同社は「2050年カーボンニュートラルの実現」を目指し、21年4月に、「40年までにグローバルでEV、FCVの販売比率100%を目指す」と宣言している。事業の動きに伴い、同統括部では、どのような変化があるのか。
「当社はこれまで、“ないものは自分でつくる”といった自主自立の姿勢を貫いてきました。しかし、ガソリン車からEVへの移行、CASEやMaaSなど“ものづくり”から“ことづくり”への変化を先取りして捉えていくため、現在は、その領域で知見のある他社とのアライアンスや事業再編を積極的に進めています。特に今後は、EVの核となるバッテリー領域、エネルギー・マネージメント領域、リソースサーキュレーション領域など、実力ある企業と協業しつつ、技術開発や事業開発を行っていくことになるでしょう。同業他社との協業や、メガサプライヤー、半導体メーカーなどとの提携案件も増え、従来の常識やノウハウが通用しない新たな領域への挑戦となります。そうした企業とWin-Winのビジネス関係づくりを念頭に置き、知財・法務領域でのソリューション提案を行う。“広く・深く”考えることを求められるようになったことが、仕事における変化の一つです」(羽田氏)
EV用高出力充電網の構築に向けた、同社を含む北米自動車メーカー7社による合弁会社設立、高付加価値EVの開発・販売などを目的としたソニー・ホンダモビリティ株式会社やEV電池の研究開発などを行う株式会社Honda・GS Yuasa EV Battery R&Dの設立、ソフトウエア開発推進に向けたSCSK株式会社やKPITテクノロジーズとのパートナーシップなど、提携事案も活発に行っている。
「特に異業種との協業は、商慣習や企業文化による考え方の違いなどを乗り越えていかねばならないタフな契約交渉になります。例えば、自動車に不可欠なソフトウエアが問題を起こした時、補償の責任を誰がどう負担するのかといった点――当社が最も大切にする安全・安心――をどう保証するかといったことなど、技術進化により検討したことのない課題に直面することも。しかし各領域での専門性が高いほど、融合時に新たな価値を生みますし、その違いが大きいほど期待と成果も高いので、やりがいがあります」と、羽田氏。
また、訴訟・係争部では特許訴訟などへの対応――特に「米国での訴訟が多い」と、神谷氏。
「近年はOEMを狙い撃ちしてくるパテントトロール(特許訴訟専門企業)への対策・対応が増加しています。米国訴訟は透明性が高い反面、裁判所や裁判地の特性も加味して訴訟戦略を練る必要があります。大変ですが、それこそがこの仕事の醍醐味です。また、米国での訴訟が多いことから、訴訟業務については英語を使う頻度が高く、米国の社内・社外の弁護士とメールでのやり取り、オンライン会議も頻繁です。母語が英語ではないメンバーも語学力の向上に励み、現地の専門家を交えたワンチームでの仕事を楽しんでいます」
その挑戦は、次世代事業領域にも及ぶ。例えば、eVTOL(電動垂直離着陸機)、ロボティクス、宇宙領域などだ。
「JAXAとの共同研究や、リサイクル材の研究開発など、新たなパートナーとの協働も進んでいます。文系出身者が多い法務領域のメンバーにとって技術的な分野の理解は難しいものの、実際の現場で“現物・現実”に触れる“三現主義”で、エンジニアと協力しながらビジネススキームを構築しています」(羽田氏)