Vol.20
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精力的にマルチタスクをこなす若いメンバーたち。渡邉氏は「将来的に体制が強化されたら、よりライツ部門(著作権など権利回り)との連携を図り、海外に向けた事業への関与を高めたい」と語った

精力的にマルチタスクをこなす若いメンバーたち。渡邉氏は「将来的に体制が強化されたら、よりライツ部門(著作権など権利回り)との連携を図り、海外に向けた事業への関与を高めたい」と語った

THE LEGAL DEPARTMENT

#15

吉本興業株式会社 法務部

800名のタレントを擁するエンタメ業会を代表する企業で、法務部が担う仕事の数々

日本を代表するエンタメ企業で、弁護士が作った新しい法務組織

吉本興業はタレントマネジメントを基盤に、DVD・CD・テレビ番組などを制作し配信するコンテンツ制作会社。約800名のタレントと600名以上の社員が在籍している。エンターテインメント業界を代表する同社で、法務部はどのような役割を担うのか。法務本部長の渡邉宙志氏に取材した。

「法務部は総勢5名で、なかに他部門との兼任者が1名います。20代から40代前半までの若いメンバー内に女性が3名在籍。業務の特徴は一般的な法務業務が中心にありつつ、稟議(りんぎ)体制整備など本来は総務の仕事に近い部分まで関わること。また現場のトラブルもマネジメント部隊と協力して対応。さらに新規事業の立ち上げ時にはスキーム策定から関与し、子会社の管理やサポートも担当します。細かいところではプレスリリースや外部向け書簡のチェックも行っています」

広範な業務を遂行する法務部。その組織が確立したのは、最近だという。

吉本興業株式会社 法務部
法務部のある吉本興業東京本部は、廃校になった小学校にオフィスを構えている。教室はミーティングやタレントのダンスレッスンなどに、体育館は商談スペースに活用されているほか、机や椅子も再利用されている

「私が入社した2008年には、まだ法務部がありませんでした。私は、入社前から外部の立場でホールディングス化に伴う分社化と持ち株会社設立などの業務に関わっていましたが、入社後は、一人法務としてまずコンプライアンス・ガバナンス強化に着手し、一方で人員補強に取り掛かったのです。ロースクール卒業生など法律の素養があり、将来にわたって戦力として期待できる人材を採用。会社も法務部も体制が整った現在は、契約法務が中心になっていますが、先述した新規事業や他社とのジョイントが次々に生まれ、他部署からの日常的な法務相談や訴訟対応もありますので、仕事は繁忙です。また権利開発部と協力しつつ、テレビ・CM出演やコンテンツ類の契約も法務部がチェックしています」

部内の役割分担はどうなっているのだろうか。

「二人の女性メンバーが契約書チェックを担当。一人は商標権や個人情報に関わる案件も担当しており、もう一人は英語力を生かし海外との取引に活躍しています。男性では映画事業の条件交渉も含めた契約担当が1名。他部門と兼務しているメンバーは、小規模子会社のガバナンスを含めた管理を行っています。私は業務全体の管理に加え、主要会議に参加して経営判断のサポートにあたり、全社のリスクマネジメントやコンプライアンスも所管。結果として法務部は制作・マネジメント・広報・映画事業・ネット事業、DVD・CD販売、経理など全ての部署や子会社と連携を持っています」

記憶に新しいTOB※で、氏と法務部はどのような役割を果たしたのだろうか。

「国内エンタメ企業初という事案、また私自身も未経験のTOBに関われたのは良い経験でした。振り返ってみると、人気に影響されやすくゴシップも多い業界の特徴からか、多くのことがリスクと見られがち。その誤解を解くことが難しかったなと思います。しかし打診を受け、社内で調整、デューデリジェンスを受け、第三者委員会を立ち上げ、希望条件を通し、賛同決議する一連の流れ全体に関われたことは、法律家として実に良い経験だったと思っています」

※2010年、元ソニー株式会社CEO出井伸之氏が組成するクオンタム・エンターテイメント株式会社による株式の公開買い付けを受けた。

業界を取り巻く環境の変化が、法務部の業務も変えている

業界ならではの法務業務の特徴はどんな点にあるのだろうか。

「エンタメ業界は『顔を見知った関係者間のビジネス』が長く続いていました。信頼関係のもとスピード感ある取引が交わされるので、契約書が後追いということもしばしば。しかし近年はテレビ・CM出演も契約に基づいて進められます。またコンテンツのデジタル化によって、たとえば通信系ベンチャーが参入するなど取引先も多様になってきました。ですから契約の重要性とともに、作る書類も増えています。そのほかでは、当社はさまざまなキャラクターグッズを作っており、その中にはパロディー物も多く含まれていますが、『これは大丈夫ですか』と、著作権、商標権や倫理について問われるケースがあります。番組内の表現についても同様です。そのようなケースで、しゃくし定規な法解釈やリスクヘッジだけにとらわれていては、お笑いのビジネスは成立しません。社会的規範に鑑みながら、トライできるものは背中を押し、むずかしいことでも実現に向けたアドバイスができるよう臨機応変に対応しています」

まだまだ未開拓の分野も多数積極性でチャンスは広がる

吉本興業で働く魅力はどこにあるのか。また法務部にどのような展望を持っているのだろうか。

「当社では中国・台湾・韓国を中心としたアジア事業構想を持っています。また米国最大の番組製作会社との共同制作など、海外に向けての業務を拡大しています。そのなかで法務もおのずと規模・ネットワークを大きくしていくでしょう。しかし、まずは現有勢力にて業務の質量ともに向上させることが必要だと考えています。吉本興業で働く魅力については、一言で言えば『面白い』こと。机に向かう仕事だけでなく現場に出て、自分が関わった仕事がテレビなどで見られる楽しさがあります。またモノを創るための前向きな法務サポートなので、『夢』があると感じています。私は法律事務所の勤務弁護士として3年働き、新しいチャレンジをしたいと、近代的経営に向けた改革を進める吉本に飛び込みました。インハウスロイヤーが活躍している場はまだ大企業中心ですが、体制が整備されていない中小企業にも、法律のプロを必要とすることが多数あるのです。影響力を持ってプロジェクトを進められる長所もあります。チャレンジ精神を持って、さまざまな規模や業態に飛び込んでほしいと思います」