Vol.84
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法務・コンプライアンス部は総勢13名で、法務課には3名が所属する。弁護士資格を有する田中・三好両氏はともに銀行の法務業務経験者。銀行法などのプロフェッショナルなので、経営層からも頼られる存在となっている

法務・コンプライアンス部は総勢13名で、法務課には3名が所属する。弁護士資格を有する田中・三好両氏はともに銀行の法務業務経験者。銀行法などのプロフェッショナルなので、経営層からも頼られる存在となっている

THE LEGAL DEPARTMENT

#133

株式会社ローソン銀行 法務・コンプライアンス部 法務課

コンビニ・バンキングの新サービスを、ビジネス現場に寄り添い、支える法務

ビジネスサイドの一員として

2018年開業の流通系銀行、株式会社ローソン銀行。現在、全国のローソン店舗をはじめ、JAバンクや地方銀行、スーパーなどにも設置されているローソン銀行ATMは約1万3500台。「私たちは“みんなと暮らすマチ”を幸せにします。」を企業理念に掲げ、ATM事業を主軸に、その事業基盤を活用した新サービスを次々ローンチしている。即時口座決済サービス、電子マネーチャージアプリなどが一例だ。

執行役員の秋山修氏は、「“コンビニATM”にとどまらず、各地の提携金融機関と連携しつつ、より多彩な機能・プラスアルファの顧客サービスを一人ひとりのお客さまにきめ細かく提供していくことが、我々のコンセプトです」と語る。21年4月には全国247の信用金庫との直接提携も開始し、ATMネットワークを拡充し続けている。そうした事業推進を、現場と一体でサポートしているのが、田中努氏と三好悠太氏だ。両名の役割を、秋山氏は次のように語る。

「一般には二線にあたる法務・コンプライアンス部ですが、法務課は、営業など一線が進めるプロジェクトを、彼らと協働で動かすことを使命としています。実際、二人は商品サービス部という一線の部門を兼務。当社は、従来の銀行とはビジネスモデルが異なるため、遵守すべき法令や規則の多い銀行において、フロンティアのポジションであることが常。よって、法務が一線としっかり結びついていなければ事が運ばないわけです」

「企業法務においては“攻めと守り”の両立が不可欠です。ビジネス部門のメンバーと積極的にコミュニケーションをとることで、法的な論点の発見、問題の早期発見と対処が可能になり、法務課として事業価値の最大化に寄与できるのだと思います。攻めのなかに守りの要素があると言ってもよいかもしれません。また、一般的にサポート部門と考えられている法務はどうしてもビジネスの先にいるお客さまとの距離ができてしまいますが、“コンビニ銀行=お客さまにとって便利で簡単で安心できるサービスを提供する”という当社のミッションに照らせば、よりお客さまに近いビジネス部門の業務を兼務できることは、非常に有意義です」(田中氏・三好氏)

株式会社ローソン銀行
ローソン銀行のマスコットキャラクターの商標出願も法務課で担当した。写真左から、ハルタム、判庫富夫(ばんくとみお。通称:トミー)、ちかさん

新たな価値の創出に関与できる

田中氏と三好氏は、それぞれ銀行の法務部出身。入社は同社開業の翌年で、法務課の立ち上げメンバーでもある。法務課長の作田俊広氏は、「開業間もない当社に『何か新しいことができそう』というワクワク感を持って飛び込んできてくれた二人です。ビジネス部門を兼務してもらったのは、その思いに応えたいという気持ちもありました」と振り返る。実際に、どのような案件に携わってきたのか。田中氏は入社直後から「即時口座決済サービス」の導入に尽力。

「当社が事業を承継したローソンのグループ会社が、コンビニATMをローソン各店に設置していたのですが、銀行営業免許を取得したことにより、当社独自の金融サービスを展開できるようになりました。そこで、コンビニATMの仕組みをキャッシュレス決済などデジタル領域に生かせないかと考え、即時口座決済サービスに関するプロジェクトが立ち上がりました。これは銀行口座から決済アプリや電子マネーにチャージができるものですが、その裏側の仕組みづくりを当社が担っています。私もプロジェクト初期からかかわり、課題の洗い出し・整理、法令上問題となるのはどのような点かなどを検討し、システム構成や運用についても担当部門のメンバーと一緒に考えました。契約書や利用規約などは、外部法律事務所の協力を得つつ、一から作成しました」

同サービスはコンビニATMの仕組みを使うため、提携する複数の銀行、チャージ先の様々なペイメント事業者との連携も必要だ。

「新しいサービスですから、契約内容はもとより、法的スキームをしっかり説明しなければ、提携先・連携先の納得も安心感も得られません。そこで、ビジネス部門のメンバーと提携先の地方銀行を訪問したりオンライン会議に同席したりして、その場で説明させていただくという機会もありました。まさにビジネス部門やシステム部門と一体で取り組んだ事例です」

三好氏が取り組んだのは、電子マネーにチャージができるアプリ「Suitto(スイット)」のプロジェクト。即時口座決済サービスは、利用者と銀行とペイメント事業者をつなぐサービスで、スイットは利用者のためのフロントアプリという位置づけだ。

「スイット立ち上げにあたり、もちろん法務としての関与はしましたが、兼務先での業務が自分にとって非常に面白かったです。例えば、どのようなUI/UXにするかなどの社内の意見をとりまとめたり、デザイン会社との調整を行ったり。法律がまったく絡まない業務に携わったことで、逆に、その経験が法務業務に生きてくるという実感があります。例えば、ビジネスを進めていくうえでの社内調整の難しさ、ビジネス部門から法務がどう捉えられているか、法務や法務情報へのアクセスの不便さなど、外から見なければわからなかったことが多々ありました。そのおかげで、法務課の改善点を見いだすことができています」

三好氏はこうした経験をもとに、法務課の業務の効率化を検討中だ。

「業務を定型・非定型で分類したうえで、私たちは極力、非定型かつリスクの高い業務に注力できるよう工夫していきたい。電子契約やリーガルテックの導入も積極的に行っています」と、三好氏。

「また、私たちは知的財産関連の業務も行っています。例にあげたプロジェクトの関連でいえば、私は即時口座決済サービスの裏側の仕組みの特許出願、三好はアプリデザインの意匠出願やマスコットキャラクターの商標出願などです。一般的な銀行の法務業務ではあまり経験できない法分野に関与していけることも、当社法務の特徴だと思います」(田中氏)

株式会社ローソン銀行
ローソン銀行ATMでは、即時口座決済サービスや「Suitto」のほか、事業者のための売上金などの入金サービス、海外送金カードの取り扱いなども行える。コンビニ・バンキングの可能性が同社の取り組みによって広がっている

横連携のできる風通しの良い組織

新規プロジェクトの初期段階から、法務としてだけでなく、ビジネスの主体者として社内外のメンバーとかかわれることも、同課の仕事の魅力だ。

「二人は弁護士資格を有し、銀行法など規制に関する専門的知見も高いので、経営層をはじめ全社各部門から頼りにされています。新たな取り組みが大好きで、知らないことがあれば、腹落ちするまで調べる努力を惜しまない。法務機能を中心に様々な部門とかかわりつつ、そこから見た当社の“あるべき姿”を常に考え、様々な提案を執行役員の秋山に日々投げかけています。田中は、日弁連の委員会活動で、“弁護士は企業でマネジメントにどう関与していけるか”を議論する機会も多いとのことで、今後、マネジメントを視野に入れて企業で働く弁護士も増えるのではないでしょうか」(作田氏)

兼務での多忙は当然だが、フレックスタイム制度やリモートワークを活用することで、田中氏は弁護士会の委員会活動や外部の勉強会に参加する時間を確保している。また、三好氏は子供の保育園の送り迎えなども問題なくできているという。現在は、作田氏以下3名の体制で、コミュニケーションも密に取り合えるため、法務課の互いの仕事も融通しやすいようだ。

今後、法務課のメンバーを拡大するにあたり、どのような人材を望むか、秋山氏にうかがった。

「ATM事業を中心に、新たな事業を模索していくフェーズは当分続くと思います。ですから、法務がプロアクティブに取り組んでいく風土は、彼らを中心に引き続き醸成していきたいと思います。また、兼務というスタイルも継続していく予定です。その経験をプラスに変え“自分の幅を広げられた”と、柔軟に捉えられる方とともに、新しいプロジェクトを動かしていきたい。そうした仲間であれば、横連携のできる風通しの良い組織体制を維持しながら、事業価値の最大化に寄与する法務課をつくっていけるはずですから」

※取材に際しては撮影時のみマスクを外していただきました。