Vol.90
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「日本ではめずらしい“スタートアップ×メーカー”で、ものづくりにイチから携われることが、当社法務の魅力です」(大日方氏)

「日本ではめずらしい“スタートアップ×メーカー”で、ものづくりにイチから携われることが、当社法務の魅力です」(大日方氏)

THE LEGAL DEPARTMENT

#158

株式会社SkyDrive 法務・コンプライアンス部門

“空の移動革命”のトップランナーとして、法的知見を武器に“当事者”として事業推進

求められるのは質とスピードの両立

株式会社SkyDriveは、次世代の空の移動手段として注目される”空飛ぶクルマ(eVTОL)”の社会実装に向けて機体開発を行う、日本発のスタートアップ企業だ。設立2年後の2020年には、日本で初めて空飛ぶクルマの有人飛行に成功。25年開催の大阪・関西万博「スマートモビリティ万博」で空飛ぶクルマの運航事業者に選定されたことから、同社を知る人も多いはず。”空の移動革命”のトップランナーとして、積極的に他社と業務提携を行い、大型プレオーダー契約を続々と取り付けている。法務・コンプライアンス部門のメンバーは、そうした事業を全方位で網羅し、法務の観点からプロアクティブに業務を推し進める。部門責任者の福田晋吾氏は、「事業の初期段階から事業部門などとビジネススキームや条件を提案し合い、一緒に事業をつくっている。国内外の契約交渉にも積極的に参加する」と話す。同部門が関与してきた事案を、リーダーの大日方真一氏にうかがった。

「当社は”空飛ぶクルマ”開発の根幹となるシステム・装置などの大型開発と調達において、国内外の業界大手・有力企業と数多く契約してきました。例えばフライトコントロールシステムを扱う仏・タレス社との開発・調達契約にあたっては、我々法務もスキームの検討から、50ページを超える英文契約書のドラフティング・レビュー、条件交渉などを行い、案件を推進。調達部門や開発部門とワンチームでビジネススキームを検討・議論し、毎日のように相手方と交渉を続け、早期契約妥結に至りました」

同社では米国市場参入にあたり、その第一歩としてサウスカロライナ州に米国法人を設立し、チャーター機運行会社ブラボーエア社とユースケースの共同事業開発をジョージア州で開始した。国内では、機体製造・量産体制構築にあたってスズキ株式会社の協力の下、製造子会社を設立。また、九州旅客鉄道株式会社と連携協定を締結し、同社が持つ鉄道駅や商業施設などを活用した空飛ぶクルマの運行ルート開設実現に向けた事業検討を始めている。アジアではインド・グジャラート州政府や、タイの大手財閥サハグループ・サハ東急との戦略パートナーシップMOU締結も完了。今年公表されただけでも、これだけの事案数である。

「急激に進化する業界・事業なので、何事もスピーディーに対応・決断する必要があります。急に持ち上がる業務提携案件では、1週間以内に妥結までもっていかなければならないといったこともよくありますし、部門方針として契約案件は基本的に3営業日以内の対応を課しています。”質とスピード”の両立のためには、多忙な中でも自ら時間をマネージする力が求められますね。現状の法務は少人数体制なので、すべてを同時に進めていくことは大変ですが、これこそがスタートアップ企業ならではの醍醐味だと思います」(大日方氏)

株式会社SkyDrive
交通・物流のラストワンマイルを担う同社。2024年7月、九州旅客鉄道株式会社と連携協定締結。エネルギー、金融、商社など、多様な業界から注目が集まる(提供:SkyDrive)

法律も規制も未整備の領域に挑む

部門責任者の福田氏は、同社法務の魅力を「法務の立場でありながら”参謀”ではなく、事業推進を第一に考え”当事者”になれる。新たな産業づくりに自分も参加できることが最もエキサイティング」と話す。とはいえ新たな産業は、法律や規制が未整備だ。

「プロジェクトマネジメント部門、品質保証部門や航空安全推進部門を中心に、国土交通省や経済産業省とルールメイキングを進めていて、法的な知見が必要となれば我々も支援を行います。業界トップランナーとしての判断は、新産業全体への影響力が大きい。その重責を背負いながら即断を求められる場面が多々あります」(福田氏)
 
先例がないなか、”自分たちの向かう先”を、関係者全員で模索しながら進む日々だ。福田氏は言う。

「例えば機体メーカーである当社とサプライヤー間で機体開発に関する契約を結ぶ際、『どこまでを当社の役割と責任で行うか』といったことについて仮説を立て、役割分担を明確にします。その仮説を立てるにあたり必要なのは、法務視点での想像力。『このシステムや部品はどの部分にどう組み込まれるのか?』『この機体にこのシステムや部品を加えるとどうなるのか?』といった技術的な疑問や問題点についても、航空機や自動車など類似関連業界の知見を応用し、”リーガルからのイシュー”として事業部門、技術・開発部門、調達部門など他部門に提案・共有し、プロジェクトをドライブしています」

”現場と一体”で業務遂行してきた法務の社内プレゼンスは高い。「経営陣をはじめ、メンバーも、ありがたいことに我々の意見を尊重し、リスペクトしてくれています」と、福田氏。

「部門責任者の私も経営会議に出席しており、契約関係については法務がOKと言わなければ通りません。とはいえ、『法的なリスクがありそうだ』と不必要にブレーキをかけるだけだと、必要な開発が止まり、経営自体にマイナスの影響が出る。ですから私は、経営陣に対しても各部門に対しても、”イエス、バット”ではなく”イエス、アンド”の姿勢で対応策を提案することを徹底しています」

  • 株式会社SkyDrive
    空飛ぶクルマ「SKYDRIVE (SD-05)の開発を行う。”空を活用したエンターテインメント事業”にも参入し、ドローンショー事業者と業務提携を締結。
  • 株式会社SkyDrive
    30kgの重量物を運ぶドローン「SkyLift」の運営などを行う。能登半島地震の際は「SkyLift」を用い、物資輸送などの被災地支援も行った(提供:SkyDrive)

自律・自働と柔軟性を重視

同社が掲げるミッションは、「100年に一度のモビリティ革命を牽引する」。その実現に向け、法務は「経営・事業への支援・提言・推進機能」「リーガル・コンプライアンスリスクマネジメント機能」「法務・コンプライアンス関連業務管理機能」すべての強化に挑む。

「我々は経営陣、他部門、グループ会社の戦略・方針・事情を熟知した、彼らにとって最も身近で頼れる存在として『よい町医者になろう』というスローガンのもと、国内法務、国際法務、M&A・投資案件、国内外の新規グループ会社設立・運営サポート、法務・コンプライアンス相談対応など幅広い業務に携わっています。近い将来にIPOを目指しているため、上場企業にふさわしいコンプライアンス・ガバナンス体制の強化も急務です。また中長期的には、人権侵害などESG観点でのリーガルリスクやレピュテーションリスク対応のための、全社方針企画と推進も図っていきます」(大日方氏)

航空機、自動車、機械などのメーカー、商社、金融機関、コンサルティングファームなど、国内外の多様な業界・企業から集まった同社のメンバーは、24年7月現在で約500名。うち、海外から参加したメンバーも10%程度と、増えつつある。「規程類の整備だけでも大変だが、そうした多様なメンバーと意見交換し、コミュニケーションできることが刺激的で、やりがいがある。セクショナリズムにも無縁で、すぐにワンチームになれる風土です」と、大日方氏。

最後に、同社で活躍できるのは、どのような資質を有する人材か、福田氏にうかがった。

「”100年に一度のモビリティ革命”の実現と、”誰もがいつでもどこでも移動できる産業・世界の構築”を目指したい。社内外の関係者とチームになって、”事業創造”を楽しみたい、そうした意欲・志向を持つ方にとっては、面白い仕事ができる職場です。一方でスタートアップならでは、走りながら考え、判断する場面が多く、”朝令暮改”も多々あります。許容度があり、変化を楽しめて”自力で階段を登れる(自律的・自働的に行動できる)人”でなければ、日常がストレスになってしまう恐れはあります。誰かが手をひっぱって、導いてくれる環境ではないのですが、”階段を登ろうとする人”には、周囲がバックアップを惜しまないことが当社のカルチャー。この環境を生かし、全体最適の観点から自働・発信し、”よいおせっかい”をかけられるような方と働いていきたいですね」