独自の研究開発をベースに成長を遂げてきた同社は、ここ数年、M&Aにも積極的だ。
「2007年以降、3社の事業買収を行いましたが、これからも案件は増えるはず。法務部としても、そうした新たな経営戦略に、的確に対応していかなければなりません」
企業法務は、M&Aにどのようにかかわるのだろう。
「いつも同じというわけではないが、まずは互いに秘密保持契約を結び、関係する情報を交換します」
実際にはこの段階で〝破談〞になるケースもあるのだという。
「交渉が本格化すれば、さらにお互いを拘束する条項を含む契約を締結します。これには、今後のスケジュールや買収金額のめど、さらには途中で第三者に乗り換えないという約束などを、織り込みます。そして、買収対象が損害賠償を抱えていないかといった精査、いわゆるデューデリジェンスを実施します。このステージは外部の法律事務所なども活用し、問題がなければ本契約となるわけです。M&Aは事業変革につながるなど大きなメリットをもたらしますが、問題のある企業を買ってしまったら、経営責任を問われる事態になりかねません。責任の重大さも自覚しています」
ところで、多種多様な部品を供給する同社のこと、まれに製品の不具合も起こる。
「高額の賠償を請求されることもあります。その場合、法務部ができる以前は、リーガルに解決するという視点が希薄な時もあったようです。当然ですが、不具合事故について契約書ではどうなっていたのか、記載がなければ法律に照らしてどこまで責任を負うべきなのかなどを詰めたうえで、きちんと交渉しなければなりません。そこに法務部が本格的に〝介入〞するようになって、実際に賠償額を何十分の一に減らせたこともあります。こうした交渉に法的観点を持ち込めたという点では、微力ながら貢献できたのではないかと思っています」