Vol.19
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PIONEERS

行政訴訟の専門家を目指し任期付き職員として訟務検事に。行政法務の開拓を目指して

島崎 伸夫

法務省 東京法務局
訟務部 部付
弁護士

#20

新時代のWork Front 開拓者たち

行政訴訟などで国の代理人を務める“訟務検事”

行政訴訟など国が当事者となる訴訟において国の代理人を務める「訟務検事」と呼ばれる人たちがいる。市民や企業などからの国への訴えに対して、所管行政庁とともに対応する。訟務検事の多くは人事異動で検察庁から配属された検事や裁判官経験者である。その中にあって島崎伸夫氏は異色の存在だ。東京法務局訟務部で同僚とともに訟務検事をしているが、2009年4月に任期付き職員として採用されるまでは、長島・大野・常松法律事務所に所属する純然たる弁護士だった。

「事務所では訴訟を専門にしていましたが、行政訴訟の経験はあまりありませんでした。税務訴訟くらいは知っていましたが、どういった種類の事件があるのかよく分かっていませんでした。また、社会的に大きな事件を担当した際に、行政に対して何かアクションを起こせないか検討しましたが、具体的にどういった方法があり得るかよく分からず十分に検討できませんでした。私自身、専門分野を持ちつつ、幅広い経験をしたいと思っていたので、多くの弁護士が苦手意識を持つ行政法や行政訴訟の経験を積みたいと考えていました。そんなときに訟務検事の任期付き職員の募集を知りました。国の代理人になれば、まさに行政訴訟の専門家になれますし、日ごろ法廷で向かい合う検事や裁判官経験者との仕事は得られるものも大きいと思い、応募しました。それまで、訟務検事との接点は、司法修習生のころ法廷で見たくらいでした」

国が当事者となる訴訟には、具体的にどのようなものがあるのか。

「国が当事者となる訴訟は、国家賠償に関する訴訟、行政処分に関する訴訟、税務に関する訴訟、国有財産に関する訴訟などさまざまです。多くの事件で国は被告ですが、滞納した税金の取り立てなど原告となる事件もあります。仕事の種類に関して弁護士時代との違いで言えば、弁護士の仕事は訴訟以外にもいろいろありますが、東京法務局訟務部では訴訟に専念できることですね。他方、取り扱う事件の種類は非常に多様です。それに弁護士時代はおもに企業法務をしていたので、依頼者も訴訟の相手もほとんど企業でしたが、ここでは原告が個人の事件や訴額が大きくない事件が多いです。企業法務でも訴額にかかわらず重要な事件はありますが、ここでは事件の重大性と訴額は一層リンクしないですね。原告が弁護士を立てない本人訴訟も多いです」

“訟務検事”の経験を通して自身の法律観が変化してきた

訟務検事と弁護士時代で、氏の仕事の仕方は変わったのだろうか。

「オフィスの雰囲気は法律事務所とさほど違わないですね。検事や裁判官経験者と一緒に働くと学ぶことが多いです。例えば、裏付けを要求する程度、証拠の評価、心証の程度、判例や文献の調査の程度、判例の理解の仕方などです。皆、非常に仕事が丁寧だと感じます」

氏にとって変わったのは仕事の仕方だけではない。

「国の代理人というと、国を勝たせるために英知を結集している、国を正当化するために必死だ、などと思われがちです。また、国が被告だと、国がお金を払えば解決する、国がやればいいのにと言われることもあります。しかし、経験から言えば、それは違います。日本は法治国家ですから、行政庁は法律に従って運営しています。その中で不幸にも訴訟になった場合、訟務検事は一歩引いた目で事実関係や行政庁の対応を見て、正しい事実の認定と正しい法の解釈は何かを検討し、裁判で主張します。また、法治国家ですから、法的な根拠がないことはできません。国民の代表である国会が制定した法律の根拠がないことを国が行うということは、民主主義の観点からも適当ではありません。例えば、国がお金を払えば解決するから払えと言われた場合、一つの事件で応じると類似事件に波及するため応じられないという考えは、企業法務でもあります。これに加えて、国の場合は、1円であっても国民の税金が源です。それを特定の人に対して払うわけですから、国民の納得が必要です。ですから、しかるべき法的根拠がない状態で払うことはできません。そう考えると自分の仕事は、国益を守るというより、国民全体の利益を守る仕事だと最近は思っています」

行政法務という新分野の開拓を目指して

「行政処分を例に挙げると、その取消訴訟では、前提事実の認定と法令の解釈・適用が争われます。所管行政庁は、所管法令や実務について専門的知識と調査能力を持っています。他方、事実認定や法の解釈適用については、法律家がプロとして専門的知識と経験を有しています。いかなる行政処分も後に取消訴訟を提起され得ますから、省令制定段階や行政処分の前の段階で法律家が関与することが望ましいと思います。また、不幸にも紛争となった場合は、法律面でも事実面でも原因を探求し、その後の行政運営に生かすことが必要です」

いわば企業法務ならぬ行政法務が求められる時代ということだ。

「昔に比べて国の敗訴率が高くなったと言われます。国民の権利意識が向上し、訴訟の件数が増加したこともありますが、一般論で言えば、そもそも行政庁の対応に問題がなければ、訴訟の件数も、国の敗訴率も減少するはずです。逆に言えば、訴訟の件数が少なく、国の敗訴率が低ければ、それは行政庁の対応に問題がないということで、国民全体にとってハッピーなことだと思います。そのためには、行政運営のさまざまな段階に法律家が関与して、実質的な意味での法治国家を実現するのが理想です。また、行政関係法や国家賠償法は難解な法律ですから、公務員への研修の充実も重要だと考えています。今後はそういった仕事のお手伝いもしていきたいですね」