Vol.85
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法務部 法務グループは8名の陣容(新卒・中途の割合はほぼ半数)。中途入社の場合、同時期に入社した仲間と受ける基本研修がある。「他部署のメンバーと交流を深められる良い機会です」(宇佐見氏)

法務部 法務グループは8名の陣容(新卒・中途の割合はほぼ半数)。中途入社の場合、同時期に入社した仲間と受ける基本研修がある。「他部署のメンバーと交流を深められる良い機会です」(宇佐見氏)

THE LEGAL DEPARTMENT

#137

株式会社ファンケル 管理本部 法務部

グループ全体の法務として経営に寄り添い、新たなチャレンジによって個々の成長を促す

グローバル展開を支える法務

化粧品・健康食品などの研究開発・製造・販売を行う株式会社ファンケル。1970年代後半、化粧品が原因となる皮膚障害を被る女性が急増した。ファウンダー・池森賢二氏が同社を起業したのは80年。「化粧品公害」という社会問題の解決を図るため、防腐剤などの添加物を一切排し、化粧品の過剰使用を防止する小さなパッケージの「無添加化粧品」を世界で初めて開発し、その販売をスタート。以来、「正義感を持って世の中の『不』を解消しよう」という創業理念が現在に引き継がれる。ちなみに「健康食品」ではなく「サプリメント」という言葉を使い始めたのも同社が日本初といわれる。そのように無添加化粧品およびサプリメント業界のパイオニアとして成長を続けてきた同社は、2021~23年の中期経営計画に、「社会環境の変化に即応し、国内外で持続的な成長を実現」を掲げている。この方針のもと、同社法務部が遂行している業務・役割などについて、部長の山城正治氏にうかがった。

「大前提として、ファンケルグループ全体の経営を法的な面からサポートしていくことが、我々の使命です。なかでも、中期計画で打ち出された方針に伴う“グローバルのガバナンス強化”が喫緊の課題であると考えます。グローバルビジネスを展開するにあたり、国ごとに異なる法令や商慣行などに迅速に対応しつつ、契約業務の法的サポート、海外グループ会社における規程整備などの法務整備・支援に注力しています」

同部の主な業務内容は、①全社コンプライアンスの強化・実践、契約審査、法律相談などの企業法務、②国内外の商標調査や商標出願などの知的財産関連、③ガバナンス関連業務として、グループリスク・コンプライアンス委員会の事務局運営と、大きく3つに分類される。法務グループ課長・吉田忍氏は、部の特徴を次のように語る。

「私たちは、決裁基準一覧の作成や管理、各種稟議の受け付けも行っているため、さまざまな案件の進捗状況や関係者の動きを早い段階でキャッチアップしています。それらの情報を精査し、必要であればつなぎ合わせ、3つの業務分野それぞれで、経営に対する提案を進めています。また、常にビジネスの一歩先を見据えた提案を心がけており、商品企画部門や海外部門と連携し、展開可能性のある海外各国の商標の調査、海外商標出願・登録をかなり積極的に行い、いつでもビジネスができるようにしている点も、当部の特徴といえるのではないでしょうか」

株式会社ファンケル
本社は横浜市中区。サステナブル宣言のもと、地元高校生向けにSDGs講座を開講するなど地域の社会活動にも積極的に取り組む(写真提供/株式会社ファンケル)

社内の法的リテラシー向上に弁護士が寄与

海外での販売は販売代理店への卸販売と自社による越境ECがメインで、化粧品関連事業、サプリメント事業(栄養補助食品関連事業)を、アジア・北米で積極展開している。加えて今年、中国での一般貿易販売も開始した。中国の医薬品企業グループとの連携・ネットワークを生かし、中国国内の薬局や医療関連施設などでのサプリメント販売を計画している。そうした事業展開で頼られているのが、即戦力で入社した弁護士。20年入社の和智真美氏は中国市場での展開で、22年入社の宇佐見真菜氏は国内主体のガバナンス強化で存在感を発揮。そんな両氏に、同社での仕事の魅力をうかがった。

「私は前職が法律事務所勤務だったので、そことの違いで言うと、社内外の様々なメンバーと協働できること、経営に寄り添い、ビジネスの主体者として提案や議論を行えることが醍醐味です。当社は、製品の研究開発を行うため、各種機関との秘密保持契約があります。店舗販売も行っているので、賃貸借契約も。さらには事業内容がそれぞれ異なる、グループ会社の契約書も見ます。そのように契約書一つとっても、多岐にわたる知識と対応力が養える環境です。また、コンプライアンスやハラスメントなど、特に役職者を対象とした社内研修の講師を担当する機会も。幅広い業務に携われることに、やりがいを感じています」(和智氏)

「私は法律事務所勤務の経験はないのですが、複数社の企業法務部で経験を積んできました。多様なバックグラウンドを持つ、法律の専門家以外の方々とも協働できるインハウスローヤーの仕事が私は大好きです。当社の場合は、直営店舗の美容部員やパートなどを含めると約4000名が在籍していますが、そのうち正社員数は約1000名となります。吉田課長が話したように、決裁基準の作成や稟議受け付けといった情報が集まるフローもありますが、私にとっては、日頃のコミュニケーションの範囲内でビジネス現場の動きが察知できる、ちょうどよい規模感の会社だと思います。例えば、『経営サイドでこんな動きがあるから、この法律相談がきているようだ』とか、『ほかの部署でこんな動きがあったから、契約書にはこの内容を入れておくほうがよいだろう』など、ビジネスの全体観を推測したり、点在する情報と情報をつなげて、付加価値の高い提案やサポートを行うことを心がけています」(宇佐見氏)

勤務形態について両氏ともに「フレックスタイム制が部内にしっかり浸透しており、限られた時間内で成果を出すよう、残業をした場合は各自都合に合わせて出退社時間をうまく調整して業務に集中しています。制度をきちんと使える雰囲気があることは、働きやすさにつながっています」と語る。

弁護士としての両氏について、山城氏は次のように語る。

「部内に限らず周囲と積極的に連携を取り、法律に詳しくない部署のメンバーにも、難しいことをわかりやすく伝えていく――それを実践してくれている二人のこれからの活躍を、一層期待しています」

株式会社ファンケル
取材には、山城部長と法務グループのメンバーに参加いただいた。左から、和智真美氏(弁護士・71期/2020年入社)、課長・吉田忍氏、宇佐見真菜氏(弁護士・69期/2022年入社)

新たな挑戦が各自のプレゼンスを高める

「当社が未来を見据えた新たな取り組みや攻めの営業を遂行できるよう、社内関係者の法的リスクの理解を助け、その回避や必要な措置を講じること、10年先を見据えて必要な権利を先駆けて取得していくことも私たちの責務です。これらを実施するためには、社内外の情報や法令情報などをいち早くキャッチアップし、経営や他部署から頼られ、信頼される部であり続けることが大切です」と山城氏。メンバーは全員、キャッチアップした情報を部内だけにとどめず、経営に資する“新たな業務への挑戦”につなげている。例えば、公式SNSアカウント運用担当者をはじめとする、全従業員への教育実施もその一つ。同社では現在、通信販売が全販売チャネルの5割以上を占めるため、レピュテーションリスクへの対応が不可避だ。リスク回避と、リスクが生じた場合の対処法などをマニュアル化し、研修も企画・実施。ほかにも全従業員を対象とした「コンプライアンス手帳」の企画制作、年1回のコンプライアンス検定の実施や昇格試験へのコンプライアンス試験の導入も昨年度から着手している。

「新たな業務への挑戦は、各人それぞれの成長を促すとともに、部としての業務品質の向上と業務領域の拡大を図る狙いがあって進めています。私たちが前進するために、“変えていくことができる人材、新しいことにチャレンジできる人材”を積極的に育成していきたいと思っています」(山城氏)

新たな業務への挑戦には、同部の重要課題であるグローバルビジネス展開への取り組みも含まれる。

「英文契約書の比率も、海外事業にかかわっていく機会も増えつつあります。それができる部の体制は徐々に整ってきたので、さらに私たちが踏み込んでいける領域を広げていくべく、自分たちの英語力を高めるなど、自己研鑽を積んでいきたいと思います」(吉田氏)

「やはり“グローバルのガバナンス強化”が、これからの私たちにとって最重要のミッションです。ファンケルグループ全体で、21年度の海外売上比率は約11%でした。30年度には、これを25%に引き上げる目標です。私たち法務部も、海外子会社とのコミュニケーションの機会が、今後より一層増えていくでしょう。“Break your comfort zone(新しいことにチャレンジする)”といったマインドで、メンバー一丸となって日々の地道な取り組みから大きな取り組みまですべて、果敢に挑戦し続けたいと思います」(山城氏)

株式会社ファンケル
1980年の創業以来、「正義感を持って世の中の『不』を解消しよう」の理念をもって、無添加化粧品の製造、適正価格と機能性を重視したサプリメントの製造などを通じ、様々な社会課題を解決してきた