Vol.98
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左3人目から、東 史織弁護士(72期)、小川俊太郎弁護士(64期)、岩崎隼人弁護士、小埜一真弁護士(77期)。このほか、坂田朱莉弁護士(77期)を含め、弁護士5名、パラリーガル3名の体制(2026年7月現在)

左3人目から、東 史織弁護士(72期)、小川俊太郎弁護士(64期)、岩崎隼人弁護士、小埜一真弁護士(77期)。このほか、坂田朱莉弁護士(77期)を含め、弁護士5名、パラリーガル3名の体制(2026年7月現在)

STYLE OF WORK

#209

岩崎総合法律事務所

「富裕層法務」のフロントランナーとして、ファミリーとビジネスに向き合う

企業法務を土台とし、「富裕層法務」に注力

岩崎総合法律事務所は、2018年12月の設立以来、IT、医療、学術研究、金融機関など、多様なクライアントにリーガルサービスを提供してきた。法人向け・個人向け両方の案件を幅広く取り扱っているが、最大の特徴は“富裕層向けのリーガルサービス”に注力していることだ。代表の岩崎隼人弁護士に、その背景を聞いた。

「事務所を設立して3年ほど経った頃には、富裕層からのご依頼が自然と積み上がっていました。振り返ってみると、金融機関の方や税理士との協働がきっかけとなって、ご縁がつながってきたように思います。富裕層といわれる方々は、複雑な悩みを抱えているある種のマイノリティであり、その課題解決は必ずしも容易なものではありません。『ここにも弁護士としてのやりがいがある』と確信を持ち、富裕層向け法務への注力を決めました」

この思いを背景に、「LegalPrime®」という名のもと、富裕層向けのリーガルサービスを体系化した。

「富裕層の方々が『こうであってほしい』と願う正義の実現に向け、当事務所がご用意するリーガルサービスの総称です。最近は離婚事件や婚前契約、ファミリービジネス支援のご依頼が増加しています」

入所1年目で民事信託士に登録し、専門性の獲得に励む小埜弁護士。顧問先のために複雑な遺言信託の設計を進め、岩崎弁護士と論点の確認を行う

分野横断の対応力。人としてのあり方も重要

23年時点で、純金融資産5億円以上を保有する“超富裕層”は、日本国内では、全世帯のわずか約0.2パーセント(25年発表/野村総合研究所)と言われる。

「その希少性のため、富裕層法務に精通する弁護士は限られ、十分な経験を積む機会も少ないのが実情です」と、岩崎弁護士。

「富裕層の離婚では、一般家庭と異なり、離婚法務と会社関係法務が分野横断的に問題となります。そこでは、財産分与、会社経営、事業承継、税務が複雑に絡み合う、いわば“総合格闘技”的な能力が試されることが多々あります。これに加えて、富裕層世帯という特殊性が事件解決に大きな影響を与えます。『婚姻費用200万円は多すぎるのか』『財産分与10億円は妥当なのか』―― こうした問いに答えるには、法律知識だけでなく、富裕層特有の資産・所得構造や生活水準への深い理解が必要です」

もう一つ、増加傾向にあるというファミリービジネス支援の特徴を、岩崎弁護士はこう説明する。

「ビジネスも“人”が動かしています。例えば、同族会社にかかわる家族に問題が起きると、ビジネスも当然影響を受けます。相続、生前贈与、信託、結婚、離婚――これらはいずれも会社経営そのものに波及し得るリスクであり、場合によっては支配権争いに発展するなど会社の存続すら脅かしかねません。“経営(ビジネス)・所有(オーナーシップ)・家族(ファミリー)”の問題を切り離すことなく扱える弁護士の需要は、今後ますます高まるのではないでしょうか。例えば当事務所がそうであるように、創業家のためのリーガルサービスは、今後もっと注目されると思います」

岩崎弁護士は、「離婚にしてもファミリービジネス支援にしても、法的知見に加え、感情的な対立への配慮や人としてのかかわり方が求められることも多く、そこにもやりがいがあります。自分自身にとっても、ずっと続いていく課題なのですが、人としての成長も欠かせないと思います」と話す。

また、同事務所の仕事は「ある種、究極のコンサルティングです」と、岩崎弁護士は表現する。

「一人の人生にかかわり、紛争や法的なリスクをすべて逆算したうえで、個人の感情も踏まえ、あるべき落としどころを見つけていく。依頼者の人生全体を見渡すという意味で、ライフ・コンサルタントにも近い面があると感じています。世の中のどの弁護士よりも、その依頼者や取り巻く環境を知る“同伴者”でありたいという意気込みで取り組んでいます」

上質な執務環境にこだわり、事件記録のデータ化やAIの積極活用といったDXを推進。椅子はすべてアーロンチェアを使用。休憩スペースの設置や環境音の導入など、心地よく働くための工夫を行う

競争力のある専門性をAI時代に培う

富裕層法務への注力は、AI時代においても代替されにくい知見の蓄積につながり、“競争力の高い専門性”を持つ弁護士が育つ場になると考えている。岩崎弁護士はその背景をこう語る。

「複数の法分野にまたがる案件は、富裕層関係に限らず世の中に相当数あります。しかし、そうした案件に横断的に対応できる弁護士は意外と少ない。さらに富裕層案件となると、資産規模や家族構造、感情の機微といった富裕層ならではの要素が複雑に絡みます。そのような案件は件数自体も限られるため、経験を積む機会は一層希少です。当事務所では、まさにそうした案件に継続的に携われる。感情の問題や富裕層特有の複雑さはAIが対応しにくい領域でもあり、ここで鍛えられる実力はAI時代においても確かな競争力になるだろうと考えています」

まず各自の得意を見いだし、得意を発揮し得ることを積極的に任せていくのが、同事務所の方針だ。一件一件の案件に集中し、依頼者に深く向き合える環境づくりにも力を入れているという。

「当事務所では、どの案件も必ず2、3名以上の体制で取り組みます。役割は、主担当、レビュワー、サポートに分けています。どの案件をどう任せるか、どの役割を誰に任せるかは、まずその人の得意を起点に考える。そのうえで、“誰かの不得意”は、それを得意とする人が補う、といったチーム体制を大切にしています。一人ひとりが生き生きと仕事を進め、『これは自分に任せてほしい』と言えるスペシャリストになれる、そんな環境と仕組みを一層充実させていきたいと思います」

富裕層法務では、資産、家族、会社、感情が複雑に絡み合うなかで、何が本質的な解決なのかを考え抜く必要がある。依頼者の悩みは、資産の多寡だけでは測れない。孤独や葛藤、不安に向き合い、法的な解決にとどまらない支え方が求められる。こうした経験は、弁護士としての視野を広げ、人としての厚みを育てる。経験弁護士にとっても、これまで培ってきた企業法務、家事事件、相続、税務、信託、訴訟対応などの知見を、富裕層法務や創業家向けの支援に活用する余地は大きい。既存の専門性を土台にしながら、これまでとは異なる複雑さや奥行きに触れることで、新たな強みを獲得し、自分ならではの専門領域を築いていける環境を、同事務所では目指している。

「大切なのは、目の前の依頼者に誠実に向き合い、難しい問題から逃げずに考え抜く姿勢です。そうした経験の積み重ねが、競合にもAIにも代替されない、その人自身の力になると考えています」

同事務所では現在、経験弁護士の参画を積極的に求めている。岩崎弁護士が重視するのは、スキルや経歴よりも“人となり”だ。

「真面目で誠実な方と働きたい。これが率直な思いです。依頼者と向き合い、チームで仕事をする以上、誠実さと責任感こそが、大切だと、私たちは考えています」

富裕層法務には、どのような社会的な価値があるのか。岩崎弁護士に、あらためて聞いた。

「富裕層と呼ばれる方々の世間のイメージは“強者”かもしれません。しかし実際には、多すぎる資産や責任が、その生き方を複雑にし、特有の悩みを抱えていることが少なくありません。そうした悩みから解放してあげられること。それが依頼者を支える弁護士としての、これ以上ない価値だと考えます。また、富裕層の方々は自身や法人を通じて多くのステークホルダーに影響を与えています。彼らの課題を適切に解決することは、ステークホルダーひいては社会全体にとってもよい結果となるはずです。『自分が受け取っている以上のものを与えられているか』という問いを持ち続け、その姿勢で日々を積み重ねていくことが、社会貢献につながると信じています」

Editor's Focus!

岩崎弁護士は、富裕層や企業オーナー向けの著作物を上梓し、外部講演にも積極的に登壇している。なお、所内には、岩崎弁護士が師事した作家のアート作品が複数飾られている。法的な解決だけでは表現しきれない“非言語の世界”に関心を持ち、絵画を学び始めたそうだ。「依頼者の方々がそれぞれの決着を迎えた際、その歩みや思いを作品として描けたらと思い、作家に弟子入りしました」(岩崎弁護士)