芝弁護士は、断言する。
「我々は、アリバイ的な委員会の設置で難局を乗り切ろうとする姿勢が感じられた場合、依頼をお断りすることも。コンプライアンスに真剣に取組み、本気で『変わろう、組織をよくしよう』と考える企業であれば、客観的視点で徹底的に事実を整理し、問題の原因を分析して再発防止のためのアドバイスを行います。その過程では、様々な組織のしがらみ、あるいは『上司の命令でやらざるを得なかった』というような事実も噴出します。そうした組織の実像をきちんと把握し、真の解決を見据えたサポートをしたいのです」
芝弁護士がそう考えるのには、理由がある。なぜなら神奈川県警外事課長時代に、県警が組織的に不祥事を隠ぺいしたとして、他の幹部らと共に刑事事件の被疑者(最終的には不起訴処分)になった苦い経験を持つからだ。芝弁護士は、当時を次のように語る。
「警察組織内では絶対的と捉えていた上司の命令に従い、〝思考停止〞状態で正しい判断ができなかった……。事実を正そうとしなかったことが私の過ちでした。しかし、私にそうした挫折経験があるからこそ、企業組織が抱える根深い問題までを汲み取ったアドバイスができているのかもしれません」
弁護士としては異色のキャリアを持つ両氏に、これから弁護士を目指す人たちへのアドバイスをうかがった。
「アメリカでは、政治家、役人、企業幹部として、弁護士資格を持つ人が活躍しています。弁護士として鍛えられる論理的思考力や事実認定能力は、一素養にすぎません。日本もそのように、有資格者の進路の選択肢がもっと広くてもいいと思う。法曹資格を得てすぐに弁護士にならなくても、民間企業や役所などの組織で働いたり、海外留学したりするなど遠回りしてから弁護士活動を始めてもいい。そうして積み上げた経験が多いほど、それが糧となって視野が広がり、クライアントに対してより深い提案やサポートができる弁護士になれるのではと思います」