現在、これまでで最も複雑なジョイントベンチャーに携わっている。
「全世界に子会社を持つ企業の一部門を、ほかの企業とジョイントベンチャーの形をとりながら買うという大型案件。2つの企業のデューデリジェンスを同時に行いますし、入札案件のため、そのスケジュールに合わせて進めなくてはいけません。どの交渉をいつまでにどの国で行い、税金的な観点の考察はどの段階で行うか、ファイナンシャルアドバイザーとどの時点で戦略をすり合わせるか、銀行との交渉はどうするかなどを、米国と日本の間で行っています」
総合商社ならではの、ダイナミックで複雑な買収案件やプロジェクトの契約交渉。それに伴い、国内のみならず海外の有力な弁護士らと議論したり、直接アドバイスを得られるのも、企業法務部の醍醐味だ。もともと、洋楽がきっかけで英語が大好きになったという北川氏。その嗜好と、弁護士という仕事が、両方生かせると同社に入社してから気付いた。
「そもそもビジネスロイヤーを目指したのも、渉外事務所なら英語を話す機会が多そうで、楽しそうだと思ったから。一方で、せっかく弁護士になったのだから、訴訟もやりたいとは思いました。日本の法律事務所で働くということは、訴訟弁護士になるか、渉外弁護士になるかの選択を迫られるように感じていましたが、ここならば、そんな選択をせずとも両方やれる。例えば今、アメリカの訴訟に関与しています。私自身が訴訟代理人としては立ちませんが、アメリカの訴訟についての勉強ができる。直接、海外の法律事務所と交渉も行える。交渉の当事者になれるという点は、魅力的です」
北川氏の仕事は、営業部・現場とのコミュニケーション、一体感が必須。楽しいことばかりではなく、入れ込みすぎて、ケンカをすることもある。たとえ現場はノーでも、「企業としてベストな選択は」という視点で、「譲らない意思の強さ」を示すことも企業法務には必要なのだ。
「でも、半年も経ってから『北川さんにあの条文を入れろと言われて嫌だったけど、後で助かった。ありがとう』と言われたのはうれしかった。これからも、そんなうれしい経験をたくさん積み重ねていきたいです」