Vol.48
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#10

SPECIAL REPORT

#10

クリエイターやアーティストに対し、法的な視点からのサポートを提供。10周年を経て、新たなステージへ

Arts and Law

Arts and Law (AL)は、2004年の発足以来、芸術・文化に携わるすべてのクリエイターの自由な表現活動やプロとしてのキャリア構築に関する支援活動を行ってきた。昨年活動10周年を迎えたALのコアメンバーに、その存在意義や活動に懸ける思いを聞いた。

無料相談など専門家集団がクリエイター支援

――具体的な活動内容は?

水野:メインとなるのは芸術・文化活動にかかわる方々への無料相談サービスの提供です。弁護士がプロボノの一環として、情報提供やアドバイスを行っています。そのほか、アーティストやデザイナー向けの法律セミナー開催、文化機関・団体の支援なども。無料相談は若手から中堅の弁護士が担当し、そのほかの活動については公認会計士、税理士、行政書士、司法書士、経営コンサルタント、広告代理店の社員など、各種エキスパートが参加しています。現在、実際に活動しているメンバーは30人ほどでしょうか。年間の無料相談対応件数は、100件を超えています。

作田:ここ数年は団体として動くというよりも、団体に所属しているメンバーが得意とする分野で、各個人が主体的に動いているという感じですね。テーマごとに活動する小さな組織体に分かれていて、それぞれのリーダーの下で自分の追求したいテーマごとにクリエイターと一緒に課題を洗い出し、解決手段を議論する勉強会や講演会が行われています。

――メイン活動の無料相談はどのように行うのですか?

藤森:ALの公式Webサイトに受付窓口があり、フォームに必要事項を入力して送信すると、1週間程度で相談員が個相談者に連絡します。その後は担当した相談員の判断で、メールや電話、直接面談など最適な方法で対応します。

――よくある相談は?

藤森:相談は当初、美術関係者が多かったのですが、今では出版、映画、音楽、漫画、Webなど、あらゆる分野のクリエイターに広がっています。相談内容として多いのが、やはり契約に関するもの。また、著作権や肖像権など表現活動に関する問題、トラブル予防、あとは起業に関する相談なども見受けられますね。

――相談を受ける時に気をつけていることは?

水野:クリエイターからの相談が法律的に難しい場合でも、簡単にダメだとか無理だとかは言わないことでしょうか。新しい表現を生み出す表現者のサポートとして、相談者の希望を100%叶えられない場合でも、法律の範囲内で実現可能な代替案や有益な知識・情報を提案するようにしています。

藤森:そこをきちんとやらないとALに相談していただく意味がないですからね。そのアイデアを出せるのは、我々がアートやカルチャーが好きで、一般的な弁護士よりも業界の言葉や文脈に通じているからだと自負しています。

山内:私は主に会計や経営などのお金周りの相談を受けていますが、専門家ともっと有益なコミュニケーションを取りたいという動機でご相談を寄せられる方も多い印象です。私自身も各業界で使われる言葉や文脈を意識して話すようにしています。

――公認会計士の山内さんは、共同代表理事なんですね。

山内:クリエイターの中には会計や税務などお金関係の話が苦手な方が少なくありません。でも、計数感覚を持つことは彼らにとって必要な武器になります。また、お金にまつわるトラブルには、正しい知識を持つことで回避可能なものも多いです。だから彼らに経営感覚や正しい知識と交渉力を身につけてもらうためご相談に乗ったり、講習会を開催したりすることもあります。私が共同代表理事になったのは2014年ですが、ALの体制を変えるにあたって、組織のデザインや今後のビジョンをみんなで話し合った結果です。

作田:ALでは多様性を尊重しており、冒頭でもお話ししたとおり、弁護士だけではなく、様々な専門家がメンバーとして参加しています。公認会計士である山内が共同代表理事を務めていることが象徴するように、法律家だけの集団ではありません。また、法律家と公認会計士が協働することによってよりスピーディで質の高いサービスの提供が可能になる点も大きい。弁護士はクリエイティブな個人や組織の経営基盤を強くするサポートはあまりやらないので、普段の経営的なサポートやアドバイスができる山内のような存在はすごく貴重です。

文化芸術を自由に提供・享受できる社会をつくりたい

――どのような思いで活動に取り組んでいるのですか?

藤森:文化や芸術は人が生存するために必要不可欠とまではいえないですが、それがないと生きていけないという人たちは少数ですが必ずいます。そんな少数者を受容できる社会になれば、きっとほかの大多数の人たちも暮らしやすくなると思うんですね。また、クリエイターを支援することは、文化や芸術を自由に享受、提供できる社会の実現につながります。だから我々の活動は少なからず社会貢献になるのかなと。大変な点は多々ありますが、もし明日死んだとしてもこの活動に取り組んで良かったと思える。それだけのやりがいと充実感を得られています。

作田:表現者って孤独で不器用な人が多いですが、そういう人たちが一般人にはとてもつくれないようなすごいものを世の中に生み出し、多くの人がそれを享受しています。そういう社会をつくり、守りたいので、表現者を支える活動をしたいという思いが根底にあります。同様の活動団体がもっと増えれば社会基盤として整ってくると思います。

水野:僕らの活動はボランティアなのでどうしてもチャリティのように見られがちですが、決してそうではありません。弱者を保護するという視点よりも、僕ら自身、文化や芸術を愛しているから、また、クリエイターから利益を享受しているからこそやっているわけです。クリエイターやアーティストたちと対等な関係でこの活動に取り組んでいるつもりです。

作田:活動理念の一つの柱に、「サポートの裾野を広げる」ということがあります。弁護士以外の幅広い専門家が集まるというだけでなく、当団体の相談員の育成も重視しています。インターン生に実際の案件を扱わせて指導しているのですが、そういう人が育って増えていけばサポートの裾野が広がりますからね。

山内:ある個人や組織が、丁寧にものをつくっていくためには最適な規模があるようにも思いますし、必要なクリエイティビティを犠牲にしないマネジメントの仕方があるとも思うんですね。その経営感覚のコアになるのが会計の知識。会計は現実を写す鏡のようなものであり、それらを通じて活動を設計するお手伝いをしているという感覚です。

――今後の目標を。

水野:今は首都圏での活動が中心ですが、この仕組みを地方、さらには海外にも広げていきたい。また、創造性豊かな社会の実現のため、文化・芸術やビジネスに関する政策提言ができる組織になりたいですね。