きっかけは、名古屋の法律事務所に勤務して5年目、研修所の同期会に出席したことだ。なかに大手証券会社の企業法務に転職した同期がいた。何か縁でもあったのかと聞いてみると、弁護士会のホームページで募集をしていたというのである。
「家に戻ってホームページを見てみると、たしかに、いくつかの企業が弁護士を募集していました」とは、村上玄純氏。2002年、三菱商事に入社して以降、同社のインハウスロイヤーとして活躍を続ける。
「それまで6年半、名古屋にある中綜合法律事務所の勤務弁護士をしていました。ボス2人に私という小さな事務所でしたから、すぐに一人で案件を任されるようになりました」
ここでは民事・刑事事件から家事事件まで、あらゆる事案に関与。個人の人生を左右するような、そして依頼人や相手の家族のことを考えるとやり切れなくなるような訴訟や示談など、胃の痛くなるような事件も多かった。コツコツと誠実に案件に対応する村上氏は次第に信頼を獲得。自身で顧問先を得る一方、名古屋勤労挺身隊訴訟、豊田そごう民事再生事件など、大型案件にも携わった。
「5年も経つと、一通り自分で回せるようになるんです。そろそろ将来について考えはじめていました」
事務所からは、パートナーにとの声もかけられた。独立という選択肢もあったが、取り立てて専門性もなく、やりがいのある仕事に取り組んでいる将来の自分をイメージできなかった。
「もうひとつの選択肢として考えたのは、自らの専門性を高めていく道でした。それで、ほかの弁護士が味わえない経験をしてみようと」
ホームページで見つけた三菱商事にメールすると、すぐに会いたいという返事。商社への入社は独自性があっていい、と評価してくれた先輩も多かった。