Vol.41
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PIONEERS

誰もが個性を生かして自己実現が目指せる社会を。世界の雇用平等の確保にこれからも貢献し続けたい

大村 恵実

アテナ法律事務所 弁護士
日本弁護士連合会 国際室室長

#25

The One Revolution 新・開拓者たち~ある弁護士の挑戦~

国際機関で勤務するチャンスを得られるのは、世界中のビジネスパースンのなかでも一握りの人材のみ。そんな難関を潜り抜け、日本の弁護士として戦後初めて国際労働機関(ILO)の本部職員となったのが大村恵実氏である。2010年から13年までの3年間、ILOでの勤務経験から大村氏が得たものとは。そしてこの先目指すものとはーー。

小さな法律事務所から国際人権法の世界へ

私が弁護士になりたいと思ったのは中学3年生の時。夏休みの宿題で傍聴した刑事裁判で、被告人の力になろうと懸命に頑張る弁護士の姿を間近に見て、「とてもかっこいい」と思ったのがそもそものきっかけです。

大学は、弁護士を目指して東大法学部に入学。司法試験合格、司法修習を終えた後、人権擁護に取り組んでいたミネルバ法律事務所に就職しました。私を含めて6名の小さな法律事務所でしたが、過労死や職場でのセクハラ、育児休業請求による雇い止めなどの訴訟や離婚などの家事、刑事など、弁護士として幅広い実務経験を積みました。

3年ほど勤務した後、携わっていた原爆症認定訴訟や残留孤児の集団訴訟を通じて、国際人権法についてもっと勉強したいと思い、ニューヨーク大学ロースクールに留学。国際法学専攻の修士号とニューヨーク州の弁護士資格を取得した後、NGOアメリカ自由人権協会・女性の権利プロジェクトでインターンを始めました。このNGOが、DV保護命令の法制について政府に政策提言を行う際、私は、全米の法制調査と、提言のドラフトづくりを任されました。インターンでしたが、スタッフの方々にとてもよくしていただき、英語だけの職場でも働けるという自信がつくなど、とてもいい経験になりました。

JPOとして国際労働機関へ

半年間のインターンを終えた後、日本に戻って再びミネルバ法律事務所で弁護士として働きました。英語を使った仕事も増えましたが、せっかく国際人権法を学んできたのだから、もう少しグローバルに男女の雇用平等の課題などに取り組みたいと考え、様々な方法で国連への採用募集にトライしましたが、なかなか門戸が開かず。そこで外務省に相談したところ、JPO(ジュニア・プロフェッショナル・オフィサー)に応募することを勧められました。結果、幸運にもJPOとして採用され、10年9月からILOの国際労働基準局の職員として、ジュネーブで働くことになったのです。

ILOでは雇用平等に関する条約を担当していました。加盟185カ国の政労使の代表が集う国際労働総会では、189の条約が採択されていますが、条約を批准した国の政府は、条文を遵守しているという報告書を定期的にILOに提出しなければなりません。それを審査するのが私たちの仕事でした。英語で書かれた報告書を精読、チェックし、また英語で毎日ドラフトし続けることによって、国際労働基準の知識や英語で仕事をする力が急速に高まっていったと思っています。

また、ILOのような国際機関では様々な国の職員が働いているのですが、言葉も文化も常識も全く違う人たちと一緒に物事を進めようとしても自分の思うようには全然動かないんです。赴任当初は大きな戸惑いとストレスを感じていたのですが、違うのは当たり前なのだからお互いの文化を尊重し合い、いろいろな違いを個性として許し合いながら一緒に働いていかなければならないと徐々に思えるようになりました。これも大きな収穫でしたね。

勤務期間は当初の予定では2年間でしたが、1年延長して3年間働いた後、帰国。アテナ法律事務所に所属すると同時に日弁連からオファーを受けて国際室でも勤務を始めています。今は、この国際室での仕事の比重が大きいです。

国際室とは、海外の弁護士会、国際法曹団体や国連など世界中の様々な機関から、日々多くの情報を収集したり、逆に日本の人権状況や法制度、日弁連などに関する情報を海外に発信している部署です。また、国際業務に従事したい日本の弁護士と仕事を、人材育成などを通じて結びつける橋渡し的な役目も担っています。

今年の1月からは室長を務めており、弁護士、研究員含めて9名のメンバーのマネジメントをしています。初めての経験ですが一人ではとてもできない大きな仕事に取り組めるのが楽しいし、意思決定できる立場にあって、大きなやりがいがあります。

室長としては仕事を円滑に進めるため、メンバー一人ひとりの個性を把握し、メンバー同士のスキルの組み合わせを考えたうえで仕事を割り振ったりする必要がありますが、このような時にILOで学んだ組織の意思決定のあり方や組織マネジメントの手法がとても役立っています。

まず弁護士として何を達成したいかが重要

若手の弁護士から、英語を使って仕事をしたい、国連で働きたいという相談をよく受けますが、法曹にとって英語はあくまでもツールのひとつにすぎないし、国連で働くこともやりたいことを実現するための手段のひとつでしかありません。なぜ英語を使いたいのか、何のために国連で働きたいのかという、弁護士として実現したいミッションを、悩みながらでも、時間がかかってもいいので見つける努力をすることをお勧めします。そこさえしっかりしていれば少々の困難があったとしても夢をかなえることができると思います。

私の究極の目標は、世界中の人たちが自己実現を目指し生きていける社会の実現です。人間の尊厳、充足感、幸福感などと密接につながっている〝労働〞を軸に、この目標に向かってこの先もずっと仕事をしていきたい。将来、その舞台がまた国際機関になっているかもしれません。