたら、事務所の内外を問わず、その分野に詳しい他の弁護士と共に、悩みながら仕事をしていく。そういった活動をし続けることで、弁護士としての技量がさらに上がり、新たな生きがいも生まれてくると、私は思います」

※取材に際しては撮影時のみマスクを外していただきました。

川崎合同法律事務所
2019年末の所内懇親会の様子。「新型コロナ禍以降、全員集合とはいきませんが、“レク委員”を中心に、オンライン飲み会を試みました」(畑弁護士)

Editor's Focus!

裁判日程などを書き込むための『訟廷日誌』。昨今はスマートフォンのアプリなどでスケジュール管理をする人も増えているようだが、分厚く膨らんだ手帳に、弁護士の多忙さ、プロフェッショナリズムがにじみ出る。写真は、西村弁護士愛用の手帳。いつでもどこでも手離さずに持ち歩くとのことだ。

川崎合同法律事務所