Vol.87
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「任期付職員は、短期間で専門性が飛躍的に高まる働き方。まったく違う環境に身を置き、多様な経験を重ねることで自分自身の付加価値を高められる」(津江弁護士、寺川弁護士)

「任期付職員は、短期間で専門性が飛躍的に高まる働き方。まったく違う環境に身を置き、多様な経験を重ねることで自分自身の付加価値を高められる」(津江弁護士、寺川弁護士)

THE LEGAL DEPARTMENT

#148

金融庁 企画市場局 市場課

よりよい金融市場の構築と運営に向けて法令や制度の企画・立案を担う

金融庁の“法令などの企画・立案”部門

金融庁には金融機関など多様な出自の職員が所属。「官庁内部・外部の方との交流経験は、“財産”です」(両弁護士)

我が国の金融制度の企画立案、金融事業者の検査・監督などを行う金融庁は、総合政策局、企画市場局、監督局の3局、証券取引等監視委員会、公認会計士・監査審査会で構成される。企画市場局は、金融関連の法令や制度に関する企画・立案業務――銀行法や金融商品取引法などの金融関連法令をはじめとする金融制度の企画・立案などを担う部門だ。局内は総務課、市場課、企業開示課に分かれており、そのなかでも市場課で任期付職員として勤務するのが、津江紘輝弁護士と寺川和真弁護士。

「市場課の仕事を端的に言うと、証券会社などが守るべき業規制や行為規制、金融商品市場などに関する制度の企画・立案です。具体的には、金融商品取引法制に関する条文案の作成、内閣法制局への説明や国会答弁の準備などの法改正業務に加え、取引所や私設取引システム(PTS)を含めた市場の監督、金融審議会の会議体運営など。基本的にこれらの業務を市場課内にある市場機能強化室、市場企画室、市場業務室などが分担しますが、私は室を横断して業務にあたることも多いです」(津江弁護士)

「金融市場のプレイヤーは、銀行、証券会社、保険会社、フィンテック企業など多様。各プレイヤーが抱える課題に向き合い、どのようなルールを課すか課さざるかを考え、企業が円滑に資金調達でき、国民が安心して資産運用できるよう、安定的で活力ある金融システムの構築に向けて整備するのが課の役割です」(寺川弁護士)

ルールメイキングを金融の最先端で

寺川弁護士の業務は、大きく分けて2つある。一つは金融審議会(金融担当大臣の諮問機関)の会議体運営だ。

「金融審議会では、金融機関、弁護士、学者・研究者などが集まり、様々な金融制度について議論します。充実した議論の場となるよう、事前に説明資料を作成するのですが、資料作成にあたっては諸外国の金融制度を調査することもあります。審議会の委員は各界の有識者。資料には正確性が求められますから、常に緊張感を持って作成を行います」(寺川弁護士)

もう一つの法改正業務について、寺川弁護士は言う。

「法改正業務にあたっては、既存の法制度の仕組みとそれに対する課題を正確に把握する必要があります。また、改正によって各事業者・社会全体にどのような影響があるか、様々な角度から分析することも必要。そのため、事業者と意見交換したり、他省庁と連携して意見を交わしたりすることも多々あります。法改正業務において大きなウエイトを占めるのが、内閣法制局への説明です。私たちが作成した改正案について、“法制のプロ”が微に入り細にわたり行う指摘に対し、一つずつ必要な対応を検討していかなければなりません。必要に応じて上司に相談することもありますが、基本的には自分で考え、調べ、回答を整理する――各担当者に裁量があると感じています。様々な法的論点について意見を求められ、自らの力で答えていくことは、責任は重いものの、私にとって非常にやりがいのある仕事です」

津江弁護士は、会議体運営や法改正業務に加え、取引所やPTSなどの市場を監督する市場業務室、証券会社などを監督する監督局と連携した事業者対応も行う。

「例えば取引所やPTSに関連する規制の法解釈や制度設計も行っているので、流通市場の監督を行う部署と協力することもあります。法解釈について責任を持つのは企画市場局なので、例えば、私たちが法制度の趣旨などを事業者に対して説明し、事業者の疑問に答えることなどがあります」

津江弁護士はほかに、フィンテック分野も担当する。

「私が所管するセキュリティトークンに関する法制は、日本が世界に先駆けて整備を進めてきました。逆に言えば、手本や明確な答えがないなかで、よりよい改善策、解決策を見いださねばなりません。加えて、そもそも新しい技術を理解することも、とても大変な作業です。しかし『事業者が何をしたいのか』『その技術を使うことでどのような新規性やメリットがあるのか』『新たな制度はきちんとワークするか』などを関係者と議論し、“あるべき制度”を考えていく作業は、複雑かつ慎重な議論と高い専門性が求められる、挑戦しがいのある仕事です」

  • 「制度変革の過程、転換点に身を置けることは貴重ですし、任期付職員ならではの経験だと思います」(両弁護士)。なお、両弁護士が携わった「顧客本位の業務運営の確保」などに関する改正を盛り込んだ金融商品取引法等の一部を改正する法律案が両院で可決され、2023年11月29日に公布された。写真/金融庁会見室
  • 写真/庁内のラウンジ

“自らの世界”を広げるチャンス

「日常のあらゆる場面で“決断”を求められる」と、両弁護士。

「自分の出した答えが日本全体、時には海外にまで影響を与えることもあるので、自分の考えは本当に正しいのか常に自問自答します。規制を緩める際には、ほかの法律に抵触しないか、公益や投資家保護の観点からの問題点はないかなど、関係者としっかり議論し、関係部局と相談しながら方針を決めていきます。しかしそれ以前に、問題となる法律の条文といったミクロな視点だけでなく、関連する分野や様々な法令・制度を勉強しておかなければ、確信を持って議論や交渉を行い、制度をつくることはできません。多角的な視点から考え、分析し、議論し、決断するための学びを日々深め続けています」(津江弁護士)

「弁護士業においても“業界知識”は必須ですが、制度をつくっていくには、より深く正確に業界の実態や業界慣行などを理解する必要があります。それは“本を読んで知識を蓄える”ことだけでは得られない知識です。他の部局の職員と意見交換したり、事業者や関係者の話も聞いたりしながら、必要な知識を吸収して決断しています」(寺川弁護士)

金融庁が両弁護士に期待するのは、最先端分野も含めた金融関連法令の幅広い知見を持って、周囲へよい刺激をもたらし、職員および組織の専門性向上に寄与してくれること。その期待に応えつつ、どのようなキャリアを描いていくかをうかがった。

「金融分野は、証券会社なら金融商品取引法、銀行なら銀行法、保険会社なら保険業法など横への広がりがあり、さらに各法律の下には施行令や府令、監督指針などがあって縦へも広がるほか、業界団体が策定する自主規制規則や金融事業者の自主的な取り組みを期待して金融庁が公表しているプリンシプルがあるなど複雑な分野です。このように幅広で、複雑難解な金融の法分野に興味関心を抱いていたのと同時に、一度、しっかり“中(金融庁)”で腰を据えて向き合う時間があればとの思いもあり入庁しました。仕事を通じて、金融分野に関する様々な知見の体得、法律を精緻に読み解く力が身についたと感じます。特に、行政組織の論理や考え方、物事が決定していくプロセス、法改正の流れなどを内部で実感できていることも、私にとっての大きな価値であると感じています。こうした様々な経験を広く社会に還元していくことが、今後のキャリアのなかでは求められていると思いますし、個人としてもそうしていきたいと考えています」(寺川弁護士)

「法律事務所にいた頃から、銀行、保険、証券分野で、様々な金融法務に携わってきましたが、金融法務や関連する法律は“知れば知るほど奥深い”と感じる毎日です。これからも金融規制の専門性の深化を図っていきたいです。また、海外の金融規制も学びたいと考えているので、海外留学も視野に入れています。ちなみに省庁勤務は土日祝の休みが取れるので、留学に向けた語学の勉強などの時間もしっかり確保できています。国内外の法制に関する理解を深めていきつつ、さらにその先は、社会をよりよいものにしていくための仕事もできる弁護士になっていきたいですね。こうした目標は、会議体運営などに携われたおかげで見いだせたこと。ここでの一つひとつの経験が、自分自身のキャリアの礎になっていることを実感します」(津江弁護士)