金井氏はこれまで、銀行の法務部などで渉外案件、証券化、会社更正、あるいは私的整理ガイドラインの上場企業初適用となった案件に携わってきた。また、不動産ファイナンス部などでのフロント経験も。そうした経歴を持つ金井氏は、常に〝法務部員としてのマインドセット〞をメンバーに伝えてきた。
「法務がフロントと密接にコミュニケーションを取ることが、非常に重要。ですから当社では、顧客との交渉の場に社内弁護士を同席させることもありますし、法律事務所と同様、マーケティングに類することも行ってもらいます。フロントとのやりとりを通じて、ビジネスの背景を十分理解する。そうなれれば行き詰まった時に、想像力や創造力が働き、〝代替案〞を提示できる。いわばブレーキとアクセル両方の役割を果たさなければならないのが法務の仕事です。特に社内弁護士には、フロントからの相談に対してリスク回避的にならず、バランスを取ってアドバイスしなくてはならないこと、各自が〝社内クライアント〞をしっかりつくっていくようにと、折にふれ伝えています」
自社のビジネスをよく理解し、社内クライアントを増やすことが、なぜ大切か?「法務もプロフィットセンターになれる」との金井氏の言葉に答えがある。
例えば2008年に起きたJ-REIT初の経営破綻(ニューシティ・レジデンス投資法人)は、負債総額1000億円超で再生手続きに入ったが、法務が関与して1年も経たずに不良債権を正常化し、利益を上げた。ほかにも不良債権分野において、法務部主導のもと、いくつもの事案で利益を出すことに成功している。
「つまり〝仕組むこと〞によって法務部も〝儲けようと思えば儲けられる〞わけで、会社にとってはプロフィットセンターとなり得るのです。これこそが戦略法務なのですが、フロントの発想やビジネスの現場を知らなければ実現できないでしょう。プロアクティブに考え取り組み、仕組んでいけば必ず成果を出せますし、〝法務は間接部門〞という意識や受け身の姿勢を変えていけば、仕事の領域は拡がり、人のネットワークもでき、社内で恩も売れ(笑)、成果も上がるわけです。それが個々の部員にとっての法務の面白さ、やりがいにもつながると、私は考えています」
複数の企業が合併し、社内弁護士をはじめとする中途入社者も多い同社法務部。36名のカルチャーもバックグラウンドも、多種多様だ。金井氏は「個性の強い人が多く、クセのあるメンバーもいる中で、それをまとめ上げるのはなかなか大変」と笑う。しかしここでなら、社内弁護士や法務部員としての誇り高きビジネスマインドを育むことができるに違いない。