Vol.98
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法務コンプライアンス部は、約50名の陣容。弁護士は11名所属(松井氏/70期、右から2人目が岡田氏/66期)

法務コンプライアンス部は、約50名の陣容。弁護士は11名所属(松井氏/70期、右から2人目が岡田氏/66期)

THE LEGAL DEPARTMENT

#177

東京海上ホールディングス株式会社 法務コンプライアンス部

損害保険のリーディングカンパニーとして、顧客の安心を支える新事業領域に挑戦し続ける

事業環境の変化に組織力強化で対応

東京海上ホールディングス株式会社は、57の国と地域で事業を展開し、365の連結子会社を擁する保険持株会社だ(2025年3月31日時点)。法務コンプライアンス部は、グループ全体の法務・コンプライアンス機能を担い、国内外のグループ会社の支援と連携の両面から、グローバル保険グループのガバナンスを支えている。

同部は、株主総会関連や取締役会事務局などを担当する文書グループ、ホールディングスおよび東京海上日動火災保険の国内法務をはじめ、コンプライアンス、独占禁止法、知的財産関連などを所管する企画グループ、海外法務・コンプライアンスを担当するグローバルグループの3グループで構成される。21年以降、キャリア採用を積極的に進めており、現在、同部の半数近くを中途入社者が占めている。企画グループのリーダー・今里優介氏は、その背景を「国内では新規事業会社の設立が続き、ホールディングスによる法務・コンプライアンス支援を求められる場面が増えているため」と説明する。また、グローバルグループのリーダー・松井大輔氏も、「当社は国内の保険分野の知見は豊富だが、保険以外の新規事業や海外事業の拡大が進み、それらの分野で専門性や知見がある人材の力が必要になっている」と話す。

海外事業は現在、グループ利益の約6割を占めるまでに急拡大。同部の役割も、従来の国内保険事業を中心とした法務から、新ビジネスへの関与やデジタル/AI対応、買収会社のPMI、海外事業への支援強化などへ広がっている。こうした変化に対応するため、多様な知見や経験を持つキャリア人材を迎え入れるとともに、既存メンバーの成長も促しながら、組織力の強化を図っている。

保険分野以外の新規事業への挑戦も

同部のグローバルグループが担うのは、海外における経済制裁対応、AI・データガバナンス、贈収賄防止、マネーロンダリング対策、人権・ESGなど。さらには、国境を越えたグローバルイシューへの対応に加え、大型訴訟やコンプライアンス事案への対応なども行っている。松井氏は言う。

「AI・データガバナンスに関しては、海外の専門家やグループ会社との議論を活発に行っています。AIの使い方やリスク管理などは、国・文化によって尺度が様々。日本国内、日本人同士だけで議論していては気づけない課題もあります。グローバルベースでの議論を通じ、グループ一体でAIガバナンスの水準を高めていけることは、非常にエキサイティングな仕事の一つだと思います」

一方、国内では保険以外の事業領域となるソリューション事業への関与が増加。これらの取り組みに、法務部が主体的に伴走支援を行えるよう、推進体制を作ったのが、企画グループのマネージャーの一人である岡田奈穂氏。大手法律事務所出身で、入社直後からソリューション事業に携わってきた。岡田氏に仕事の進め方を聞いた。

「ソリューション事業とは、保険補償にとどまらず、お客さまが抱える多様なリスクの解決を目指す取り組みです。この領域は、保険会社として培ってきた知見だけでは対応できません。そのため法務としても、今後出現しそうなリスクを考えながら、新たな論点に向き合うことになります。私たちは案件ごとに担当者を置き、事前相談から弁護士との協議、契約締結まで一気通貫で事業部に伴走する体制への見直しを図りました。担当者が最後まで案件にかかわることで情報が途切れず、しっかりと対応できます。事業部にとっても、『何かあればこの人に相談すればいい』という信頼関係が生まれ、早い段階から課題を共有してもらえるようになりました」

こうした仕事を通じて岡田氏は、「事業部門と新たな価値を創造していく面白さを実感している」と語る。前職の国際協力銀行で新規事業企画を経験してきた松井氏にも、仕事の醍醐味を聞いた。

「前職の経験を生かして、新規事業を立ち上げ段階からサポートし、事業の規制上の位置付けの整理、モデル契約書の作成、社内ニュースの発信、契約交渉支援などを通じ、ビジネスモデル構築を支援しました。また、金融庁の有識者会議にビジネスモデルを提案し、新サービスへの適用規制に関する当局相談、規制の枠組み・解釈変更に対する要望提出などを行い、新たなビジネス手法の提案をしたこともあります。保険業は規制業種ではあるものの、当局も有意義な提案にはきちんと耳を傾けてくれます。業界のリーディングカンパニーとして、新たな付加価値の創造につながる提案を積極的に行うことができる、やりがいのある職場環境です」

岡田氏は、前職の法律事務所で金融関連のプラクティスグループに所属し、プロジェクトファイナンスを専門としていたという。

「正直、入社前は保険分野の知識がなく、不安もありました。しかしソリューション事業については、会社としても将来の事業の柱に据えるべく、可能性を探索しています。新しい事業について仲間と一緒に理解を深めていく楽しさがありましたし、そのなかで自然と保険の知識も身につけることができました。当部は、キャリア採用者を一人にしないことを徹底しており、チームで仕事を進めるなかで様々なサポートを受けられます。他方で、慣れてくればある程度裁量をもって案件を進めることもでき、キャリア採用者としても非常に働きやすい環境だと思います」

同部では、キャリア入社者とプロパー社員がペアやチームで仕事をする。「保険の実務知識はプロパーに、保険以外の専門知見はキャリアに。お互い刺激し合い補完し合って成長できる環境を目指しています」(松井氏)

グループ会社としてのシナジー創出

ソリューション事業によるグループ一体でのシナジー創出も、重要な取り組みの一つである。一例が、25年にグループ入りしたID&Eホールディングスとの協業だ。同社は建設コンサルティングが主力事業だが、防災・減災という共通項がある。そこで課題となったのが、「互いの顧客基盤をどう生かし、グループとしてシナジーを生み出していくか」という点だった。

「個人情報保護法が適用されない法人のお客さまの情報をグループ会社間で共有することについて、硬く考えれば『お客さまの同意が得られるまでは共有を控える』という判断もあり得ました。しかし、そこで立ち止まるのではなく、どのような情報であれば共有できるのか、どのような場合に同意を得る必要があるのかを整理し、一緒に営業活動を進められる基盤づくりを法務が主導しました。グループベースでのシナジー創出において、〝一歩踏み込んだ〟仕事ができたと思っています」(今里氏)

現在、グループガバナンスの運営手法の見直しも大切な業務の一つだ。東京海上グループでは従来、国内外各社の自立性を尊重する〝連邦制〟で運営してきた。

「国内グループ各社の理解を得て、各社で法務・コンプライアンス計画を策定してもらい、ホールディングスがその内容を確認・承認する仕組みを導入しました。提出してもらった計画をもとに、ホールディングスからの支援について、対話を深めることにつなげています。これもガバナンス高度化の取り組みの一例です」(今里氏)

同部は、国内各グループ会社との連携体制強化を目的に、四半期に一度、各社との定例会議を開催。また、保険事業会社とは毎月情報交換を実施。海外では、主要な海外子会社の法務コンプライアンス責任者を集めて年2回開催されるグローバル法務・コンプライアンス会議(GLCC)や、各海外拠点との四半期ごとの個別セッションで、重要課題への対策や対応方針を共有しているという。なお、個別セッションには、海外事業企画部など事業部のメンバーも参加し、事業面と法務コンプライアンスの観点を併せた議論を行っている。グローバルグループ・マネージャーの佐藤亮太氏は言う。

「GLCCなどを通じて下地をつくり、各拠点との定期的な打ち合わせや地域ごとの会議を重ねながら、相互理解を積み上げてきました。大型M&A後のPMI対応が中心だった時期を経て、現在は新たな成長戦略や課題について議論できるフェーズに入り、子会社と当部との双方向のコミュニケーションがより活発になっています」

このグループ連携をさらに発展させていくうえで課題となるのは、やはり人材の確保と育成だ。

「法務・コンプライアンスを取り巻く課題は、多様化と高度化が進んでいます。その変化に前向きに取り組み、事業部と真剣勝負の対話をできる人材がまだまだ必要です。また、法的な観点だけでなく経営としての判断を考える場面も増えました。事業や経営を理解し、それを踏まえて解決策を提案できる力が、これからの法務には求められます。そうした人材を迎え入れ、育てていける環境を整えていくことも、私たちの重要な役割だと考えています」(松井・今里両氏)