Vol.86
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日本の法務部門には7名(日本法、外国法弁護士含む)が所属。なお酒匂氏を含めて、中途入社者の割合が高い。グローバル法務として、中国、米国、ブラジルエリアの現地法人に在籍する弁護士との協働を頻繁に行う

日本の法務部門には7名(日本法、外国法弁護士含む)が所属。なお酒匂氏を含めて、中途入社者の割合が高い。グローバル法務として、中国、米国、ブラジルエリアの現地法人に在籍する弁護士との協働を頻繁に行う

THE LEGAL DEPARTMENT

#143

不二製油グループ本社株式会社 法務部門

グローバル化と新規事業推進に伴い、組織力増強を図る少数精鋭の法務集団

国際法務案件への関与が増加

不二製油グループ本社株式会社は、植物性油脂や業務用チョコレート、乳化・発酵素材、大豆加工素材などの開発・生産・販売を行う食品素材メーカー・不二製油グループの持株会社で、グループ全体の戦略立案および各事業会社の統括管理を担う。設立は1950年で、国内の主要事業会社(不二製油)はヤシ油の圧搾抽出をはじめとして“日本初の技術・製品”を多数有する。70年代からマレーシア、フィリピンなど現地企業との合弁会社設立を開始。現在は欧州、中国、東南アジア、オセアニア、米州に主要会社27社を展開、国内7社と合わせ34社の法務を法務部門が統括する。部門長の酒匂真純氏に同部門の仕事をうかがった。

「部門内のメンバーは、日本の事業所を担当する専任者以外、ほぼ全員が海外会社を含むグループ全体の法務を担当しています。契約書レビュー、法律相談、コンプライアンス施策の企画実施、組織再編やM&Aなどのプロジェクト支援といった一般的な企業法務に幅広く対応していますが、特に国際法務の割合が高いことが当社法務部門の特徴だと思います。法務メンバーの総合力・リーガルセンスを向上させるため、あえて業務の細分化を行っていないので、全メンバーが、国内外にまたがる案件を始めから終わりまで担当するチャンスを有しています」

同社は2024年までの中期経営計画 中計基本方針で、「事業基盤の強化」「グローバル経営管理の強化」「サステナビリティの深化」を掲げて成長戦略を推進中だ。

「米国、ブラジル、オーストラリア、および東南アジアの複数社をM&Aするなど、ここ数年、当社事業のグローバル化が加速しています。こういった動きを受けて、各社におけるPMIを我々も事業部門やほかの職能部門と連携して進めています。地域によって言語や法制度も異なるので、それぞれの難しさがあり、それがまたメンバーのやりがいにもなっているようです。また、米国子会社で保有していた大型プラントを他社へ売却するなど、近年は“買い”だけでなく“売り”の事案も増えています。そうした海外でのディールも、日本の法務部門が中心となって進めます。当然、現地法律事務所の弁護士にも協力してもらいますが、我々の仕事はプロジェクトの審査業務にとどまらず、“現場対応”の多いことが特徴です。総員7名という小規模な法務部門だからこそ、全員が“当事者”として関与し、プロジェクトリーダーとして案件を遂行する――それが仕事の醍醐味だと思います」(酒匂氏)

北米エリアのCLOを務めているRobert W. Karr, Jr.氏も、「我々は、契約業務、訴訟、労働、知的財産など様々な案件に関与しています。北米チームも日本と同様に少人数なので、必然的に各自が主体的に担当案件に臨むことが求められます。そのなかでメンバーが互いに協力し合い、事業部、プロジェクトの目標や課題解決を達成できた時は、大きなやりがいを感じますね」と語ってくれた。

そんな不二製油グループ全体の法務機能のミッションについて、酒匂氏およびKarr氏は次のように語る。

「やはり、“ガーディアン機能とナビゲーション機能”の両立です。重大な法令違反を生じさせないよう、コンプライアンスをしっかり遵守しつつ、積極的に現場に出て問題を見つけてくる姿勢を大切にしています。事業と経営に寄り添い、各国におけるリスク分析・低減策を考え抜き、法務の観点から戦略・選択肢を提案する――“受け身ではない法務”であることが我々に求められています」

このガーディアン機能の部分について、中国エリアの法務責任者、張潔敏氏が教えてくれた。

「私が3年前に入社した時、不二(中国)投資有限公司は全社員20名足らずの組織でした。当時は専任の法務担当者も不在でしたが、組織再編を経ながら、現在150名規模の組織になっています。急拡大が進むなか、従前の“人治型”から“法治型”の組織に変えていく必要もあります。そのために内部通報などの制度設計と、何よりも社員一人ひとりのマインドをどのように高めていくかといった観点でのコンプライアンス教育に注力しています」

  • 海外エリアで起こった問題対応時は、現地法人がグループ本社法務部門と密に連携を取りつつ、まずは自国での解決を目指す。写真/米国ブラマー チョコレート カンパニー法務担当、Robert W.Karr,Jr.氏
  • 写真/不二(中国)投資有限公司・法務審査部、張潔敏氏。写真提供/不二製油グループ本社

グローバル案件を支援し続けるために

グローバル化に対応できる法務メンバーを育成するため、酒匂氏は個々の能力・キャリアを踏まえたサポートを実行中だ。

「例えば昨年、あるメンバーが南カリフォルニア大学のサマースクールへ短期留学を希望したため、会社としてこれを支援しました。彼女は、北米植物油脂事業拡大の一環で行われた大手総合商社系企業との合弁会社設立に関与。その経験が国際法務で活躍したいという気持ちを後押ししたのでしょう。短期間でも、留学のチャンスが比較的早く巡ってくるのは、小規模な当社法務ならではの良さです」

なお、同部門には中国語を母語とするメンバーも在籍する。

「彼女については、日本語や英語で私たちがトレーニングするより、仕事の回し方など基礎的なことを母語で教わったほうが習得が早いと考え、中国の法務責任者・張のもとで、1カ月間実務研修をしてもらいました。これは少し長めの出張のようなかたちですが、先のメンバーと同様に、やはり良い刺激を受けて戻ってきました」

グローバル案件の増加に伴い、会話やメールを英語で実践できるレベルが必要となる。語学力を高めたいスタッフには語学研修プログラムがあるほか、法務人材としてのスキル向上のための外部研修の受講、個人情報保護士や知的財産管理技能検定の受検も支援する。

「我々は企業法務のスペシャリストであると同時に、M&A、知財、競争法など様々な企業法務分野のゼネラリストでもあります。また、甘受可能なリスクはとったうえでビジネスを前に進めるには、“リスクに関するバランス感覚”を養うことが重要です。そうした知見、感覚、能力を身につけるための支援は惜しみません」(酒匂氏)

新規事業の実現もサポート

業務用チョコレート市場で国内トップシェア、世界シェア3位の同社が、新たな事業の柱にするべく注力しているのが、植物由来の原料を使用したプラントベースフード(植物性食品:PBF)だ。

「消費者との接点を強め、PBF製品の開発や市場拡大を加速させていく目的で、日本最大級の製菓パン材料ECポータルサイト運営会社と資本業務提携を行いました。事業立ち上げにあたり、その制度設計に法務も深くかかわっています。BtoC事業に欠かせないコンシューマ寄りの法律、個人情報保護法や景品表示法などを踏まえた制度設計は、これまでの当部門にはなかった経験でしたから、担当者も新鮮な気持ちで取り組めたと思います」(酒匂氏)

また、前述の中期経営計画 中計基本方針に掲げられている「サステナビリティの深化」にも、「法務部門はこれから深くかかわっていくことになる」と、酒匂氏は言う。

「当社の取り扱い商材がパームやカカオなどであるため、人権問題に以前から熱心に取り組んできました。ですから当社は“ESG先進企業”という自負もあります。ESGについて、メインで対応するのは専任の担当部門。現在、オランダにESG情報のハブ拠点を置き、そこで法規制の動向などについて把握しています。今後は同担当部門のメンバーとより密接に連携して情報収集を行い、関連法分野におけるアンテナを高くしつつ協働していきたいと思います」

酒匂氏に、法務部門の未来についてうかがった。

「グローバルで、専属の法務部門が存在しない地域に対するきめ細やかな対応、法務体制の構築が喫緊の課題です。法務機能の役割増大に伴い、その重要性を経営も認識しているため、昨年度までは部門傘下の一グループだった組織が、レイヤーアップして法務部門となりました。日本の法務部門メンバーが、法務を含む管理全体を担う役割として、海外子会社に駐在する可能性もあり得ます。こうした動きを背景に、人員増強・拡大化の傾向は続いていくでしょう。規模が拡大しても、お互いの顔が見え、上下なく意見を交わし合える、そのような風通しの良い法務部門を維持していきたいと思います」

植物性素材による「食の課題解決」を目指し、植物性油脂、業務用チョコレート、乳化・発酵素材、大豆加工素材の4事業を展開。主要拠点は世界14カ国。国内外に約5600名を擁する。南方系油脂を中心に早くから海外展開を開始、業務用チョコレートで世界3位のシェア。「人の健康と環境に貢献する」という信念のもと、植物性たん白の研究開発・事業を半世紀以上続けてきた。2024年度までの中期経営計画では、収益性の高い事業ポートフォリオを実現するために挑戦領域の拡大を目指している