「弊社はオプティクス(光学)とイメージングプロセス(画像処理)を組み合わせた多様なビジネスを推進する企業です」
キヤノン株式会社の法務統括センター所長の田井中伸介氏に、「現在のキヤノン株式会社の事業をひと言で表すと?」と質問をしたところ、この答えが返ってきた。
「この2つの組み合わせで弊社の事業は成り立っているといえるでしょう。レンズの用途は幅広く、カメラや複写機、半導体露光装置などにも使われています。また、プリンターやネットワークカメラなどをはじめ、様々な画像処理の技術を活用している製品が多く存在しています」
現在、カメラや複合機などの既存事業に加え、「産業機器」「商業印刷」「ネットワークカメラ」「メディカル」の4つの新規事業を推進し、構造改革を実施している。
連結子会社は341社(2021年3月末時点)にのぼる。その法務機能を統括するのが、“CEO直轄”組織として本社内に設置された法務統括センターだ。
法務統括センターに所属する人員は約60名(国内外のグループ会社への出向者を含む)。キヤノングループの規模から考えれば、まさに少数精鋭といえるだろう。
「機能としては、統制・ガバナンスとリーガルサービスの大きく2つを有しています。統制・ガバナンスは、取締役会、株主総会の運営、コンプライアンスを中心とした内部統制システムに関する業務です。リーガルサービスは、契約書のレビューや作成、契約交渉、訴訟対応、社内における研修や法務相談のアドバイスを担います」と語る田井中氏。なお、資格や法律事務所での勤務経験はさほど重視しないため、インハウスローヤーの数は多くはないそうだ。
「法務部員として最も必要な要素は、経営に貢献すること。事業や社内業務に精通し、適切な提案ができてこそ存在価値がある。法的な検討を経て、最終的に決断を下すのは事業部や経営者です。そこに貢献できるか否かがすべて。専門的な案件などは外部の弁護士と役割を分担しますので、資格や法律事務所での勤務経験にはこだわっていません。資格があればなおよしといった感じでしょうか」
同社の法務部門には、新卒入社のプロパー、専門職として中途入社した社員のほか、他部門での勤務経験を有する社員も在籍しているという。同社では、社内の知見共有を目的とした他部門への“研修異動”を実施しているからだ。
「私が法務統括センターの所長に着任した頃から、2~3年の期限付きで法務部員に他部門の仕事を経験させています。逆に、様々な業務に精通した他部門の人員を同様に法務部門に受け入れることで、法務での仕事で得た知見を現場でも生かしてもらえればと。そのような他部門のメンバーとの“交ぜ合わせ”は、法務部員にとって会社全体の業務フローや開発現場のことなどを体感できるよい機会となっています」
法務部員にとっても他部門にとっても、お互いの業務を経験することで得られる付加価値は大きい。ただし、研修異動に際しては、本人の意向を重視する。同社におけるキャリアパスや、身につけたいスキルなどについてあらかじめ話し合い、他部門への研修異動を希望する場合は、一定程度の準備期間を経てから送り出す。リスクマネジメントを担当する小野順平課長も、かつて2年間の期限付きで人事部門の業務を経験している。
「人事制度の見直しや出向・トレーニーなどの業務を担当しました。当然ながら当該分野については、自分よりも年次が下の社員の方が仕事ができるので、正直落ち込んだこともありました。そうしたなかで、法務で培った論理的思考力を核に、どうしたら人事部門に貢献できるかを考え、仕事に取り組みました。人事部門への研修異動で得た知見は、今の仕事にも非常に役立っています」