Vol.83
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リーガルユニットに所属する20名のうち、15名が有資格者(外国法弁護士10名、日本法弁護士5名)。ほかに、パース、ジャカルタ、アブダビ、ヒューストン、オスロ、リオにも弁護士が在籍。“ワンリーガル”でグローバルプロジェクトに挑む

リーガルユニットに所属する20名のうち、15名が有資格者(外国法弁護士10名、日本法弁護士5名)。ほかに、パース、ジャカルタ、アブダビ、ヒューストン、オスロ、リオにも弁護士が在籍。“ワンリーガル”でグローバルプロジェクトに挑む

THE LEGAL DEPARTMENT

#128

株式会社INPEX リーガルユニット

インフラを支えるエネルギー事業の課題解決に“ワンチーム”で挑むインハウスローヤーたち

“的確・タイムリー”で事業けん引に寄与

油田・ガス田探索、石油・ガス採掘、各種資源の製品化および輸送などを行う株式会社INPEXは、国内最大級の石油・天然ガス開発企業だ。同社のリーガルユニットは、いわば“エネルギー分野の上流から下流”に至る全事業を法務によってサポートしている。

取締役専務執行役員・経営企画本部長兼法務担当の橘高公久氏は、同ユニットの業務内容と、その特徴を次のように語る。

「当社の事業は“リスクが多い”ことが前提です。様々なエネルギー資源を有する“国家”を対象とし、カントリーリスク、契約リスクなどを踏まえ、高度で複雑なリスク評価・対応を行う必要があります。またエネルギー業界の大手グローバル企業とアライアンスを組んだり、権益を巡って熾烈なやりとりを行うケースも多々あります。そうした状況に鑑みながら、最善の内容となる交渉、契約を行う。それが当社法務の役割です」

同ユニット構成メンバー20名のうち7割強が、外国法および日本法の弁護士で、いずれも法務経験年数10年以上という精鋭揃い。しかし、同ユニットが誕生したのは9年前の2013年と、意外に若い組織なのである。

「当社は10年ほど前、イランで大規模な開発プロジェクトを進めていました。しかし、米国が対イランの制裁を実行したことにより、数年間にわたる交渉ののち事業撤退を決定。当時、社内に独立した法務組織がなく、その機能を外部の法律事務所のアドバイスに頼っていました。しかし、社業を左右する重要な経営的判断を、今後は社内で確実かつスピーディに下す必要がある――そういった反省点を踏まえ、独立した法務組織の確立が急務であるとして、当ユニットが立ち上がりました。その後、人材を拡充しながら組織的に安定してきた現在、“社長直轄の法務集団”として、全社に頼られる存在になってきたと自負しています」

同ユニットの立ち上げを任されたのが、ジェネラルカウンセルの加藤洋光氏。また、国内の大手商社法務部10年超の実務経験を買われ中途入社後、ユニットの成長を加藤氏と支えてきたのが、デピュティジェネラルカウンセルのジャスティン・ウィルソン氏だ。

「当社は国家と契約を結ぶ一方、ジョイントオペレーションといって、当該国のプロジェクトに参加する企業同士(パートナー)の約束事も同時に管理する必要があります。各国の法律の動向、パートナーの変更とそれに伴う権益率の変動など、複層的な変化に即応し、経営トップとともに事業戦略を立てる――加藤・ウィルソン両名が中心となってマネジメントする同ユニットが、当社の難事業を支えてくれています」(橘高氏)

株式会社INPEX
日本企業初の大型LNGプロジェクトの操業主体として、INPEXが事業推進する「イクシスLNGプロジェクト」(豪州海上の沖合生産・処理施設/(株)INPEX提供)

オーナーシップが仕事の醍醐味

加藤氏に、同ユニットの具体的な仕事内容と、インハウスローヤーのやりがいについて伺った。

「EPCなどの契約関連、M&A、紛争解決、マーケティング、一般企業法務など、当社事業がかかわる法務の全体を幅広くサポートしています。“インハウス”としてのやりがいは、ずばり“オーナーシップ”にあると思います。訴訟、仲裁、M&A、制裁関連、その他政府とのやりとり――それらすべてにおいて案件の最初から最後までかかわり、シニアマネジメント(経営層)にアドバイスを提供したり、事業部とともに交渉戦術・戦略を練ったり、交渉の場にも参加しています」

同社は現在、日本企業初となるオーストラリアでの「イクシスLNGプロジェクト」という大型案件の操業主体として事業を推進している。陸上天然ガス液化プラントのEPCなどを請け負った3社連合と、工事金額などをめぐる係争が起きていたが、「無事に和解に至ったばかりだ」と、加藤氏。

「一国、一社とのやり取りならネゴシエーションも多少はラクですが、我々がかかわる案件・紛争は当事者が多いため、非常に複雑となるわけです。特にオーストラリアの案件は、当事者数も金額的にも前例がないほどの規模でした。目の前の相手との妥協点を必死で探りつつ、論理的な交渉ストーリーを組み立て、当社経営層を含めた社内外の全関係者に理詰めで説明、納得してもらい、まとめ上げるという難しい仕事です。これもまさに、オーナーシップを発揮して行った仕事の一例といえます」

また現在は、ウクライナ・ロシア問題で欧州、米国、日本などがロシアに制裁をかけている。

「日本にとって重要な関係国が行うエネルギー分野での制裁について正確に理解したうえで、当社事業の“端から端”までを見て、何にどう関係するかチェックする必要があります。また、新たな制裁が行われた場合、我々経営層の立場からするとユニットから3日程度で見解、助言、対応策などがほしい。仮に当社事業で制裁に抵触するものがあれば、継続の可否だけでなく、『続けるためにどうすればいいか』経営層と同じ視点で考え、戦略を立て、周囲を巻き込んで動かしていく必要もあります。そのように難易度が高く、かつダイナミックな仕事が目白押しの職場といえるでしょう」(橘高氏)

「ALB※」で評価されたその成果と事業貢献

経営判断の適切性をサポートする基盤として、的確かつタイムリーなリーガルリスクの把握・分析・軽減策の提案などが求められる同ユニット。日本の企業経営および意思決定の仕組みに精通し、ユニットの法務体制構築に尽力してきたウィルソン氏は、組織のあり方について次のように語る。

「40~50名規模の法務部員が所属する日本の商社に比べると、当ユニットは20名と少数精鋭ですが、意思疎通がスムーズでフラットな組織といえます。弁護士としての豊富な経験を有するメンバーが揃っているため、自立力も十分。ほとんどの案件を各自の裁量に任せ、進めている状況です。各人が自発的に、再生エネルギーなど興味のある分野の勉強会・研修に参加して知見を高めています。とはいえ、皆全体の仕事をしっかり把握しており、何かあればすぐに協力し合う――“ワンチーム”“ワンリーガル”といった共通意識がユニット全体に浸透しているんですね。一人ひとりの力に期待し、より多くの裁量を与え、実践的な取り組みのなかでさらなる自己成長を目指してもらいたい。そうやって生まれた全メンバーの力を集約しながら、経営に資する法務となっていく。それが私たちの組織マネジメントスタイルです」

こうして醸成されてきた組織力が昨年、「ALB」で高い評価を受けた。再生可能エネルギー事業案件などにおける同ユニットの成果・貢献が認められ、企業内法務の最優秀賞を受賞したのだ。受賞の背景には、同ユニットが掲げる“ビッグルール”の浸透も大きい。

「常に事業目的を把握して、法的に安全な解決策を見いだす。イエスかノーか、違法かそうでないかといった単純な答えで終わらず、相手が納得する最適解を見いだすため力を尽くす。我々は“ディールブロッカー”ではなく、事業部などに対して“サービスを提供する役割”です。ゆえに事業を推進しつつ会社の利益を守るコマーシャルマインドセットを重視します。攻めと守りを担う“パートナーとガーディアン”という言葉がありますが、そのバランスを取ることも大切にしています」(加藤氏)

最後に加藤氏から、同ユニットの展望についてうかがった。

「我々は、ユニット立ち上げ時から即戦力となる弁護士経験10~15年のメンバーを集めてきました。しかし今後は、よりオーガニックな成長を目指していきたい。日本法・外国法に限らず、若手、中堅の弁護士層も増やし、持続可能な法務組織として、経営層や事業部担当者はもとより、社外にも当ユニットのプレゼンスを発揮させていく。さらなる進化を遂げるために、やるべきことはまだまだあるということです」

※「ALB Japan Law Awards 2022」で、「Japan In-House Team of the Year」を受賞
※取材に際しては撮影時のみマスクを外していただきました。

株式会社INPEX
加藤氏、ウィルソン氏をはじめ、大手渉外法律事務所や外資系法律事務所で10年以上の実務経験を積んだ弁護士が多数所属する