Vol.84
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代表の山岡弁護士のほか、12名の弁護士が所属(2023年1月現在)。山岡弁護士は、内閣サイバーセキュリティセンターのタスクフォースや、総務省、経済産業省、警察庁から成るサイバーセキュリティ協議会運営委員会のメンバーも務め、企業法務の視点などから知見を提供

代表の山岡弁護士のほか、12名の弁護士が所属(2023年1月現在)。山岡弁護士は、内閣サイバーセキュリティセンターのタスクフォースや、総務省、経済産業省、警察庁から成るサイバーセキュリティ協議会運営委員会のメンバーも務め、企業法務の視点などから知見を提供

STYLE OF WORK

#172

八雲法律事務所

テクノロジー分野に大きな強みを持ち、個のキャリア形成を重視する事務所

技術的知見による“裏付け”が強み

開設は2018年10月。インターネット法務に特化したリーガルサービスを提供する八雲法律事務所。サイバーセキュリティ、システム紛争、個人情報・プライバシー、独占禁止法・競争法、ネット上の権利侵害などを取り扱う。山岡裕明弁護士に、理念と強みをうかがった。

「八雲法律事務所は、サイバーセキュリティを中心とした、テクノロジー分野に強いブティックファームを標榜しています。サイバー攻撃による企業の情報漏洩や大規模なシステム紛争など、インターネット上の法律的な問題における取扱件数はもちろん、高度な最新のテクノロジーに関する技術的知見を有していることが、当事務所の最大の強みです」

山岡弁護士は、約2年間カリフォルニア大学バークレー校の情報学大学院で、プログラミング、暗号理論、数学およびハッキングを学び、Master of Information and Cybersecurityという修士号を取得した。サイバーセキュリティに関する修士号の取得者は世界でもまだ少数であるうえ、弁護士の取得者というのは、世界的に見ても希少といえる。

「国家資格の情報処理安全確保支援士(RISS)の資格は取得していましたが、さらに技術的知見を高めたいと思って情報大学院に挑戦しました。また、RISSについては、現在13名いるメンバーのうち、私を含めて5名が取得しています。ここまで技術的な裏付けをしっかりと有している法律事務所は、めずらしいと思います」

そのような技術的なバックグラウンドの後押しもあって、「サイバーセキュリティ、データプライバシー、システム紛争などの、テクノロジーにかかわる依頼が増え、そうした案件を通じて事務所の技術的な専門性が、さらに向上するといった好循環に入っている」と、山岡弁護士は語る。

サイバーセキュリティ、紛争対応に尽力

同事務所の取扱案件のなかでも対応実績が高いのは、サイバーセキュリティに関する法的・技術的なサポートだ。例えば、ランサムウエア(身代金要求型ウイルス)によるデータ破壊は、売上高の損失や、最悪の場合は事業停止といった事態を招きかねない。ゆえにセキュリティ対策構築もインシデント対応も、経営層がリーダーシップを取り、組織全体で対応していく必要がある。山岡弁護士とメンバーは、そうした状況に置かれた経営層に、日々伴走している。これまでに関与した案件の例を、山岡弁護士にうかがった。

「ある日本企業の海外法人がサイバー攻撃を受けた際、私たちがインシデント対応の司令塔的な役割を担ったことがあります。経営層を中心に、法務、総務、IR、広報、情報システム(情シス)部門など全社各部門の責任者50名以上が参加するオンライン会議で、海外法人の状況や、技術的・法的問題と対応策などを、英語から日本語に翻訳しつつ、情シス以外の部門の方にもわかりやすく伝えるといった役目を担いました。グローバルなセキュリティベンダーや海外の法律事務所と、技術用語を交え、協働して進めるなどのプロセスも。経営層に近い位置で司令塔となり、全社一丸となって危機から脱する取り組みの最前線に立てたことは、プレッシャーは大きかったものの、挑戦しがいのある案件でした」

インシデント対応については「技術的な分野での対応とコンサルティング要素が強く、法律の知見が必要な場面は、むしろ限られる」と山岡弁護士。当該案件は、同事務所だからこそ対応できた一例と言える。入所2年目の70期代の弁護士は、こうした分野での仕事の醍醐味を、次のように語る。

「“先例がない”分野の案件が多いことが、八雲の魅力です。例えばシステム開発が絡む法律的な問題が発生した場合、“設計図をもとに一からつくる”点で、比較的似ていると言われる建築分野などの判例や議論を調べながら解決策を探ります。その思考過程や、技術的知見のある所内の仲間との議論も有意義です。また、RISSの資格を持っているとはいえ、クライアントサイドのエンジニアやインシデント対応時の調査にあたるフォレンジックベンダーなどと議論するためには、やはりさらなる勉強が不可欠。徹底的に技術的な内容について、必死で調べながら、現場の技術者と議論して、自分の考えをぶつけていく――それも私にとっては面白く、やりがいのある作業です」

近年増加傾向にあり、同事務所もよく取り扱う分野に、システム紛争対応がある。

「サイバー攻撃を受けた企業のインシデント対応を乗り越えた後、セキュリティの不備について、その企業のシステムを管理していた外部ITベンダーと紛争に発展するというケースが増えています。従来のシステム紛争は、“期待どおりにシステムが稼働しない点”にフォーカスされることが多かったのに対して、サイバーセキュリティにおいては、開発・保守管理していた“システムのセキュリティが十分であったか否か”にフォーカスされる。インシデント対応後に、億円単位に上る復旧費用の支払いなどを巡り、“企業とITベンダー、どちらが負担すべきか”で紛争となるわけです。自社独自でセキュリティを行っている企業は多くなく、ほとんどは外部ITベンダーに任せている。そこで、“外部ITベンダーに求償請求を”という流れになる。インシデント対応が技術に寄った仕事であるとすれば、サイバーセキュリティでのシステム紛争は、“技術×法律”であり、まさに当事務所の専門性が存分に生かせるエキサイティングな分野です。DXが普及すればこういった紛争が増えていくと予想しますし、私たちの活躍の場は一層広がっていくと思っています」(山岡弁護士)

とはいえ、外部ITベンダーだけに対峙しているわけではない。そもそも同事務所は、システム紛争対応において、ベンダー側でも多数の代理人経験がある。

「セキュリティについては、発注側と受注側との間で、責任の分担が明確でないことが多くあります。また、セキュリティに関する契約実務もいまだ定着していません。今後、サイバーセキュリティに関するシステム紛争が増えることで、受注側である外部ITベンダーは、セキュリティに対する意識が高まるであろうし、発注側としても、セキュリティを外部ITベンダーに丸投げするのではなく、積極的に取り組むようになると期待しています。実際には、裁判になってもほとんどが和解で終わっているものの、裁判を通じて責任の所在を明らかにすることで、受注側の外部ITベンダーと発注側との双方のセキュリティマインドが向上し、より安全なDX社会になる、私たちはそんな期待も持って、システム紛争に取り組んでいます」

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    山岡弁護士は、UCバークレーのSchool of Informationを修了し、Master of Information and Cybersecurityの修士号を取得
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個のキャリア形成が実現できる事務所

同事務所では、技術的な分野の専門性を高めるべく、外部のエンジニアを招き、システム開発はもちろん、デジタル・フォレンジックの最新動向など、実務に直結する技術的な内容の勉強会を定期的に行っている。加えて、IT関連の資格取得推奨や、学費全額支給の留学支援制度も実施している。

「当事務所の弁護士には、入所1~3年でRISSの資格取得、3~5年で留学、そこから数年後、専門分野の確立というキャリアステップを期待しています。学ぶべきことは多々ありますが、当事務所では“自分を高めるための時間”を確保することを非常に大切にしています。そうした時間を使って、ITや英語の勉強をしてもいいし、個人事件を開拓してもいい。ただ、個人事件に関してはジェネラルな法務業務ではなく、“尖った分野”で経験値を積み続けなさいと伝えています。実際、当事務所の弁護士は入所後1~2年も経つと、“技術に強い八雲に所属している”と評価され、修習同期からの紹介で、インターネット関連の案件などをよく受けています」

「こうした環境を生かして10年後、個として活躍できるキャリアを身につけてほしい」と、山岡弁護士。個として活躍できる弁護士を育てれば、自立して退所していく弁護士も増えてしまうのではないか。

「私自身も試行錯誤してきましたが、運よく時代の追い風もあって、今、テクノロジー分野に強みを持つ弁護士となることができています。そんな野心的な人、この分野に強い好奇心がある人と、切磋琢磨していきたいですね。自立した弁護士を輩出できる事務所であるなら、次はまたそれを目指す優秀な人材が入所してくれるはずですし、一方で独立・退所した弁護士は、当事務所にとってのよき“アルムナイ”となってくれるかもしれません。そのような好循環のサイクルを回し続け、事務所としての成長を目指します。そして、入所してくれた人には、本人にとって入所して良かったと思える時間を過ごしてほしい。そのための支援は惜しみません。まずは“仲間であるメンバーに報いたい”。これが第一義であると考えています」

※取材に際しては撮影時のみマスクを外していただきました。

Editor's Focus!

同事務所は、2024年中に弁護士20名体制を目指す。なお、事務所の売り上げや固定費などをすべて所内オープンにするなど、風通しが良くアットホーム。最大のウリは、「個人の可能性を広げるために時間を確保でき、10年後に個として活躍できるキャリアを形成できる事務所であることです」(山岡弁護士)

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