Vol.97
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所属弁護士30名の陣容(出向中の者を除く)。78期の弁護士まで、各世代がバランスよく所属している。取材にお応えいただいたのは、橋本弁護士と、野田学弁護士(後列、左から3人目)、太田帆南弁護士(前列、右から2人目)

所属弁護士30名の陣容(出向中の者を除く)。78期の弁護士まで、各世代がバランスよく所属している。取材にお応えいただいたのは、橋本弁護士と、野田学弁護士(後列、左から3人目)、太田帆南弁護士(前列、右から2人目)

STYLE OF WORK

#204

東京八丁堀法律事務所

訴訟・紛争対応で基礎力を鍛えた各人の専門性が、個と組織を強くする

伝統を尊重しつつも変化を厭わず挑戦

当初の事務所の設立は大正時代という歴史を持つ、東京八丁堀法律事務所。「長く続いてきた背景には、2つの側面がある」と、代表パートナーの橋本副孝弁護士。

「一つは、変わらないコアを持ち続けてきたことです。それは“顧客に高品質のリーガルサービスを提供する”という一貫した姿勢であり、理念として所内に根付いています。競争が増す弁護士業界は、過去に築いた信頼だけで次の依頼が得られるほど甘くはありません。そうした競争環境・緊張関係のなかでも、この理念をしっかりと継続・実行してきたことが事務所の支えとなっています」

もう一つは、「時代の要請に応じて変化すべき部分は積極的に変え、新たな強みとして発展させる進化の積み重ねです」と、橋本弁護士は言う。

「特に2000年前後の司法制度改革以降、社会のあり方が大きく変化するなかで、“これからの法律事務所の存在意義”を強く意識してきました。かつての伝統的な法律事務所で主流だった“ボス弁が自分と同じ職人を育てる”といったやり方では、これからの時代に対応できないことにも早くから気づいていました。当事務所は20年以上前から、一人ひとりの個性や専門性を伸ばし、多様化する社会や高度化する専門領域に対応できる“プロフェッショナルな弁護士”を育てるという方針を貫いています。コアとなる価値観を守りながらも、大胆に変化し続けてきたことが、今日まで多くの依頼者・関係者から評価をいただいてきた理由だと考えます」

「ファーストドラフトを任せてもらえますが、求められる水準は高いです。なぜその修正が必要か、どのような方向性で考えるべきかまで指導していただいています」(太田弁護士)

訴訟・紛争対応力と各自の専門性が強み

同事務所では、専門性を備えた弁護士を育てる方法として、“外部での経験”を推奨する。

例えば、行政機関や企業法務部での勤務経験、プロボノ活動や個人受任などの所外経験である。現在も70期台の弁護士2名が、行政機関や企業法務部で勤務中という。野田学弁護士は、入所6年目の時に任期付職員として公正取引委員会に勤務し、経済産業省で競争法関連の仕事にも従事してきた。こうした経験を生かし、同事務所で独占禁止法、中小受託取引適正化法(取適法)などの専門家として活躍中だ。

「もともと独禁法を専門に扱いたいと考えて入所したわけではありませんが、所内の様々な案件に携わるなかで、独禁法分野に関心を持つようになりました。当時、事務所内に同分野を専門的に扱う弁護士が少なかったこともあり、公正取引委員会で任期付職員の募集があった際、希望して赴任したのです。事務所の皆さんが快く送り出してくれたこと、大変感謝しています。在任中は行政の実務を通じて、独禁法をどのような視点で捉え、運用していくのかを学びました。事務所に戻ってからは、独禁法に加え、取適法に関する顧問先からの相談にも数多く対応しています。赴任中に得た知見を、日々の案件対応や事務所運営に還元しています」(野田弁護士)

「事務所としては、顧問先企業への対応をはじめとする企業法務を基盤としながら、特に訴訟・紛争対応で強みを培ってきました。一方で、各人がプロフェッショナルとして自らの専門分野を切り拓き、知見を深めていくこともしっかりと支援。そして、各人が培った専門分野の経験や知識を若手弁護士へ継承することで人材育成につなげていく。その積み重ねを通じて、事務所を発展させ続けているのです」(橋本弁護士)

事務所の強みである訴訟・紛争対応は、若手弁護士にとっては基礎力を鍛える場にもなっている。橋本弁護士は続ける。

「当事務所では、時間をかけて事実関係を調査し、法的な分析を尽くしたうえで説得力のある書面を起案することを重視しています。事案の方向の見極め、尋問への対応、依頼者への丁寧な説明や意向聴取なども重要ですが、特に大切にしているのは、事案全体を俯瞰し、この事件をどのように進めるべきかを考え抜く姿勢です。これらの点を、依頼者から評価いただけているのではないかと思っております。若手は、そうした一連の作業を厭わず、地道に積み重ねることで、弁護士としての基礎力が鍛えられていきます」

事案を十分に分析・調査し、メンバー同士で徹底的に議論を重ね、方針を導き出していく手法は、第三者委員会の業務にも生かされている。実際、同事務所には調査案件の依頼も多い。公表された事例としては、「種苗法違反等に関する調査報告書」が挙げられる。同報告書は、「第三者委員会報告書格付け委員会でも非常に高い評価を得た。もっとも、橋本弁護士は「我々は“黒子に徹する”ことも多いです。この件は、公になる案件であったため、対外的にも評価いただけましたが、公になるかどうかにかかわらず、良い仕事をしなければなりません」と、控えめに語る。

執務室内は、4~5名程度ずつ“島”に分かれて執務にあたっている。パーティションは低めに設定されており、対面とチャットの双方で情報交換も行っている

自由と個性が生かせる環境を尊重する

同事務所の顧客は付き合いの長い大手企業が多く、なかには戦前からの顧客も。一方で、各弁護士が“プロフェッショナル”として開拓した分野――例えば野田弁護士の独禁法・取適法のほか、弁護士会活動に端を発する高齢者財産管理・遺言・事業承継分野、情報法分野、知的財産法分野など――においては、ベンチャー・スタートアップ企業も多く、「バランスよく様々な案件がある」と、橋本弁護士。また、顧問先対応を含めた案件対応は「若手に主任を務めてもらう」ことが特徴だ。これは“継承”や“組織の持続性”を意識した取り組みである。太田帆南弁護士は、入所理由をこう振り返る。

「キャリアを築くうえで、まずは専門性を身につける必要があると考えていました。一方で、最初から特定分野に絞るのではなく、幅広い実務を経験したうえで、自分に合った分野や社会的ニーズの高い領域を見極めたいという思いも。その点、当事務所は多様な案件に携われる環境に加え、専門性を高めるための出向なども後押ししており、そこに魅力を感じました。また、幅広い分野に精通したパートナー弁護士から直接指導を受けられる点にも惹かれました。入所後、面倒見のいい先輩弁護士の指導と、若手でも主任で案件に携われることなどにより、多くの成長機会をいただいていると思います」

野田弁護士は、こうした事務所の風土を2つ説明してくれた。

「一つは、“チームで個人を育てる”文化があることです。案件には複数の弁護士がかかわり、若手にはファーストドラフトの作成などを通じ、主体的に考える機会を与えます。一方で、任せきりにするのではなく、経験豊富な弁護士が修正の意図や考え方を丁寧に伝えながら指導を行う。そうした積み重ねを通じて、チームとして若手を育成していく風土です。その背景には、クライアントから寄せられる相談の高度さがあります。一人で対応するには難しい案件が多いため、先輩が培ってきた知見や経験を次世代へ伝えていくことを重視しているのです。もう一つは、“個人が事務所を強くする”という考え方があること。行政機関や企業への出向、委員会活動など、弁護士が外部で経験を積むことを事務所として積極的に後押ししています。そこで得た知見や人的ネットワークが案件対応や専門性の向上というかたちで事務所へ還元され、組織全体の力につながっていると思います」

橋本弁護士は、事務所の今後について、次のように話す。

「各人が多様な分野のプロフェッショナルとなってきていますが、今後、社会の変化に応じて、弁護士に要請されるものも、弁護士のあり方も、さらに変わっていくでしょう。これまで以上に、弁護士一人ひとりが自由と個性を発揮できる環境・組織でありたいと思います」

企業法務を幅広く取り扱う同事務所。「組織の総合力を高めるため、技術の進展を見据えIT・AI分野などの強化にも力を入れて取り組みたい」と野田弁護士

Editor's Focus!

1カ月に一度、全弁護士が集まって判例研究会を行う。研究会終了後は、食事会を催すのが慣例。「入所2年目の私から見ても、所内の風通しが良いことが実感できます。ただ単に仲が良いのではなく、仕事についても先輩・後輩関係なく、率直に意見が述べ合える環境だと思います」(太田弁護士)(写真は、忘年会での一枚)