行政訴訟など国が当事者となる訴訟において国の代理人を務める「訟務検事」と呼ばれる人たちがいる。市民や企業などからの国への訴えに対して、所管行政庁とともに対応する。訟務検事の多くは人事異動で検察庁から配属された検事や裁判官経験者である。その中にあって島崎伸夫氏は異色の存在だ。東京法務局訟務部で同僚とともに訟務検事をしているが、2009年4月に任期付き職員として採用されるまでは、長島・大野・常松法律事務所に所属する純然たる弁護士だった。
「事務所では訴訟を専門にしていましたが、行政訴訟の経験はあまりありませんでした。税務訴訟くらいは知っていましたが、どういった種類の事件があるのかよく分かっていませんでした。また、社会的に大きな事件を担当した際に、行政に対して何かアクションを起こせないか検討しましたが、具体的にどういった方法があり得るかよく分からず十分に検討できませんでした。私自身、専門分野を持ちつつ、幅広い経験をしたいと思っていたので、多くの弁護士が苦手意識を持つ行政法や行政訴訟の経験を積みたいと考えていました。そんなときに訟務検事の任期付き職員の募集を知りました。国の代理人になれば、まさに行政訴訟の専門家になれますし、日ごろ法廷で向かい合う検事や裁判官経験者との仕事は得られるものも大きいと思い、応募しました。それまで、訟務検事との接点は、司法修習生のころ法廷で見たくらいでした」
国が当事者となる訴訟には、具体的にどのようなものがあるのか。
「国が当事者となる訴訟は、国家賠償に関する訴訟、行政処分に関する訴訟、税務に関する訴訟、国有財産に関する訴訟などさまざまです。多くの事件で国は被告ですが、滞納した税金の取り立てなど原告となる事件もあります。仕事の種類に関して弁護士時代との違いで言えば、弁護士の仕事は訴訟以外にもいろいろありますが、東京法務局訟務部では訴訟に専念できることですね。他方、取り扱う事件の種類は非常に多様です。それに弁護士時代はおもに企業法務をしていたので、依頼者も訴訟の相手もほとんど企業でしたが、ここでは原告が個人の事件や訴額が大きくない事件が多いです。企業法務でも訴額にかかわらず重要な事件はありますが、ここでは事件の重大性と訴額は一層リンクしないですね。原告が弁護士を立てない本人訴訟も多いです」