Vol.85
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法務・知財・コンプライアンス室は、約3割のメンバーが即戦力(中途)採用。同室には、ニューヨーク州弁護士資格を有する室長の畑中氏のほか、日本法弁護士、外国法資格者が所属する

法務・知財・コンプライアンス室は、約3割のメンバーが即戦力(中途)採用。同室には、ニューヨーク州弁護士資格を有する室長の畑中氏のほか、日本法弁護士、外国法資格者が所属する

THE LEGAL DEPARTMENT

#138

株式会社SCREENホールディングス 法務・知財・コンプライアンス室

半導体製造装置など、最先端事業のイノベーション加速に寄与する法務

グループ全社の法務事案を担当

株式会社SCREENホールディングスは、半導体・液晶製造装置・印刷関連機器などの産業用機器を製造する東証プライム市場上場企業である。5つの事業会社と1つの機能会社、それらの子会社を含めた国内外55社(うち海外29拠点)の持株会社として、グループ会社統制などの経営管理業務、新規事業開発推進を担っている。

2023年3月期の連結決算は、世界トップシェアを誇る半導体洗浄装置が業績をけん引し、売り上げ・利益ともに過去最高を更新している。そうした業績好調な事業会社すべてのリーガルサポートを行うのが、同社の法務・知財・コンプライアンス室だ。室長の畑中致氏に、業務体制などをうかがった。

「当室には、他部署兼任者1名を含めて総勢17名が所属しており、①法務、②コンプライアンス、③知財戦略の3チームに分けて、メンバーを配置しています。各チームの主な業務内容は、①が国内および国際契約審査・作成・助言・交渉、法律相談、法的トラブル・紛争が起きた際の訴訟対応、グループ会社の機関運営サポート、コーポレートガバナンス整備といった機関法務業務、戦略的M&A案件の実施とリーガルアドバイスなど。②は、コンプライアンス活動の推進、内部通報対応、グループ会社の法務・コンプライアンス教育・指導など。③は、知財戦略の策定、グループの知的財産ポートフォリオの構築、M&A・投資案件に関する知財評価、知財紛争・訴訟対応などです。なお知財戦略担当副室長は、機能会社として、グループ全体の知財の実務面を担う株式会社SCREEN IPソリューションズ代表取締役 社長執行役員が兼務しています。当社法務組織では、14年の持株会社体制に移行する以前から、集中型管理体制を採用してきました。それを引き継ぐかたちで、国内・海外のグループ会社の契約審査をはじめ、グループ内のあらゆる法務事案に、全員一丸となって対応しています」

畑中氏は同室が携わる仕事について、次のように教えてくれた。

「半導体業界には、いわゆる“シリコンサイクル”と言われる景気循環の波があり、約4年に一度、市況の大きな落ち込みが見られます。近年では、その落ち込みは目立たなくなるほど市場規模が拡大傾向にあり、中長期的な成長基調はおそらく今後も変わりません。我々の取引先である大手グローバルメーカー各社は海外での工場設立や設備投資を積極的に進めていますし、日本でも政府主導で新たな先端半導体メーカーが立ち上がっています。そうした環境下で、これまで扱ったことのない契約形態や法務事案にかかわる機会が増えることが予想されます。また当社では、ICTソリューション、医薬品関連機器・医療機器などのライフサイエンス分野、水素燃料などのエネルギー分野で、新規事業を次々と展開しています。そこでも、新たな契約形態や法的手続き業務といった仕事が生じてくることは明らか。法務に携わるメンバーにとって、次々とチャレンジできる環境であることが、当室の魅力だと思います」

  • 株式会社SCREENホールディングス
    洗浄装置の生産能力増強に向けて部品仕分け機能や装置・ユニットの組み立て機能強化を狙う。稼働済工場の「S³-3」「S³-4」と連結し、生産開始から出荷までを一貫して行う効率的な生産フローの実現を図る。写真上は、半導体製造装置事業(SPE事業)の最新枚葉式洗浄装置「SU-3400」
  • 株式会社SCREENホールディングス
    ウエハー洗浄装置で世界トップシェアを誇る同社。2024年1月には彦根事業所にSPE生産工場「S³-5(エス・キューブ ファイブ)」を操業予定(完成予想図)

ビジネスのスタートから関与

そうした新規事業について、同室のメンバーはビジネスの端緒からかかわることになる。

「当社の決裁システム上、申請後の協議に当室も組み込まれているので、どのような事案が進行しているか、我々は初期段階で知ることができます。実は1990年代の終わり頃、当社は米国で提起された知財訴訟――契約に基づく知財紛争や特許侵害訴訟――で、かなり苦労した経験があります。それを教訓として、開発ならばデザインレビューの段階から、知財チェックと第三者の特許に抵触していないかのチェックを行っています。また、紛争防止の観点では、契約審査も同様に初期段階のチェックが必須です。このように当室のメンバーは、新規事業開発・ビジネスへの取り組みにあたり、初期段階での知財チェックや契約チェックを怠ることなく、ビジネスの最初から最後まで、伴走しているのです」

中国の法律事務所勤務を経て、中国律師資格を取得後、日本の大学院に留学し、入社した曾天氏は、「ものづくりの現場に近いところで働けることが醍醐味」と語る。

「社外弁護士の立場だと、企業の内部まで立ち入ることはなかなかできませんが、自社の一員だからこそ、開発、製造、営業などのメンバーと密接にコミュニケーションが取れます。ビジネスのアイデア段階からゴールまでのプロセスはもちろん、つくり手がどのような思いでその事業を推進しているかについても共感できる。技術そのものに関する知見、営業の考え方など法律以外の観点を吸収できることも面白いです。また、工場見学も実施しており、自分の会社が実際に何をつくっているのか、何を販売しているのかなどを目の当たりにする機会があり、事業や製品への理解も増します」(曾氏)

法律事務所勤務を経て22年に入社した藤村啓悟氏も、仕事の醍醐味は「現場との近さと、メーカーならでは、多様な部署の人たちとかかわれること」と語る。

「メーカーには、設計、開発、生産技術、営業、品質保証、物流戦略、IT戦略など、多くの部署があります。私は法務チーム所属なので、グループ会社のそうした多様な部署から法律相談を受けますし、契約審査・作成・交渉に関与する機会も多いです。手元にバラバラと集まってきた案件が、ある時一つのプロジェクトとしてつながることがあって、その瞬間に立ち会えるのもインハウスローヤーならではの仕事の面白さ。半導体事業は売り上げ規模が大きく、売買契約一つとっても、非常に多くの社内外の方々とかかわります。自分の仕事が、そのダイナミックなプロジェクトの一端を担っていると感じられることが、やりがいになっています」

株式会社SCREENホールディングス
同社の事業領域は、半導体製造装置、ディスプレー製造装置・成膜装置、プリント基板関連機器、グラフィックアーツ機器、ICTソリューション、ライフサイエンス、検査計測、エネルギーなど

グローバル展開を支えていくために

海外売り上げ比率が、8割を超える同社。新規事業関連法務に加えて、国際法務への関与の機会も多々ある。国際法務にかかわるメンバーは特に、相応の英語力が期待される。同室では、若手人材育成の一環で、外部法律事務所から外国人弁護士を講師に迎え、定期的に実務セミナーを英語で実施。また、リーガルテックを複数種導入し、業務の効率化やナレッジデータベースの充実にも尽力する。

「“組織力は専門性と経験を持った人財の総和であり相乗である”と考えますが、当室は若手メンバーが比較的多く、リーダーとなり得る中堅メンバーが不足していることが課題です。当社が今後、さらなるグローバル展開をしていくことは必至で、クロスボーダー案件や海外での万一の紛争・トラブルといった事態に、対応し得る力を蓄えていく必要もあります。ナレッジデータベースの導入・充実は、中堅不足の補完策の一つです」(畑中氏)

若手人材を中心にチームを組み、助け合い、切磋琢磨し合うなかで、「一人ひとりの専門性・経験値を高めてほしい」と、畑中氏。同室のプレゼンスをどのように発揮していくかを、最後にうかがった。

「当社は今年、創業155年、設立80周年を迎えます。京都の印刷所の研究部門がベンチャー企業として独立し、そこから印刷関連機器、プリント基板関連機器、半導体やディスプレーの製造装置で世界のリーディングカンパニーの地位を確立してきました。22年・23年には、世界のイノベーションリーダーとして『Clarivate Top 100 Global Innovators』に連続で選出。また、“CEO直下に知財戦略担当部門と専門会社を配置し、担当役員のもと、全社知財戦略の策定と知財ガバナンスを行い、社内連携を密にして知財戦略を実行していること”などが評価され、23年度知財功労賞(特許庁長官表彰)も受賞しました。今年4月には、「人と技術をつなぎ、未来をひらく」という言葉で自社の存在意義を再設定。100年先も求められる企業になるために、既存事業の成長に加え、新しい領域に勇気をもって踏み出していきます。これらを背景に、我々は、『グループ全体の経営・事業を法的側面から適切にサポートするとともに、法的リスクの回避・低減を行うこと』をミッションに、“攻めと守りで経営に資する法務”として、全社のビジネスをしっかりサポートしていきたいと思います」