廣渡氏はまた、「事業部門や他のコーポレート部門に対して、法務のバックグラウンドを持った人材を供給していくことも、企業法務部の重要な任務」だと強調する。
「ここでいう法務のバックグラウンドですが、法的知識だけでは不十分です。それに加えて、情報を統合する能力、ものごとを分析的、論理的に考える能力、現場と積極的にコミュニケーションできる能力などを併せ持った総合力を指します。これらは法務部員として必要なものであると同時に、どこに行っても役に立つ。そんな人材を、一人でも多く育成したいのです」
そうした戦略もあって、サポートは事業ごとに担当分けしたりはせず、〝誰でも、どれでもやる〞のが原則だ。
「たばこと医薬品、食品では関連する法律も業界の仕組みもまったく違います。専門性を高めるというのも一つの方法でしょう。ただ見方を変えれば、それだけ幅広い法律や現場に触れられるということ。事業多角化により学びの場が広がったと、私自身はとらえています」
事業の中に積極的に入っていって、コンサルティングを行う。法務部内にそのスタンスは浸透したが、「コミットメントの深さには、まだ個人差がある」と、課題も口にする。
「自分のつくったソリューションを提案し、相手に納得してもらって推進するという仕事には、大きな個人リスクが伴います。失敗した時には、自らその責任を負わなければならないわけですから。そこが踏み越えられるかどうか。『鼻血が出るくらい考え抜いたものだったら自信を持て』と、常々伝えています(笑)」
法務部の独自の採用も行っており、採用は、ここ4年で8人。「現在は、いい人材が集まるという理由からロースクール卒業生をターゲットにしている」そうだ。
「司法試験に合格しているかどうかは問わず採用をしますが、試験に受かったのに、修習に行かず入社した人材も2人います。『マネジメントはおもしろい』と、生き生き働いていますよ。資格の生かし方は様々ではないでしょうか。事業会社に入るにしても、企業内弁護士にこだわらず、資格をバックグラウンドに、じかにビジネスの世界に飛び込むようなあり方が、もっと増えていいと感じますね」