Vol.88
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法務部メンバー15名のうち、約4割がキャリア入社者。部内には、渉外系法律事務所出身者1名、企業法務部出身者1名、法務部在籍中に法科大学院へ進学し弁護士資格を取得した1名、計3名の日本法弁護士が所属する

法務部メンバー15名のうち、約4割がキャリア入社者。部内には、渉外系法律事務所出身者1名、企業法務部出身者1名、法務部在籍中に法科大学院へ進学し弁護士資格を取得した1名、計3名の日本法弁護士が所属する

THE LEGAL DEPARTMENT

#150

日本航空株式会社 法務部

「世界で一番選ばれ、愛されるエアライングループ」の法務部

15名で約140社の法務業務を担当

“ポストコロナ時代”に入った今、ESG戦略を経営戦略の最上位に置き、事業構造改革を加速させている日本航空株式会社。FSC(国際線・国内線)およびLCCによる航空旅客事業、貨物郵便事業、ならびにマイル/金融やコマースなどの非航空事業で事業ポートフォリオを再構築し、JALグループ全体でカーボンニュートラルや航空人財の確保といった課題に向き合いながら、中長期的な成長を目指す。

現在、同社の法務部は15名体制で、グループ約140社の契約審査、法務相談、訴訟対応といった法務業務に携わっている。2年前から同部配属となった西村優一氏に、組織体制について聞いた。

「当部には、課やグループが存在しません。そのため、各自の担当業務に関する報告や相談が部内で横断的かつ活発に行われています。担当業務は、法分野と組織の2軸で割り振られており、2、3年ごとにローテーションを行っています。そのようにして、一人ひとりがどの分野の相談にも対応できること、表層的な知識ではなく、深い理解と経験に基づいた議論ができるようになることを目指しています」

例えば、西村氏は法分野では会社法と独占禁止法、組織では調達本部と経営管理本部を担当している。一方、大手法律事務所出身の岡田倫実氏は、個人情報保護法、知的財産法、下請法、消費者法、環境法、組織では空港本部、客室本部、イノベーション本部を主に担当している。法務部長の山路啓夫氏は、弁護士である岡田氏への期待を次のように語る。

「弁護士は“法律のプロ”ですから、アサインしている担当業務に留まらず、幅広い領域で積極的に関与して、当社を法務面から牽引してもらいたいと期待しています。それが十分できるだけの素養や、高度な専門知識を有していると考えています」

日本航空株式会社
2024年1月に初就航した国際線新主力機エアバスA350-1000型機。国際線従来機に比べ、省燃費、かつ低騒音の環境に優しい機材であり、CO₂排出量の15~25%削減を実現するとともに、日本出発便の燃料搭載量の1%相当をSAFに置き換えることでサステナブルな未来を実現していく(写真提供/日本航空株式会社)

ビジネス現場、さらに“経営”の近くでも活動

岡田氏は、これまでどのような案件に対応してきたのか。
「非航空事業では、空飛ぶクルマやドローンの実証実験、NFT販売事業など様々なプロジェクトに携わりました。例えば、鹿児島県大島郡瀬戸内町と当社は、共同出資にてドローン運航事業会社を設立し、災害発生時の孤立集落への緊急支援物資輸送や、島民向けの医療関係品や日用品の定期配送など、島の暮らしを支える住民向けサービスを開始しました。運航管理や物資輸送に関し、自治体、荷物を受け取る島民の方、物資の卸・小売り各社と様々な契約を締結するにあたり、各プロセスにおけるリスク評価にとどまらず、プロジェクト全体を鳥瞰して多角的な検討を行う必要がありました」
岡田氏の仕事の原動力は、「飛行機・空港が好き」という思いが叶えられる業務内容と、現場や事業部との距離の近さにある。
「空港本部や客室本部の案件では、お客さま対応に関する相談を現場のスタッフから直接受ける場合もあります。また、海外拠点からも直接相談が寄せられるため、航空事業=グローバルということも実感できます。そのように国内外の“航空の現場”を直接肌で感じられることが、インハウスローヤーの魅力だと思います。一方で、非航空事業では、未知・未経験の領域かつ最先端の法分野もかかわってくるので、私にとっては弁護士としての知見を広げられる良い機会となっています。ドローンプロジェクトもそうですが、新しい技術やビジネスモデルについては、事業部の方々が初心者の私でも分かるように教えてくれます。事業部の皆さんと積極的にコミュニケーションを取ることで、私自身の知見を深めながらも、事業部の皆さんが気軽に法務相談できるインハウスローヤーとして、事業部に寄り添いながら新しい事業を一緒に実現していきたいです」
西村氏は異なる観点から、同部の仕事のやりがいを話す。
「法務の立場から、JALグループ全体の経営にとって重要な案件に関与できることが、この仕事の醍醐味です。新型コロナ禍では旅客需要が大きく落ち込み、航空業界は未曽有の危機に直面しました。当社がその時に得た教訓の一つが、あらゆるリスクを想定した備えの大切さです。この教訓を踏まえ、当社は非航空領域を中心に事業の多様化を進めており、グループ外の企業と合弁会社を設立する案件が増えています。私は会社法担当として、これらの案件に初期段階の議論から参加しています。また、それ以外にも調達本部の担当として、英文で数百ページにも及ぶ航空機の売買契約のレビューや、メーカーとの交渉の進め方に関する提言を行うこともあります。私は入社5年目、当部に配属されて3年目ですが、仕事において年次は全く関係ありません。自らの見解がすなわち法務部の見解として取締役会の資料に記載され、経営判断の参考となることもあります。その責任の重さを常に感じていますが、非常にやりがいの大きい仕事です」
  • 日本航空株式会社
    各自で社外セミナーを受けるなど、担当法分野への“アンテナ感度”を高めている。週に2回の部会で、担当案件や自ら学んだ法分野の最新情報などを共有
  • 日本航空株式会社
    コアタイムなしのフルフレックスで、テレワークを週3日実施。「ワーケーション」や、「ブリージャー」も推進している。「メンバーとコミュニケーションを取りながらきちんとアウトプットを出していれば、働く場所・時間はまったく問わない」と、山路氏

助言だけではなく、提言できる法務部に

「航空業界には、業界特有の難しい法的対応、ルールがある」と、山路氏は言う。

「私たちは航空運送事業者なので、航空法、商法等の法律のほか、モントリオール条約等の条約、運送約款といった規範がベースにあります。事業活動を行っていくうえで様々な課題に直面しますが、自国に限らず他国のルールを考慮して、関係する当事者の満足度が高くなるような、妥当な結論に至ることを目指します……と、言うのは簡単ですが、非常に難しいですね。課題の解決には、組織にとらわれず、自国を超えて現地国の関係当事者や弁護士との交渉・協議も行います。国民性に起因する考え方の違いを感じることもありますし、自分たちの利益のみを考慮しすぎていないかと自問自答することも多々あります。事業活動を通して社会に貢献する企業ですので、結果が社会に受け入れられるかという視点は外せません――冗談ではなく悩みが尽きません。航空業界以外の方と協業すると『そういう仕組みになっているのですね』と言われることがよくあります。航空業界に身を置いてみなければわからない、実状に即した対応・法解釈が必要となるケースが多々あって、これを十分に理解している弁護士は日本では少ないと私は感じています。ゆえに、岡田のような弁護士にとっては特に開拓すべき領域が広く、面白く感じられるのではないでしょうか」

「プロフェッショナルとしての組織的知見の提示と、経験の蓄積および経営視点に立ったプロアクティブな提言」を、ミッションに掲げる同部。

「リスクを未然に低減する予防法務、紛争に対応する臨床法務はもちろん、経営判断に資する活動を軸足に置く戦略的な法務部を私たちは目指します。単なる助言だけにとどまらず、提言を行っていくということです。その実現には、航空業界にかかわる法務人財をしっかり確保・育成していく必要があります」(山路氏)

同社では、過去の経営破たん以降、「全契約を法務部が確認している」と、山路氏。

「この部分の効率化をはじめとして、案件やリスクに関するナレッジの共有と継承のため、DXを積極的に推進していきたいと考えます。そうして、一人ひとりの個の力、そしてチームとしての生産性と価値創造力を高めつつ、よりリスクの高い事案に、法務部として力を注いでいきたいですね。法務部が関与していくべき領域は狭まることがないと思っています。弁護士資格の有無を問わず、様々な価値観やバックグラウンドを有するメンバーを集め、広く社会に受け入れられる結論、妥当性ある結論を導き出せるよう、多様な観点から議論を深められる組織にしていきたいと思います」(山路氏)