Vol.7
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PIONEERS

経営者やエグゼクティブに戦略的アドバイスが行える人材育成に励む

名取 勝也

日本アイ・ビー・エム株式会社
取締役 法務・知的財産・コンプライアンス担当
弁護士(第二東京弁護士会・38期)

#8

新時代のWork Front 開拓者たち

海外にかかわる仕事がしたいと外資系企業への転職を決意

欧米企業のインハウスロイヤーは、契約書の作成やレビューにとどまらず、経営トップに対して法的あるいはコンプライアンス上のアドバイスを行うことが多い。本誌11ページの特集にもあるように、欧米企業と日本企業とではインハウスロイヤーに求められる仕事や役割に差があるようだ。

現在、日本IBMで法務・知的財産・コンプライアンスの担当取締役を務める名取勝也氏は、グローバルなビジネス展開を推進する数々の欧米企業においてその手腕を発揮してきた、いわば日本におけるインハウスロイヤーの先達といえる。

「1993年、ヘッドハンターから『エッソ石油の日本法人部門の社内弁護士を探している』という電話があったのが始まりです。当時の私は、米国ワシントンの法律事務所に務めながらビジネス・スクールに通っていましたが、そのまま現地で仕事を続けるか日本に帰国するか迷っていたのです」

もともと海外とかかわりながら仕事をしたい、との思いを抱いて弁護士を目指したという名取氏は、エッソ石油への入社を決めた。

「米国系企業は、明確なレボーティングライン・システムにより組織が体系化され、法務部門には弁護士や質の高いスタッフが多くいます。どのような考え方や価値観で企業としての意思決定がなされるのか、そこで社内弁護士はどのような役割を担うのかを知ることができましたが、それほどの驚きも違和感もなかったですね。それに先立ち米国の法律事務所やビジネス・スクールで経験したり学んだことが役立ちました」

インハウスロイヤーとして1年目。ここでは一般的な契約書の作成・レビューや労働問題の相談・紛争解決などの業務に携わる。それからさらに半年ほど経過した頃、今度はアップル日本法人で人事部長を務める知り合いから「法務部長として来ないか」との誘いを受けた。

「当時のアップルは、PC産業や市場の急激な変化の影響を受け、日本法人においてもかなりの混乱が生じていました。私は、日本法人のジェネラル・カウンセルとして誰の利益を最優先に考え、判断・行動すべきかといった、コーポレート・ガバナンスに関する極めて重要で困難な問題に多く直面しました。前述の人事部長と協議を重ね、最善の提案を米本社に行うことで、日本法人のコーポレート・ガバナンスを回復・向上させた、という自負はありますね」

米国本社の基準でコンプライアンスを推進

こうして、社内弁護士としての経験や知識を高めていきながら、その資質を開花させた名取氏は、その後、サン・マイクロシステムズ取締役法務本部長、ファーストリテイリング執行役員法務部長を歴任。2004年1月には、世界の情報産業をリードするIBMの日本法人、日本IBMの法務・知的財産担当理事として迎えられるのではある。さらに08年には、同社のコンプライアンス・オフィサーにも就任した。

「01年のエンロン事件などがきっかけとなって制定されたSOX法により、米国で株式上場している企業は、財務報告の適正に関して極めて厳しい要求を受けます。つまり米国系企業は、その海外現地法人に対しても米国の法令や会計原則を適用することが多く、コンプライアンスに関して世界共通・最高の水準で推進することを求めます。意図的にコンプライアンスに反した行為をしてしまう社員が皆無とは言えませんが、総じて当社社員はコンプライアンスに関する意識は高いと考えます」

重要なのは、内部通報者を完全に保護して、たとえ小さな疑問点でも社員が問題提起する意識を高める内部体制を整えていくこと。そう語る名取氏は、弁護士の資格を持つ法務部員が経営者やエグゼクティブに対して、より高度な戦略的アドバイスが行えるよう、彼らの教育にも取り組んでいる。

「法務・コンプライアンス部門のトップとして、各部門の取り組みを推進・「サポートしていくにはどうしたらいいか、会社の利益をプロテクトするとはどういうことなのかを十分に理解できるよう、そのきっかけになる機会や実践方法を積極的に提供しています。例えば、弁護士は一つの問題を法律的に分析して、ある答えを見いだすことができます。けれど、その答えをそのまま経営者やエグゼクティブに伝えればいいというものではない。そこには、企業の利益や信用を大きく左右する問題が潜在しているかもしれない。うかつなことは言えないのです。ビジネスモデルの立案から契約の交渉や履行、あるいは紛争処理といったさまざまな局面において、最高のタイミングで的確なアドバイス、カウンセリングを行う。重要な役割を確実に果たしていける人材育成に励んでいます」

まさにインハウスロイヤーの王道を行く名取氏だが、尊敬する人物は新人弁護士として入所した法律事務所で指導を受けた桝田淳二弁護士と江尻隆弁護士だという。

「桝田先生には、日本企業間では初の敵対的買収といわれる、ミネベアによる三協精機株式の買い占めによる争いなど、重要な事件に関与させてもらいながら弁護士の基本を教わりました。企業に重大な問題が起きた時、経営者は何を考え、組織はどう変化していくのか。そして、弁護士はいかに経営者の気持ちを理解して、全力で事の解決に向かうのか。弁護士1年目にして、企業の神髄を知り、理想の弁護士に出会えたことは、その後の人生を大きく変えることになったのかもしれません」