そうした新規事業について、同室のメンバーはビジネスの端緒からかかわることになる。
「当社の決裁システム上、申請後の協議に当室も組み込まれているので、どのような事案が進行しているか、我々は初期段階で知ることができます。実は1990年代の終わり頃、当社は米国で提起された知財訴訟――契約に基づく知財紛争や特許侵害訴訟――で、かなり苦労した経験があります。それを教訓として、開発ならばデザインレビューの段階から、知財チェックと第三者の特許に抵触していないかのチェックを行っています。また、紛争防止の観点では、契約審査も同様に初期段階のチェックが必須です。このように当室のメンバーは、新規事業開発・ビジネスへの取り組みにあたり、初期段階での知財チェックや契約チェックを怠ることなく、ビジネスの最初から最後まで、伴走しているのです」
中国の法律事務所勤務を経て、中国律師資格を取得後、日本の大学院に留学し、入社した曾天氏は、「ものづくりの現場に近いところで働けることが醍醐味」と語る。
「社外弁護士の立場だと、企業の内部まで立ち入ることはなかなかできませんが、自社の一員だからこそ、開発、製造、営業などのメンバーと密接にコミュニケーションが取れます。ビジネスのアイデア段階からゴールまでのプロセスはもちろん、つくり手がどのような思いでその事業を推進しているかについても共感できる。技術そのものに関する知見、営業の考え方など法律以外の観点を吸収できることも面白いです。また、工場見学も実施しており、自分の会社が実際に何をつくっているのか、何を販売しているのかなどを目の当たりにする機会があり、事業や製品への理解も増します」(曾氏)
法律事務所勤務を経て22年に入社した藤村啓悟氏も、仕事の醍醐味は「現場との近さと、メーカーならでは、多様な部署の人たちとかかわれること」と語る。
「メーカーには、設計、開発、生産技術、営業、品質保証、物流戦略、IT戦略など、多くの部署があります。私は法務チーム所属なので、グループ会社のそうした多様な部署から法律相談を受けますし、契約審査・作成・交渉に関与する機会も多いです。手元にバラバラと集まってきた案件が、ある時一つのプロジェクトとしてつながることがあって、その瞬間に立ち会えるのもインハウスローヤーならではの仕事の面白さ。半導体事業は売り上げ規模が大きく、売買契約一つとっても、非常に多くの社内外の方々とかかわります。自分の仕事が、そのダイナミックなプロジェクトの一端を担っていると感じられることが、やりがいになっています」