「ファーストリテイリングでは、まず『持ち株会社化をやってくれ』と言われました。持ち株会社化は法的には事務作業中心。むしろ組織とオペレーションメカニズムを作り上げることに労力を使いましたが、ここではガバナンスやコンプライアンスが確立していたGEでの経験が役立ちました。また持ち株会社へ移行するなか社外取締役を迎えたこともあり、取締役会の運営に注力し、ガバナンスが機能するように努めました。その後、買収したフランスの会社で会長兼CEOになります。中間持ち株会社・婦人服・下着ブランドの3社を見る立場。名実ともにCEOとしての仕事を遂行したかった私は、権限を巡る創業者との緊張関係のなかで、営業方針・製品コンセプト・キャッシュのアロケーションなどの決定権を勝ち取りました。製造小売業の基本的な投資は出店で、どの街のどの通りに出すか、路面店かデパートかを自分で決める。ヨーロッパ中のファッションストリートを歩き回りましたね。そしてフランスで後継者を選んで2008年に帰国。ファーストリテイリングを辞した後、日本での事業再編を進める最中のシーメンスと出会います。シーメンスは、グローバル化、気候変動、都市化、高齢化などの世界を取り巻く喫緊の問題に全社で取り組んでいる一方、日本では意外にプレゼンスが低く、逆にそこに可能性を感じました。現在の肩書は取締役。法務・コンプライアンス・輸出管理部門の責任者です。インハウスロイヤーとしての私の持論は『契約書の背景にある意図、問題に気づいて一人前』というもの。その契約により社内外の人、物、金、情報がどう動くか、何がメリットとリスクなのかなどを事前に察知する能力がインハウスでは求められます。当然ながら会社のビジネスモデル・組織・プロセスを明確に把握することが必要で、『商品に興味を持て、会社を理解しろ』という表現で部下の自覚を促します。企業再編の契約にはPL・BS(※5)の知識も必要なので、会計の研修も受講させます。その上でマネジメントとのミーティングなど重要な会議をどんどん任せる。スキルアップに必要な未経験業務も積極的にやらせ、陰でサポートしながら彼らの手柄を作ります。こういう私の人材育成は、ビジネスの教科書にあるようなことを当たり前にやっているだけです。やはり私にはビジネスの世界が合っているようで、チームで仕事をして、みんなで成果をあげたい。だから後進指導にも時間を惜しみません。現在、最大のミッションである事業再編を終えたら、たとえば事業の責任者としてより広範なセクションにかかわって人材を育成したいですね。同時にシーメンスの日本におけるプレゼンスを上げる、主要な役割を果たしていきたいと考えています」
※1 現:東京青山・青木・狛法律事務所/ベーカー&マッケンジー外国法事務弁護士事務所(外国法共同事業)。
※2 現:GEヘルスケア・ジャパン。
※3 ジョン・フランシス・ウェルチ・ジュニア。1981年、GEの会長兼CEOに就任し2001年に退任するまで長年GEのトップとして強烈なリーダーシップを発揮した経営者。選択と集中、フラット型組織など企業経営をリードする多数のアイデアを生み出す。
※4 PET/CT:組織の機能を診断するPET画像と、位置情報や形を検出するCT画像が一つになった先端医療システム。
※5 PL・BS:損益計算書と貸借対照表。