川崎合同法律事務所の設立は、1968年。設立以来、川崎市民や、川崎市で仕事をする労働者の権利擁護活動に尽力してきた事務所である。例えば、現在の非正規雇用問題につながる「東芝柳町臨時工事件」、74年に発生した多摩川決壊をきっかけとする「多摩川水害訴訟」、82年の「川崎公害訴訟」など、市民と共に同事務所が闘ってきた裁判は枚挙にいとまがない。そんな同事務所の理念を、西村隆雄弁護士に聞いた。
「社会的に弱い立場に置かれた人たちと厚い信頼関係を結んで支援し、国や行政・大企業に対しては厳しく責任を追及していくというスタンスを基本理念としてスタートした事務所です。現在に至るまで、その理念に共感した多くの弁護士が、地域の人々のために頑張りたいという思いを抱き、事務所を継続・発展させてきました」
現在の業務は、労働事件、債務整理、離婚・相続、刑事事件、交通事故を含む一般民事が多い。顧問業務については労働組合の顧問が多く、企業の法律相談には対応しても、労働紛争になった際には使用者側にはつかないという明確な方針をとっている。そのような強い信頼関係のもとに、労働組合と協力して行う活動も多々ある。
特徴的なのはほぼすべての弁護士が、非正規切り・過労死事件などの新たな労働問題、アスベスト訴訟、原発訴訟、憲法擁護運動など、何らかの大きな事件や活動に、各自積極的に取り組んでいる点だ。例えば西村弁護士は、川崎公害裁判弁護団、東京大気汚染訴訟弁護団、首都圏建設アスベスト訴訟弁護団(神奈川訴訟の弁護団長)などに参加している。
「首都圏建設アスベスト訴訟は、裁判提訴から13年かけて、ようやく最高裁の統一判断が示されました。今後も新たな被災者が出てくることが予想されるため、政策形成訴訟として、裁判という枠にとどまらない展開を目指しています」
他事務所と協働で進めてきた訴訟で、事務所の若手弁護士も多く参加。この経験は、彼らにとっても大きな財産となったに違いない。
また、川岸卓哉弁護士は、入所時から労働問題に取り組んできた一人である。
「一例として、電気リストラと日立製作所における退職強要・査定差別の事件への取り組みがあります。本件は、日立製作所の課長職であった原告に対する面談による退職強要、それを拒否した原告に対するパワハラ行為および査定差別に対し、損害賠償を求めて横浜地方裁判所に提訴した事件で、2020年3月に退職強要の違法性を認める判決を、勝ち取りました」
なお、同裁判では退職勧奨の違法性が争点となったが、その過程におけるパワハラが問題視され、19年の労働施策総合推進法改正、および通称パワハラ防止法施行という流れにも多大な影響を与えている。西村弁護士は言う。
「労災事件、公害事件などの大きな事案になると、どうしてもある時期に集中して取り組まなければならない場合があります。極端な例ですが、3カ月間ずっと、その事案だけに集中することもある。そうした時、仕事の面でも事務所運営の面でも支えてくれるのが当事務所に集った仲間たち。それぞれの事情を察し、許し、互いに支え合う体制ができている合同事務所であるということが、当事務所の特徴であり強みです」